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iPad:予約開始 ユーザー期待、出版界手探り

 28日に国内発売される米アップルの新型携帯端末「iPad(アイパッド)」の予約受け付けが10日、始まった。音楽や動画に加え、電子書籍も楽しめる新型端末で、受け付け初日の早朝から、直営店前に予約客の行列ができるほどの人気ぶり。「iPad上陸」が目前に迫り、出版業界には期待と不安が交錯している。【望月麻紀、弘田恭子、井出晋平、浜中慎哉】

 ◇携帯回線、独占に不満の声も

 10日午前10時、東京都中央区の「アップルストア銀座」には約100人が行列を作った。先頭にいた同区の男性会社員(36)は「午前5時半から並び始めた。本が読みやすいと聞いており、早く電子書籍サービスが始まってほしい」と語った。

 アイパッドは4月3日に米国で先行発売され、既に100万台超を販売。今月28日に日本を含めた欧州などの9カ国で発売される。アップルの多機能携帯電話「iPhone(アイフォーン)」と同様、9・7インチのカラー液晶画面に指で触れて操作する。アップル日本法人の直営店のほか、ソフトバンクの携帯電話の直営店やビックカメラなど量販店の一部店舗で予約できる。

 価格は無線LAN(域内情報通信網)機能のみのタイプが4万8800円から(24回払いで月々2220円から)、携帯電話回線も利用できるタイプが5万8320円から(24回払いで月々2430円から)。

 ただ、携帯電話回線も利用できるタイプは、ソフトバンク回線しか使えない「SIMロック」がかけられている。米国ではロックはかかっておらず、利用者が自由に回線業者を選ぶことができる。NTTドコモの山田隆持社長は4月末の会見で「アイパッドはロック解除と聞いている」と発言し、回線提供に意欲を見せていた。

 だが、結果的にはソフトバンクが販売契約を結んだ。「アイフォーン」の実績に加え、ソフトバンクの孫正義社長が渡米しトップセールスしたことも効いたとされる。日本でロックがかけられたことについてアップルは「コメントできない」、ドコモは「今後もドコモ回線で利用できるよう努力する」としている。予約の行列に並んでいた人からは「ロック解除の議論が出てきているのに残念」との声も聞かれた。

 ◇「紹介記事と物販連携」「使い方見なければ…」

 アイパッドは、画面上で本のページをめくるような操作ができるなど、電子書籍を読む端末として使い勝手がいいとされる。「電子書籍元年」を迎える日本の出版業界では、対応を急ぐ企業はまだ一部で、普及状況や利用者の反応などを見て対応を決める企業も多い。

 女性向け情報誌「OZ Magazine」などを発行する「スターツ出版」(東京都中央区)は8日、米国のアップル本社からアイパッド向けソフト販売の許可を受けた。インタビューを動画にしたり、雑誌で紹介したホテルやレストランがそのまま予約できる機能を追加する予定で、雑誌の定価は480円だが、印刷、流通コストが不要なためアイパッド版は350円にする。同社の菊地修一社長は「雑誌離れが進んでいるが、新しい機器の登場で再び雑誌に戻ってきてもらいたい。電子版を含め読者が増えれば広告媒体としての力を強化できる」と話している。

 角川書店も「新たな読者層が獲得できる可能性がある」(幹部)とする積極派。現在は携帯電話向けなどに電子漫画を展開するが、電子版で作品を知った読者が後から文庫本を買うため「相乗効果がある」(幹部)と見込み、対応を検討している。

 一方、他の老舗出版社の動きは目立たない。講談社や新潮社など大手31社は2月、電子書籍での著作権処理や規格の共通化を目的に「日本電子書籍出版社協会」を設立したが、アイパッドについて「実際に発売されて使われ方を見るまで何とも言いようがない」(細島三喜事務局長)とし、当面は静観する構えのようだ。

 調査会社「インプレスR&D」によると、08年度の国内電子書籍市場は前年度比31%増の464億円。約8割が携帯電話の電子漫画だ。アダルト系が多いため「審査が厳しいアップルでは販売許可が下りず、移行はそれほど多くない」と予想する。

 電子書籍に詳しい東京電機大の植村八潮出版局長は「アイパッドはマルチメディア端末で、紙から電子版に本の置き換えを目指すキンドルとは違い、パソコンの領域を奪う」と予想する。そのうえで、「利用者が使うことで成長するメディアなので、従来の出版業界の発想では通用しなくなる」と指摘している。

毎日新聞 2010年5月11日 東京朝刊

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