ソブリンとは債券の世界では各国国債(あるいは政府が完全にコントロールしている関係機関を含む場合もある)のことです。 これまで、国債は一般事業債などに比べて安全だとされてきました。その最大の理由は国債の元利払いは国庫収入を原資に行われるのですが、国庫収入は国家が取る税金が主なものである以上、支払いに不足する事態になれば「増税」などによって対応が可能だというものです。また、中央銀行への政府の関与が強い国であれば紙幣を増刷して名目価値を支払うことも可能です(これやったら大変なことになりますが)。いずれにしても債務が「自国通貨建て」である限りにおいてその通貨の発行権限を独占しなおかつ税法を含む法律を定めることができる国家の決定機関がある以上、「自国通貨建ての国債」の支払い不能というのはほぼ回避できるという考えです。もちろん通貨増発などで対処する場合は為替の暴落(そして悪性インフレ)などを覚悟しなければなりませんが、その問題を無視すれば、形式的に支払い不能は避けられます。 しかしながら、国債が「外貨建て」であった場合、外貨は自分たちで印刷できないので誰かから貸してもらうか自分で貯めるかしなければなりません。経常黒字がたんまりたまっている中国のような国はそもそも外貨建てで借りる必要もない(まあ国が通貨投機でもやるのなら別ですが)うえ、借りたとしてもたんまりある外貨準備によって支払い能力があることは明白ですが、経常赤字国では慢性的に外貨が不足するので、常に誰かから借り入れを続ける必要があります。これが借り入れられないときは「支払い不能」ということになります。 ギリシャの問題は、ギリシャにとってユーロという通貨が「自国通貨」としての面と「外貨」としての面を両方持っていた上に、その両方の「いいとこ取り」をしてしまったツケが回っているのだと思います。これはまさにユーロがもつ問題点を言い方を変えただけなのですが。 「自国通貨」としての側面はそれが強制通用力を持って国内で通用し、内外への支払い手段として認知されているということです。この面では取引や調達は為替リスクなしで行えるという意味で、非常に都合のよいものでした。しかし一方「外貨」としての側面は、自分たちの力だけでは通貨が発行できないということです。通貨発行権限は欧州中央銀行に委譲されており、ギリシャ単独の意思でユーロの増発を行って債務の返済に充てることは不可能です。通貨単位で表示される債務の返済のためには自分で発行できない以上誰かからユーロを調達しなければなりません。では「増税」でまかなえないか?ここでもユーロというか欧州共同体の仕組みが邪魔をします。共同体内では資金も人も原則的に自由に移動できるのです。税金という面ではギリシャは日本の地方自治体のひとつのようなものに過ぎず、高い税金がいやならさっさと他国へ移住して(あるいはビジネスを移して)しまうことができる。そしてそもそも共同体の思想から税金には一定の枠がはめられ、むちゃくちゃな増税もできません。 こういう点では、日本にしてもアメリカにしても、さらにはイギリスにしても債務はほとんど自国通貨建てであり、いくら債務残高や比率が大きくてもギリシャやユーロ圏とは根本的に問題の所在が異なるということでしょう。 とはいえ、ソブリンの一角が崩れ始めたことについては相当注意が必要です。80年代の南米危機や90年代のアジア通貨危機などで見られた「contagion」(伝播)が多くの国に広がると思われるからです。すでに欧州ではポルトガルやアイルランドにも広がりつつあるようです。冷静に考えると財政黒字を継続的に達成できている国などそう多くありません。政府の役割は民間で(経済価値ベースで採算にのらないから)扱えないようなものを取り扱って平等を確保したり長期的な投資を行ったりするものであり、はっきり言って常識的な「赤字」は許容されるのだとおもいます。国家がみんな貯蓄主体となったら経済はきっと死んでしまうでしょうから。(第一政府が金を借りなくなったら債券ビジネスは困ってしまうではないですか・・・あ、これはワタクシの都合です)多少のことには目をつぶって借り替えさせるのが「ソブリン」のお約束だったわけですが、一度不安になるとその赤字が増えていること自体とても不安に感じられ、そして最近国家のCDSなどさまざまなツールがでて、売りつぶしに行くことも可能になったことから、周辺を巻き込んで大きな動きにつながりますね。まあこれを儲けのチャンスとして国家のネイキッドCDS取引などやる輩は、国家反逆罪モノでしょうけれど。 ギリシャのCDSスプレッドはすでにウクライナやラトビアなどIMFがすでに介入している国の水準を超えました。ちなみにウクライナもラトビアもデフォルトしていません。もちろん通貨が違うからということはありますが、ここでもギリシャの債務の持つ二重性がネックになります。外貨としての側面から他の利害関係者(他のユーロ圏加盟国)の承諾を得なければお金を出してもらえないという面と、自国通貨としての側面から切り下げによる減価を選べない、ということです。 ユーロは理念にこだわって当初IMFの関与を否定してしまいましたが、こうなるのであればはじめからギリシャの主張どおりIMFに全面的に依存したほうがよかったのかもしれません。もちろんユーロの理念の一部は犠牲になりますが、もうその理念なるものにほころびが目立ってしまったのですから、名を捨てて実をとるという選択もあったのではないかと思います。ギリシャ国民の反応といい、ユーロ圏の対応といい、ちょっと問題の対処としては適切でない状況ばかりです。 ギリシャの事例は制度のゆがみがもたらした特殊事例と片付けることもできますが、その「特殊」な制度のなかにどっぷりつかっている債務国がたくさんあるのです。欧州諸国の格付けはその債務比率の割には高かったのは、長年培った「信用」によって借り換えについて世界中がほとんど不安視していなかったことによります。しかしユーロという仕組みが逆にその信頼を壊してしまったのかもしれません。このことをきっかけに「ソブリン」が持っていた安全性の幻想の崩壊が広まったとき、債券投資家はいったい何を基準にすればいいのか、重い課題ですね。 (余談ですが、欧州の問題は長引けば長引くほど民族対立に進む可能性すらあります。救済しなければギリシャ人が怒る。救済すればドイツ人が怒る。平和を目指してECSCから始まった欧州共同体そしてユーロと進化してきたはずの制度が、そのまさにユーロという仕組みのせいで民族対立を深めてしまうとしたら、これは現代のローマ悲劇とかギリシャ悲劇とか言うしかないでしょうね。そして最後は統一というものの本質に気がつき、カエサル、アレキサンダー大王、ナポレオン、ヒトラーみたいな人々が登場するんでしょうか。つまり、「統一」を目指したがために最終的には何らかの形で「決着」をつけなければならない時がきてしまう、ということなんですが。) |
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7話 マイルドセブンスターライト
まったく今日もドタバタ忙しかった。寝る暇もない。 そりゃ稼ぎ時だからね。こんだけ上方修正あれば、何とかなるね ひどい時なんか、どんな決算でも売りだったからね。ショートの方が個人有利だけど、凹むよね。 まぁ、ここから上は買いにくいよね。って相場ネタは止めようよ なんで? 日経平均と精神状態がフル連動してるのが、バレバレじゃないの というか、その告知はしておいたほうがいいのでは? 悪化するとPCすら開かなくなるんだから。ブログ更新なんて絶対しないだろ? そんな何年にも渡る個人的な病気を... ...続きを見る |
富士そば談義 2010/04/29 17:03 |
内 容 | ニックネーム/日時 |
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「決着」までのプロセスは、出てくる人物の個性次第でしょうか・・。ユーロ圏外の一市民としては、武闘派な英雄タイプは勘弁していただきたく。オクタヴィアヌスのように「気がついたら統一されてた」という感じで、狡猾に、粘り強く進めてくれる人を希望したいです。 |
投機家Y 2010/04/29 03:24 |
>まさにユーロという仕組みのせいで民族対立を深めてしまうとしたら、これは現代のローマ悲劇とかギリシャ悲劇とか言うしかないでしょうね。 |
348ts 2010/05/01 14:22 |
深く無いよ。 |
kazzt 2010/05/09 00:31 |
1つの国のお金の量は、日々物やサービスが供給されるわけだから、その場で消えてしまう物は別として、これらに見合っただけ増やさないと必然的にデフレになると思います。世界的に金本位制を止めて以来、多くの国では公債を発行して増やしてきたのではないでしょうか。 |
お染 2010/05/10 13:01 |
投機家Yさんコメント有難うございます。まさにどういう人物が登場するか、欧州社会の民度が問われるのだと思います。 |
厭債害債 2010/05/10 21:24 |
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