厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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<<   作成日時 : 2010/04/08 09:14   >>

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専門家のお話を聞く機会があった。よく整理されていて、問題点やら論点が頭にすっきりと入ってきた感じである。とはいえ、いくつか新たに疑問を覚えたこともあり、忘れないうちにメモとして残しておきたい。

まず、講師がおっしゃっていたのはIFRSへの移行というのはこれまでのルールベースからプリンシプルベースへの対応を迫られるということだ。そしてIFRSの最終的な解釈は解釈委員会であるIFRICだけが行うことができるのであり、これまでのように日本の会計士協会や金融庁においても権威ある解釈を提供することができないという点だ。つまり「基準に明示的に示されていないことを自分たちで判断する必要」があるし同じような金融商品やビジネスをやっていても会社によって扱いが異なることは(会計士との関係がプリンシプルベースゆえに解釈の余地があるが故)十分ありうるということだ。

負債性の金融商品を取り扱う我々の業務において、このことは極めて重要な意味を持つ。それは一般に負債性の金融資産の分類および測定はIFRS9によってビジネスモデルテスト、キャッシュフローテストなどを経て公正価値(時価=P/L)評価か償却原価評価か決まってくるのであるが、ここでいうビジネスモデルテストについて、必ずしも数値などで明確な線引きがなされないから、結局担当会計事務所との交渉事となってくる可能性があるのだ。それゆえ、上記のように同じ業態で同じ金融資産を持っていて同じような取引手法をとっていても、片方は償却原価で他方が公正価値評価ということは十分起こりうるのである。

まあそれはいいとしても、そもそも論として、いったい何のために会計基準を統一しようとしているのか、という原点の議論が忘れられているのではないか、とちょっと思った次第。というのは上記のようなことが起こりうるとなるとルール適用の安定性を著しく損なうし、外部から見た比較可能性や客観性も失われるのではないかと思う。本来国境を越えた取引の安定性、国際企業の比較可能性といったものを目指していたのなら、逆にそれを損なう結果となってしまうのではないか、とふと思った。

もう一つは、なぜ「上場企業」すべてに強制適用するのか、という点。そのことは今日「連結ベースでIFRS,個別ベースで国内基準」といったものが日本のロードマップとして提案されているというお話を聞いて余計にそう思った。つまりどちらにしても二つの基準を残すのであれば、域外取引と全く関係ないとか海外の投資家に全く関心を持たれなくてもいいといった企業にとっては国内基準のままで問題ないんじゃなかろうか、ということだ。

ワタクシは法律系の人間だから会計は基本的に素人だが、法律の世界では国際商取引での統一ルールはあっても各国の国内民商法は必ず残っていることを知っている。法律にはそれぞれ抱える国内の背景があるし、その違いはそれぞれが尊重することにしないと国対国の上下関係が生まれるからだ。だからこそ、理想的には世界統一法が望ましいとしても、現実には「最低限必要な範囲で」統一法を作るという動きになる。しかし会計の世界は法的規範と極めて近いにもかかわらず、統一というところにやたら強引かつ拙速に向かっているように思える。

もちろん国際的な資本調達を目指し国際取引を頻繁に行う企業は、取引の相手方への配慮としてお互いに国際統一ルールでやるのが望ましい。しかしながら、純ドメの上場企業などまで本当に必要なのか?という素朴な疑問は残る。二種類のルールの併存が疎ましいというのであれば、連結ベースと単体ベースで基準をわけるという発想にはならないはずなのだが。

ともあれ、方向性は決まっているものの昨今の金融危機の後始末やなお続くソブリンなどの混乱によってあちこちで今後も腰砕け事例が出てくる可能性があるかもしれない。ただ、気になった一言は「日本というのは今はIFRSにとってとっても言うことをよく聞くカワイ子ちゃん」と位置づけられているということ。日本人が海外の決めたルールをくそまじめにやってしまうというのは、明治維新以来妙に強く体に刷り込まれてしまったのかもしれないが、なんとなくその性癖が悪用されているような気がしてならない。

素人がまた勝手なことを書いてスミマセン。専門家の方からご批判等いただけると幸いです。

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コメント(7件)

内 容 ニックネーム/日時
いつも拝見してます。

『なぜ「上場企業」すべてに強制適用するのか、という点。、、、』の点に非常に同意しました。
銀行のバーゼルUにも、国内基準と国際基準があり、純ドメは国内基準で、で国際的にアピールしたいところは国際基準というすみわけで出来ていて、なおかつこの国際基準というのも各国で、微妙に違っていてもOKという立付けになっているのに、会計に関してはそういう訳にいかない点が、前々から合点がいかなかったんですが、そういう疑問が私だけでなかったということが嬉しかったです。
tatsu
2010/04/09 09:49
何度もいっているようだけれど、基本的にこういった会計制度は社会主義な規制重視であって、まったく意味なして意味えおなしていない。今考えてみれば、こんな会計制度をやった国は現在、世界経済の主役ではないので、まったく意味をもたないことをアホな日本企業は認識すべきですな。アホの会計制度を見下してIBはその裏をついて大もうけ、ついでにいえば、イスラムと中国及び独裁的な資源国家ははこんなの気にしてないよ。あーあ
かる
2010/04/10 22:26
いまだに、こういっや資本の短期的な評価を行ったあげく、アメリカの製造業はこのザマであるということは、この会計制度が世界経済にとって何もメリットがないにもかかわらず、こういった制度を導入する必要は全くないという事実に気がつかいないアホな国家がいまだに存在すること自体、ワレワレの悲劇ですね。こういった制度改革は欧米追従のアホ官僚と馬鹿なマスコミによって規制事実化することをアホな国民は認識すべきですね。まーどんなあほな国民でもマグロがワシントン条約おかしいとわかるようなことですが。
karu
2010/04/11 00:35
IFRSは、会計理論的には比較的キレイに構成されていても、原則主義ということで、実際の会計処理は企業間でバラバラになっていて、表面的な利益や株主持分額の比較はできても、実際の会計処理も考慮した企業間比較は非常に難しくなると思います。特に、金融商品に関する部分など、国や会計事務所によっても解釈や運用が異なっているぐらいですから、本来的にはそのような部分をも考慮しなければ比較はできないはずです。そのような分析ができるのは、ほんの一握りの専門のアナリストだけでしょうから、IFRSは、ごく僅かな彼らのための会計基準ということだと思います。2部上場や地方上場企業の中には、アナリストがカバーしていない銘柄も多数あると思いますが、そのような企業には全くムダ(というよりコスト等を考えると有害)な会計基準であると思います。株式市場をIFRS市場と国内基準市場に分け、国内基準での開示を継続するオプションを企業に与えるべきでしょう。
SOS
2010/04/11 11:34
tatsuさん、どうもです。会計ルールは極めて細かく多岐にわたるので、複数の基準が存在すること自体が混乱を招くから統一、というのが本来の趣旨のようですが、国内基準なんてみんな慣れているわけだから、わざわざ捨てる必要までなく、国内基準がふさわしい対象にはそれを使わせてもいいと思うんですけれどね。きちんとそのことを表示すればいいだけで。

かるさんどうもです。IFRSは必ずしもすべてにおいて資本の短期的評価を要求しているわけではありませんが、あまり資本市場フレンドリーではないと思いますね。

SOSさんどうもです。まさにワタクシの申し上げたかったことです。ただ、先にも書いたように、二つの基準を併存させることの負荷というのはやはり大きいのかもしれません。統一という思想そのものは別にかまわないのですが、本当はまず「価値観の争い」があるべきなのに、そういった議論がなく、単なる力関係で押し切られたような印象を受けます。また本来会計の背後にある各国の事情や文化や商慣行みたいなものまで考慮すべきだと思うので、一種の法規範として通用しかねないこうしたルールは、統一には相当慎重であるべきだと思います。
厭債害債
2010/04/12 00:25
最終的な判断はたしかにIFRICが行うのですが、欧州の現場では当局が「なぜそのような解釈を行ったのか?」という「?」を都度送ってくるようです。
ということは、規制当局の力はより強くなるということができます。証明責任はこちらです。

オーファーマネスル
2010/04/12 15:27
まず金融の世界を別にして、一般企業に関していうと、実はそう大変な違いはないと思っています。
現行の日本の会計基準でも、ルール主義ではありますが、多分に原則主義が織り込まれており、その意味では、既に対応している部分が多いのです。
そのように考えないと、いままで「合理的」と判断してきた会計処理を全否定することとなってしまいます。
会計基準に複数の処理方法(細かい意味で)があるのはIFRSになっても同じです。
例えば、先入先出法や平均法などの選択や、減価償却の定額法や定率法などの選択などです。
耐用年数については見積りをしなければなりませんが、現時点でも見積りは必要で、たまたま税務の耐用年数で妥当だよねと判断しているだけです。
なお、大きく影響があるのは収益の認識基準です。
日本企業の多くは出荷基準を採用していますが、IFRSでは認めていないので、検収基準を採用する必要があります。
私の予想では、単体決算もこれを機に検収基準に変更してしまうと思います。
IFRSのために社内業務体制を拡充したことにより、検収基準に対応できるようになったという変更理由です。
ということで、多くの企業には思ったほど影響はないと想像するわけです。

で、金融商品ですが、これは私も知識が乏しく、分からないことだらけですが、今の国内基準でとんでもない処理をやっているわけではないので、蓋を開けてみれば、意外と変わらない部分が多いかもしれません。

全くの推測ですが、IFRS変更の講習会などでは、大げさに説明する傾向があるかもしれません。
彼らも商売人です。
不安を煽っておいて、コンサル業務を受注したり、システム改修を促したり、監査報酬アップを要求したりと・・・
JSOXのように「喉もと過ぎれば何とやら」となると私は睨んでいますw
348ts
2010/04/13 15:02

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