スージー・ルース駐日米国大使夫人
去る2月、American Viewは、読者の皆さんからスージー・ルース駐日米国大使夫人への質問を募集した。その結果、日本や世界の各地から、仕事と家庭の両立など、さまざまなテーマについて興味深い質問が寄せられた。以下は、皆さんからの質問をもとにしたスージー夫人へのインタビューである。
スージー・ルースは、カリフォルニア州サンフランシスコにある雇用・労働法専門の総合法律事務所でパートナー(共同経営者)を務めており、夫が米国大使を務める東京とサンフランシスコの間を行き来している。ルース夫妻には、22歳の娘ローレンと17歳の息子デービッドの2人の子供がいる。
質問 スージーさんがお手本とする人物がいますか。それはなぜですか。(東京都在住の読者から)
スージー・ルース 私は常に、素晴らしい仕事と素晴らしい家庭の両方を手に入れたいと思っていました。できないはずはない、と思っていました。男性は両方を手に入れることができるのですから、女性だってできるはずです。私の母は素晴らしいお手本です。母は子供たちが学校に入ると大学に戻り、私が大学を卒業した年に彼女も大学を卒業しました。その後、母は旅行代理店の社員としてフルタイムで働きました。彼女は常に、自分がやりたいことをしていました。専業主婦であった時も、仕事に復帰した時も、やりたいことをしていたのです。そうして母は私に、やりたいことをしている限り、あらゆる選択肢が可能であることを教えてくれたのです。
質問 雇用と労働法を専門とする弁護士になろうと思ったのは、どのようなことがきっかけでしたか。(米国在住)
スージー・ルース 私はいつも、テレビや映画で見る弁護士にあこがれていました。特に気に入っていたのは、とても人気のあった法廷ドラマに登場する弁護士、ペリー・メイスンでした。彼はいつも、番組の最後の5分間に見事な最終弁論を披露するのです。十代のころ、議論をしていつも人を納得させている私を見て、母は「弁護士になればいいのに」とよく言っていました。ですから、いつも弁護士を天職のように感じていました。スタンフォード大学でアメリカ研究の学位を取得して卒業した後、サンフランシスコにある大手法律事務所で1年間、パラリーガル(弁護士補助員)として働いたのですが、その仕事がとても楽しかったので、法科大学院に進学することにしました。法科大学院に入った時には、法廷弁護士になるつもりでいました。大学院在学中に、ロサンゼルスの法律事務所を舞台にした「LAロー」という、たいへん人気のあるテレビドラマが放映されました。このドラマで描かれる弁護士の仕事が、とても刺激的で面白そうだったのです。
1991 年に法律事務所のパートナーになった時の記念写真
けれど、弁護士になろうと思ったのは、何もテレビドラマの影響だけではありません。現実はテレビとは全く違います。実は、法律問題に興味がありました。また、雇用問題を専門にすることは難しい決断ではありませんでした。現実の人間の問題を扱うことができるから、雇用問題を専門に選んだのです。例えば、勤務成績の悪い従業員への処遇について、事務所の顧客である雇用主に助言する一方で、こうした処遇が従業員にとって公正であるようにするにはどうすればよいか、といったことです。私は、通常、雇用主や企業の代理人を務めます。ですから、特定の個人の権利を守ることはありません。でも、企業が差別や嫌がらせを禁止する法律を理解できるよう支援しており、そのことに満足しています。
質問 米国と日本を行き来して、時差ぼけで疲れを感じた時には、どのような方法で心身をリフレッシュしますか。(千葉県在住)
スージー・ルース とても幸せなことに、時差ぼけを感じることはあまりありません。機内では、アルコール類は全く飲まず、水をたくさん取るようにしています。今のところ行き来した回数はそれほど多くありません。でも、いろいろなアドバイスをいただきました。機内では眠る方がいいと言う人もいれば、寝ないで起きているようにと言う人もいます。今のところは、雑誌や本を読んだり、映画を見たりして起きています。先日の旅はタイミングが良いことにオスカーの授賞式の直前で、機内でアカデミー賞にノミネートされた映画を何本か見ることができました。カリフォルニアに着くと、通常は午前中ですが、夜まで眠らないようにして、カリフォルニア時間に合わせるようにしています。日本に帰ってきても同様です。
質問 弁護士としてのキャリアを追求する上で、勇気づけられた言葉はありますか。(東京都在住)
スージー・ルース 「詰まるところ、重要なのは自分の評判と誠実さである」という言葉です。いつもこの助言に従って行動するよう努めています。
質問 お子さんが小さいころ、どのようにして仕事と家庭を両立させましたか。(米国在住)
スージー・ルース 私にはいつも家事を手伝ってくれる素晴らしい人がいたので、とても恵まれていました。毎日私の家に通って、子供たちの世話をしてくれるベビーシッターがいました。でも、常に家族を第一に考えてきたので、主な学校行事や子供が参加するスポーツの試合には必ず行くようにしました。また、勤めていた職場が家族第一という考えを理解してくれたので、その点でも私は恵まれていました。その後、約15年前に自分の事務所を設立して経営者となったのですが、事務所のパートナーたちの優先順位も私と同じでした。
職場の食事会に娘を連れていったスージー夫人(写真左端)
それでも、場合によっては妥協しなければなりません。今でも覚えているのは、娘が生まれて最初のクリスマスのことです。娘は生後6カ月で、私たちは家族全員でスキー旅行を計画していました。ところが、当時同僚だった弁護士が、重要な裁判の直前に事務所を辞めてしまい、私がその裁判を担当することになりました。そのような状況でスキーに行ってもいいかとパートナーに尋ねると、「自分が正しいと思うことをするように」という答えが返ってきました。そこで私たち家族は、スキー旅行を中止し、私は裁判を手伝いました。この時はそれでも家族と一緒に過ごしましたが、時には仕事の責任を果たすために妥協しなければなりません。最終的には何もかもうまく運びました。子供たちは(親の欲目かもしれませんが)立派に育ちましたし、私はパートナーになりましたから。
質問 スージーさんはさまざまな役割を担っていらっしゃいますが、怒りを感じることはありませんか。もしあれば、その怒りにどのように対処していますか。(静岡県在住)
スージー・ルース 怒りを感じたことはないですが、仕事と家庭の板挟みになれば、ある程度のストレスを感じるのは当然だと思います。そういう時には、優先順位をつけて、最初に重要な課題に対処し、これをきちんと片付けることが大切です。重要性の低い課題は、思うようにはこなせないかもしれません。ですから、それを受け入れられるようにならなければいけません。ストレスを減らすためには、何かの活動や趣味に費やす時間をつくることが大事だと思います。例えば、芸術、スポーツ、社会的活動、読書、料理、あるいはアウトドア活動などです。時間を見つけるのは無理と感じるかもしれませんが、こうした時間を過ごした後には新たな活力が生まれ、元気を取り戻して日常の仕事に戻ることができます。
私は、毎日、少なくとも1週間のうち5日は運動するようにしています。息子を学校に送り出し、仕事に出かける準備に間に合うように家に戻るために、朝早く起きて運動します。最初のうちは早起きは大変でしたが、そうするよう自分に言い聞かせました。そこから得るメリットが、ベッドの中で余分に過ごす数分間を上回るからです。1日中爽快(そうかい)な気分を味わうことができます。
また、できるだけ多くのスポーツ・イベントに行きたいと思っています。スポーツ観戦は何でも大好きです。自分でもゴルフ、テニス、スキーをします。私は、大学の試合にもできるだけ行きたいと思っています。サンフランシスコのベイ・エリアに住んでいるので、フットボール、バスケットボール、野球など、スタンフォード大学のスポーツ・イベントはほとんど見に行くことができます。また、大リーグのサンフランシスコ・ジャイアンツの試合やプロ・バスケットボールのNBAの試合の観戦も大好きです。けれど、サンフランシスコのNBAチームである、ゴールデン・ステート・ウォリアーズの成績はこのところ芳しくありませんね。スポーツ観戦は私をリラックスさせてくれ、ストレス解消になります。それから、買い物も大好きなので、ウィンドーショッピングでもリラックスします。ジョンに言わせれば、私の場合はウィンドーショッピングだけでは済まないそうですが。
家族でスキーへ(写真 左から2人目よりルース大使、スージー夫人、息子のデービッド)
質問 日本にいる時にどうしても食べたくなる米国の食べ物がありますか。(千葉県在住)
スージー・ルース 日本にはおいしい食べ物がたくさんあるので、今のところ、どうしても食べたいと思う米国の食べ物はありません。日本の食べ物では特にお好み焼きが好きです。これは、米国にある日本食レストランでなじみのある、おすしやすき焼きなどの日本食とはかなり違いますね。だからと言って、おすしをたくさん食べるのをやめたわけではありません。実は、私たちは日本食が大好きなのです。
メキシコ料理を食べたいと思うことはありますね。私が住んでいたカリフォルニア州でとても人気のある料理です。帰国時に、最初に行ったのがメキシコ料理のレストランでした。チップスやサルサやエンチラーダが大好きです。でも、私がメキシコ料理のレストランに行く時の一番の楽しみは、フローズン・マルガリータです。勘違いしないでくださいね。私は大酒飲みではありませんし、だいたい1杯しか飲みません。でも、フローズン・マルガリータが大好きなので、ジョンが私の誕生日にフローズン・マルガリータ・メーカーを買ってくれたことがありました。
質問 ご主人が日本に赴任されることを初めて聞かれた時はどう思いましたか。(米国在住)
スージー・ルース ジョンがこの機会に恵まれてとてもうれしかったですし、とても光栄なことだと思いました。ですが、家族や親せきからはるか遠く離れての外国での生活は、これまで経験したことがないので、多少の不安はありました。また、法律事務所のパートナーを残し弁護士業から離れることも不安でした。それまで常にフルタイムで働いてきたので、職場を離れるとはどういうことかよく分からなかったのです。でも、昨年8月に日本に来てから、心配する必要は何もありませんでした。日本は信じられないほど素晴らしい。遠く離れていても事務所の仕事ができますし、すべて驚くほどうまく行っています。たいていのことは電子メールや電話で対応できますし、日常の訴訟業務は私のパートナーが処理しています。
日本着任後に訪れた明治神宮にて(左から2人目より息子のデービッド、スージー夫人、ルース大使、ローレン)
家族(特にロサンゼルスで看護師をしている娘)に会えないことはとても寂しいですが、私は自分や夫の両親と強いきずなで結ばれています。そして、幸いにも彼らは健康で、日本に私たちを訪ねて来ることができました。両親たちの訪問は、彼らにとっても私たちにとっても、とても特別な経験でした。ジョンの両親は彼と広島に行くことができました。息子のデービッドも同行しましたから、親・子・孫3世代が、あの歴史的に重要な場所を訪れたことになります。私の両親も来日し、皆で東京散策を楽しみました。素晴らしい箱根への旅では、息をのむほど美しい富士山を眺め、箱根彫刻の森美術館を見学しました。どちらの両親も、次の日本訪問をとても楽しみにしています。先日は、娘が初めて職場から休暇をもらって日本に1週間やって来たので、皆でお花見を楽しみました。
質問 私は、2人の子供が生まれてから、ほとんど休まず働いています。妊娠中も働いていました。私が働く母親として直面した最大の問題は、仕事と家庭の両立です。日本では、保育所を設置したり補助金を付与するなどして、働く母親を支える確かな制度が整備されていないため、時間配分に苦労しています。それに、良き母親でなければならない、という精神的な負担への対処がとても大変です。働く女性にとって、依然としてとても未熟な社会に住む日本の母親に何か助言はありますか。(奈良県在住)
スージー・ルース まず、職場と家庭の両方で大変努力されているあなたは立派です。あなたがしていることは簡単なことではありません。保育所を利用できるか、手の届く料金か、という点は、米国の女性にとっても難しい問題です。簡単な解決策は思いつきませんが、日米両方の社会が、子供という私たちの最も大切な未来の資産を守っている保育士を重要な専門家として高く評価するようになれば、と思います。
良き母親でなければならないという「精神的負担」に関しては、確固たる労働観を示すことで、子供たちの良き模範となっていると考えることをお勧めします。私の子供たちは、夕食が少し遅れることに不満を言いながらも、私が仕事を持ち、事務所を経営していることをうれしく思い、私のことをとても誇りに思ってくれています。娘にとっては、私が良いお手本となったのでしょう。私と同じように専門家となり、自分自身のキャリアを歩んでいます。どうぞ、できるだけ早いうちからお子さんたちに家で手伝いをさせるようにしてください。そうすればあなたも助かりますし、お子さんたちは何かを成し遂げたという誇りを感じることができます。お子さんの性別に関係なく、あなたはお子さんに、女性は職場で平等な機会を得ることできるし、得るべきだという大切な教訓を教えているのです。
テキサス州サンアントニオで開催されたバスケットボールのイベントにて
もうひとつのアドバイスとして、働く母親たちと互いに励まし合いましょう。「どうやって仕事と子育てをこなしているのかわからないけれど、あなたはとても良くやっているわね」とお友達に言えば、そのお友達が救われます。ですから、私からあなたへも同じ言葉を贈ります。「どうやって仕事と子育てをこなしているのかわからないけれど、あなたはとても良くやっているわ」
質問 仕事と家庭の両立が必要になった時、家事と育児についてご主人とどのように責任を分担したのですか。ご存知かもしれませんが、男性と同じように自分の夢を追求したいと考える日本の女性にとって最大の障害は、日本人男性の大半が、依然として家事と育児は女性の仕事と考え、その責任をすべて女性に押し付けていることです。スージーさんは、どのようにしてこの問題を乗り切りましたか。(東京都在住)
スージー・ルース ジョンとの約束で、彼がどのように家事をこなしているかは公にしないことになっていますが、彼は子供の世話がとても好きです。子供のためなら、どんなことでも進んでやりました。これは私にとって幸いでした。それでも、何かの計画を立てたり、子供たちが何らかの活動に参加する時にその申し込みをしたり、医者の予約を取ることなどは主に私の役目でした。でも、私が子供を医者に連れて行けない時にはジョンが行きました。家事となるとまた話が違います。でも、彼は洗濯は進んでやります。幸いなことに、私には家事を手伝ってくれる人がいました。ですから、家事をすべてしなければならない女性には拍手を送ります。
質問 私は長崎市民で、長崎市と米国のセントポール市の姉妹都市活動にボランティアとして参加しています。米国での平和教育について質問したいと思います。子供たちに平和と戦争について教えるために、十分な時間が割り当てられていますか。平和的な世界の実現と子供たちの未来にとって、世界各地で子供たちに平和教育を行うことは、極めて重要であると考えます。スージーさんのご意見をぜひ伺いたいです。(長崎県在住)
スージー・ルース あなたが姉妹都市プログラムでボランティア活動をされていると伺い、とてもうれしく思います。私は、日米間の結びつきを強める上で、姉妹都市制度に代表される個人レベルの草の根外交が真の力を発揮する、と強く信じています。米国では、公立学校制度は国レベルではなく、地方レベルで運営されています。子供たちがまだ幼かった時には、私も夫も地元の教育委員会に深く関わっていました。実は、ジョンは地元の教育委員に立候補し、8年間務めました。米国では国が決めたカリキュラムはありませんが、多くの親があなたと同じように感じていると思います。つまり、子供たちが戦争と平和について学び、歴史を理解し、子供たちに世界の平和に貢献する方法について考えさせることが重要である、と感じていると思います。
休暇を過ごすルース一家
質問 妻、母、そして働く女性としての役割を、どのように切り替えていますか。そうするための特別なこつとか、バランスを取るために特にしていることはありますか。(米国在住)
スージー・ルース 私は常に、妻であり、母であり、働く女性なので、「切り替える」ということをしたかどうか、よく分かりません。また、バランスを取るための「特別なこつ」があるわけでもありません。この3つの役割を同時にこなす上で助けとなるのは、ユーモアを絶やさないことだと思います。そして、もちろん、素晴らしい夫と素晴らしい子供の存在ですね。陳腐なことを言うつもりはありませんが、妻として、母として、働く女性としての自分の能力を高く評価し、尊敬してくれる伴侶を持つことは、大きなプラスになると思います。ですから、その点では、ジョンのおかげという部分が大きいです。
質問 飛行船に乗ったことがありますか。飛行船に乗った時の体が浮く感覚は、働く女性だけでなく誰にとっても、ストレスを解消し、全く新しい人生観を得る素晴らしい方法だと思います。飛行船ツアーを提供している場所は世界に3カ所しかありません。ひとつは、サンフランシスコで、他の2つは東京にあります。(茨城県在住)
スージー・ルース たいへん興味深い質問ですね。実は、ジョンと私は、結婚した時に熱気球に乗りました。空中を漂いながら、結婚式を挙げたノースダコタ州のひまわり畑の上を飛ぶのは、なかなかのものでした。まだ飛行船には乗ったことはありませんが、ストレスを解消し、新たな人生観を得る何かをすることが重要だ、というご意見には賛成です。私は、飛行機や高層ビルから見渡す景色がとても好きです。飛行船に乗ることができる都市がサンフランシスコと東京だけとは知りませんでしたが、サンフランシスコも東京もとても住みやすい町だと思います。その両方を経験できる機会を与えられて、私は実に恵まれていると感じています。
*質問をお寄せいただいた読者の皆さんにお礼を申し上げるとともに、すべての質問を取り上げることができなかったことをおわびします。(編集部)