先週すでにギリシャ国債の対ドイツ国債利回り格差は急拡大していて、すでに書いたようにちょっと前の合意内容が所詮時間稼ぎで中身のないものであることが市場に見透かされた格好となっていました。さらにはフィッチの格下げ、短期国債をドル建てで発行する(これはヨーロッパではまともにもう出せなくなっているってことを対外的に宣言したようなもの)といったネガティブな話が相次いだことから、ついにユーロ圏の財務相が週末の緊急電話会談でなんとか市場を押さえ込めるネタをひねり出したようです。 内容は今伝えられている限りにおいては、ギリシャに対してユーロ圏から最大300億ユーロ、IMFから150億ユーロ融資できるようにするというもの。いくつか重要なポイントが今回の話には含まれています。 1. ユーロ圏からの融資は金利が5%となりそうなこと。 今回の融資は期間3年とみられますが、ギリシャ国債の3年の市場金利は金曜日7%近くまでいってますから、「市場実勢」よりはるかに安いわけです。ちょっと前にドイツのメルケル首相が基本的に安い金利で貸すことを拒んでいたわけですが、結果的にはドイツが多少折れたというイメージを植えつけました。このことは、投資家サイドからはよいニュース(ほらね、やっぱりギリシャ救済せざるを得ないジャンというモラルハザードの追認)ですが、ドイツ首相がこれまで頑張っていたことから見れば国内的な議論の種となりかねないと思います。 もちろん5%だってドイツの金利からすれば3%も上ですから、まあ説明はつくのかもしれませんが、伝え聞く世論調査で「ギリシャ追放」論が渦巻くドイツ国民にどのように説明するのか、5月のノルトラインウェストファーレン州議会選挙を前にしてちょっと微妙な問題が出てきたと思います。 2. IMFがかなり思い切った手段に出ていること。 IMF融資にはさまざまなプログラムがあって、LICs(低所得)向けの援助的なプログラムもあれば先進国の一時的な通貨危機に対応するためのプログラムなどもあり、それぞれに対応する条件が定められています。 今回使えそうなのは、SBA(Stand-By Arrangements)といわれるものです。手続きとしてはまず加盟国がIMFに対しrequestを行い、IMFとの間でagreementを締結して実行します。その上で加盟国が事態の改善のためにどのようなことをやっていくのかという一種の対外公約をLetter of Intentの形でIMFの執行役員会(executive board)に提出しそこで承認を受けて初めてお金が出ます。 このSBAプログラムでは基本的に「市場金利」が適用されますが、この市場金利なるものはSDR(IMF特別引き出し権)構成通貨(ユーロ、ドル、円、ポンド)の3ヶ月政府証券金利をウェイト付けしてベースとしており、このベースに1%ポイント上乗せする基本的金利(rate of charge)は現在1.26%です。(この短期金利連動で決まる金利が長期に適用されるところがミソです)。 SBAの公式な借入限度額は各国のクオータ(quota)すなわち出資割当額に連動しており、おおむねこれの6倍といわれています。しかしながら、この限度額はルール上も厳しいものではなく、過去では韓国の通貨危機のときに20倍もの貸し出しが行われています。今回もこの限度額は初めから無視する意向のようです。クオータの3倍を超える部分にはかなり大きな上乗せ金利を要求されるのですが、それでも平均すると今回の仕上がりは4%程度となるように思われ、市場金利より3%ぐらいは低い感じです。 ギリシャのクオータ(現在823百万SDR=920百万ユーロぐらい)の6倍では約55億ユーロぐらいにしかなりませんが、昨日150億ユーロ(16倍ぐらい)とかいう景気のいい話がでていたので、もうこれはIMFとしてもとりあえずイケイケで腹をくくったということでしょう。 こうしたことからもわかるようにIMFは最初からかなり思い切った用意をしていると思います。 さて、これを受けて懸念は払拭できたかというと、前よりだいぶましになったけれども、まだまだ先は長いし、別のリスクが新たにクローズアップされてくると考えます。 まず、ましになった点は、とにもかくにも週末に電話会議までやってギリシャをつぶさないことを決めたということで、ユーロ圏の強い意思を対外的に示す形となりました。これが実行されれば今年の資金繰りは大体(まだ足りませんが)何とかなるわけで、あとは自力でどの程度やれるかというそれだけです。今のところまだ明確にギリシャは支援要請を行っていないので、もしかしたら使わなくてもすむのかもしれませんが、いずれにしても多少安心感を増したことになります。 しかしながら、IMFが入ることによって当然要求される厳しい条件をどう考えるか。ギリシャは口ではあれほどIMFに行くと恫喝していたけれど、本音のところはIMFから厳しい条件を課せられることはいやだったはず。最大の問題は、他の諸国に比べてはるかに条件のいい「年金」特に公務員の年金とかそういった既得権にどこまで切り込めるかですが、これをやれるのかどうか。IMFのストロスカーン総裁からはいきなり次のような厳しいコメントが出ています 「ギリシャ問題を解決する唯一の実効的な選択肢はデフレである。」 やはり先は長いし、問題がこれで解決されたわけではないことはもちろんです。 もうひとつはドイツの政治。結局のところ市場がギリシャに要求した金利より低い(とみられる)レベルでお金を貸さなければならなくなったドイツ首脳が国民にどのように説明するか、という問題です。州議会選挙が控えている中で、大きな争点となることが予想されます。本来ユーロという仕組みは、弱い国にとっては切り下げができないという足かせでまさにそれが問題なわけですが、強い国にとっては、「切り上げしなくてもいい」というメリットもあるのです。つまり、ドイツは相対的に輸出競争力を維持し続けることができるのであり、ユーロという仕組みそのものから多額の補助金を受け取っているに等しいともいえます。ユーロは、比較的域内貿易の多いユーロの中の強い国ドイツにとっては実はメリットのある仕組みです。このことをドイツの政治家たちがきちんと国民に説得できるのかどうかあたりが鍵を握りそうに思います。 現実的にはユーロ離脱はありえないとおもいますが、国民レベルではそのような議論が大手を振ってまかり通るかもしれません。選挙で選ばれなかったらただの人ですから、選挙民をきちんと説得できず、代わりに過激な民族優越主義者みたいなのが出てきたら、これはこれで大変なことになりますね。ノイエドイチェマルクとか・・・。繰り返しになりますが、政治の世界では「間違った結論」を選挙民が選ぶことが結構あります。最大の例はナチスドイツですが、今回もドイツというところがどうも引っかかるのです。 さて、こうした状況で救済の意思が明確になったことで、ギリシャ問題は金融危機時の米国GSE(ファニメやフレディマック)と同じ経路でスプレッドが縮小すると考える人もいますが、これはちょっと言いすぎだと思います。GSEは純粋なアメリカの国内企業ですから、アメリカ政府が何とかするといえば何とかなるのです。しかもアメリカは基軸通貨特権を利用してほかの国よりもはるかに大きな通貨発行能力を有していますから、何とか問題を先送りできる可能性は高かった。しかしギリシャの国そのものの問題は、それが国そのものであるがゆえに、救済するのがほかの国とか国際機関とかになってしまうわけで、しかも、会計をごまかしほかの国の犠牲の元でいい暮らしを享受してきたとなると、ドイツ国民の反発のような問題は避けられないのです。ギリシャ国そのものを丸ごと引き受ける上位主体が残っていないということです。 というわけで、当面は一旦問題沈静となるかもしれませんが、最終的に解決に向かうためにはギリシャ側の主体的な取り組みがきちんとなされなければなりません。その点がまだはっきりしない以上問題は単に先送りということでしかありませんね。 |
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分かりやすく詳細な解説、多謝です。 |
40歳無職 2010/04/12 17:46 |
とても分かり易い解説有り難うございます。 |
durian 2010/04/13 06:39 |
素人っぽい質問で気がひけますが、ギリシャ政府が破たんしたらユーロがおかしくなるのでしょうか? |
平家 2010/04/13 21:16 |
40歳無職さんどうもです。金融緩和による金余りで、どうにもこうにも投資機会が不足しており、そのことがリスク許容度をかなり高めています。多少危なっかしくても、一定の信頼が得られれば「いっちゃう」ことは十分あり得ます。 |
厭債害債 2010/04/14 06:20 |
ギリシャ問題の報道で、ギリシャ国内の資産家が外資系金融機関に殺到し、資産を国外に逃避させているそうです。 |
348ts 2010/04/14 12:25 |
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