厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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help リーダーに追加 RSS 「ソブリン」の憂鬱

<<   作成日時 : 2010/04/28 10:24   >>

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ソブリンとは債券の世界では各国国債(あるいは政府が完全にコントロールしている関係機関を含む場合もある)のことです。

これまで、国債は一般事業債などに比べて安全だとされてきました。その最大の理由は国債の元利払いは国庫収入を原資に行われるのですが、国庫収入は国家が取る税金が主なものである以上、支払いに不足する事態になれば「増税」などによって対応が可能だというものです。また、中央銀行への政府の関与が強い国であれば紙幣を増刷して名目価値を支払うことも可能です(これやったら大変なことになりますが)。いずれにしても債務が「自国通貨建て」である限りにおいてその通貨の発行権限を独占しなおかつ税法を含む法律を定めることができる国家の決定機関がある以上、「自国通貨建ての国債」の支払い不能というのはほぼ回避できるという考えです。もちろん通貨増発などで対処する場合は為替の暴落(そして悪性インフレ)などを覚悟しなければなりませんが、その問題を無視すれば、形式的に支払い不能は避けられます。

しかしながら、国債が「外貨建て」であった場合、外貨は自分たちで印刷できないので誰かから貸してもらうか自分で貯めるかしなければなりません。経常黒字がたんまりたまっている中国のような国はそもそも外貨建てで借りる必要もない(まあ国が通貨投機でもやるのなら別ですが)うえ、借りたとしてもたんまりある外貨準備によって支払い能力があることは明白ですが、経常赤字国では慢性的に外貨が不足するので、常に誰かから借り入れを続ける必要があります。これが借り入れられないときは「支払い不能」ということになります。

ギリシャの問題は、ギリシャにとってユーロという通貨が「自国通貨」としての面と「外貨」としての面を両方持っていた上に、その両方の「いいとこ取り」をしてしまったツケが回っているのだと思います。これはまさにユーロがもつ問題点を言い方を変えただけなのですが。

「自国通貨」としての側面はそれが強制通用力を持って国内で通用し、内外への支払い手段として認知されているということです。この面では取引や調達は為替リスクなしで行えるという意味で、非常に都合のよいものでした。しかし一方「外貨」としての側面は、自分たちの力だけでは通貨が発行できないということです。通貨発行権限は欧州中央銀行に委譲されており、ギリシャ単独の意思でユーロの増発を行って債務の返済に充てることは不可能です。通貨単位で表示される債務の返済のためには自分で発行できない以上誰かからユーロを調達しなければなりません。では「増税」でまかなえないか?ここでもユーロというか欧州共同体の仕組みが邪魔をします。共同体内では資金も人も原則的に自由に移動できるのです。税金という面ではギリシャは日本の地方自治体のひとつのようなものに過ぎず、高い税金がいやならさっさと他国へ移住して(あるいはビジネスを移して)しまうことができる。そしてそもそも共同体の思想から税金には一定の枠がはめられ、むちゃくちゃな増税もできません。

こういう点では、日本にしてもアメリカにしても、さらにはイギリスにしても債務はほとんど自国通貨建てであり、いくら債務残高や比率が大きくてもギリシャやユーロ圏とは根本的に問題の所在が異なるということでしょう。

とはいえ、ソブリンの一角が崩れ始めたことについては相当注意が必要です。80年代の南米危機や90年代のアジア通貨危機などで見られた「contagion」(伝播)が多くの国に広がると思われるからです。すでに欧州ではポルトガルやアイルランドにも広がりつつあるようです。冷静に考えると財政黒字を継続的に達成できている国などそう多くありません。政府の役割は民間で(経済価値ベースで採算にのらないから)扱えないようなものを取り扱って平等を確保したり長期的な投資を行ったりするものであり、はっきり言って常識的な「赤字」は許容されるのだとおもいます。国家がみんな貯蓄主体となったら経済はきっと死んでしまうでしょうから。(第一政府が金を借りなくなったら債券ビジネスは困ってしまうではないですか・・・あ、これはワタクシの都合です)多少のことには目をつぶって借り替えさせるのが「ソブリン」のお約束だったわけですが、一度不安になるとその赤字が増えていること自体とても不安に感じられ、そして最近国家のCDSなどさまざまなツールがでて、売りつぶしに行くことも可能になったことから、周辺を巻き込んで大きな動きにつながりますね。まあこれを儲けのチャンスとして国家のネイキッドCDS取引などやる輩は、国家反逆罪モノでしょうけれど。

ギリシャのCDSスプレッドはすでにウクライナやラトビアなどIMFがすでに介入している国の水準を超えました。ちなみにウクライナもラトビアもデフォルトしていません。もちろん通貨が違うからということはありますが、ここでもギリシャの債務の持つ二重性がネックになります。外貨としての側面から他の利害関係者(他のユーロ圏加盟国)の承諾を得なければお金を出してもらえないという面と、自国通貨としての側面から切り下げによる減価を選べない、ということです。

ユーロは理念にこだわって当初IMFの関与を否定してしまいましたが、こうなるのであればはじめからギリシャの主張どおりIMFに全面的に依存したほうがよかったのかもしれません。もちろんユーロの理念の一部は犠牲になりますが、もうその理念なるものにほころびが目立ってしまったのですから、名を捨てて実をとるという選択もあったのではないかと思います。ギリシャ国民の反応といい、ユーロ圏の対応といい、ちょっと問題の対処としては適切でない状況ばかりです。

ギリシャの事例は制度のゆがみがもたらした特殊事例と片付けることもできますが、その「特殊」な制度のなかにどっぷりつかっている債務国がたくさんあるのです。欧州諸国の格付けはその債務比率の割には高かったのは、長年培った「信用」によって借り換えについて世界中がほとんど不安視していなかったことによります。しかしユーロという仕組みが逆にその信頼を壊してしまったのかもしれません。このことをきっかけに「ソブリン」が持っていた安全性の幻想の崩壊が広まったとき、債券投資家はいったい何を基準にすればいいのか、重い課題ですね。

(余談ですが、欧州の問題は長引けば長引くほど民族対立に進む可能性すらあります。救済しなければギリシャ人が怒る。救済すればドイツ人が怒る。平和を目指してECSCから始まった欧州共同体そしてユーロと進化してきたはずの制度が、そのまさにユーロという仕組みのせいで民族対立を深めてしまうとしたら、これは現代のローマ悲劇とかギリシャ悲劇とか言うしかないでしょうね。そして最後は統一というものの本質に気がつき、カエサル、アレキサンダー大王、ナポレオン、ヒトラーみたいな人々が登場するんでしょうか。つまり、「統一」を目指したがために最終的には何らかの形で「決着」をつけなければならない時がきてしまう、ということなんですが。)

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7話 マイルドセブンスターライト 
まったく今日もドタバタ忙しかった。寝る暇もない。 そりゃ稼ぎ時だからね。こんだけ上方修正あれば、何とかなるね ひどい時なんか、どんな決算でも売りだったからね。ショートの方が個人有利だけど、凹むよね。 まぁ、ここから上は買いにくいよね。って相場ネタは止めようよ なんで? 日経平均と精神状態がフル連動してるのが、バレバレじゃないの というか、その告知はしておいたほうがいいのでは? 悪化するとPCすら開かなくなるんだから。ブログ更新なんて絶対しないだろ? そんな何年にも渡る個人的な病気を... ...続きを見る
富士そば談義
2010/04/29 17:03

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コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
「決着」までのプロセスは、出てくる人物の個性次第でしょうか・・。ユーロ圏外の一市民としては、武闘派な英雄タイプは勘弁していただきたく。オクタヴィアヌスのように「気がついたら統一されてた」という感じで、狡猾に、粘り強く進めてくれる人を希望したいです。
投機家Y
2010/04/29 03:24
>まさにユーロという仕組みのせいで民族対立を深めてしまうとしたら、これは現代のローマ悲劇とかギリシャ悲劇とか言うしかないでしょうね。

深いですね。
経済の共通化でみな幸せに・・・と描いていた構想が全く逆転です。
こういうリスクも織り込んで東アジア共同体の危うさを考えてもらいたいものです。

また、なんだか、サブプライムローンの話を思い出します。
様々な債権を少しずつ織り込んだ金融商品がトリプルA格付けを得るが、一部が懸念されればリスクが伝播して全体が暴落する。
ソブリンにはそのままあてはまらないでしょうが、なんだか金融の緻密化というのは合成の誤謬だらけのように思えてきます。
(単に格付け機能の技術的限界なのかもしれませんが)
348ts
2010/05/01 14:22
深く無いよ。
ただ単に自由に移動できるんだから、その範囲は一つの貨幣範囲と認めるということでしょ。
ユーロという貨幣範囲で自由な移動が成り立った以上、詐欺的な報告が成されていてもその範囲の貨幣的な問題は全体でまかなう以外に無いんですよ。ドイツ人黙れ、嘘を見抜けないで一つの通貨に認めた以上責任があるんだよ。ユーロは一つなんだろ(笑)
東京は黒字ですけど、東北なんか大赤字それでも、東京で赤字を補填するのは当たり前。
東北で生まれて才能が有れば東京に出て行って好きなことが出来る自由が有る以上ソレが当たり前なんですよ。
どっちが特かって当然東京でしょ。下らん紙切れなんてモノより人間が重要なんだから、その人間を吸い上げちまう東京のほうがズルイに決まってるジャン。
日本の国土は林業水産業などにまだまだ大きな可能性が有るのに東京なんかで銭計算してしまう馬鹿がでかい面してる。
爆食中国がお隣なのに、物資を見ないで数字を見てたんじゃ、どうしようもないよな。
kazzt
2010/05/09 00:31
1つの国のお金の量は、日々物やサービスが供給されるわけだから、その場で消えてしまう物は別として、これらに見合っただけ増やさないと必然的にデフレになると思います。世界的に金本位制を止めて以来、多くの国では公債を発行して増やしてきたのではないでしょうか。

日本は生産力が大き過ぎて、輸出でも埋めきれない需給ギャップを財政支出で埋めてきた結果、財政赤字が積み上がったと思うのですが、こういう供給過剰の国でも、通貨を増発して赤字を埋めたら『たいへんなこと(ハイパーインフレのことでしょうか?)になる』でしょうか。政府紙幣の話題は、このごろ触れられもしませんが、そんなに悪い政策なのかなぁ…
お染
2010/05/10 13:01
投機家Yさんコメント有難うございます。まさにどういう人物が登場するか、欧州社会の民度が問われるのだと思います。

348tsさんどうもです。さまざまな点で「信頼」が崩れたときは伝播は激しいものがありそうです。おっしゃるとおり異なる国の共同体は前提条件が多いはずです。

kazztさんどうもです。おっしゃっている日本の制度とユーロではやや前提が異なるように思いますので同じ議論はできないと思います。

お染さんどうもです。通貨増発の規律と言う問題ではないでしょうか?
厭債害債
2010/05/10 21:24

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