厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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<<   作成日時 : 2010/05/10 21:11  

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最終兵器とか人によっては「禁じ手」とか訳すんでしょうか。ともあれ、ギリシャ問題に端を発した欧州の金融システム動揺に対し、ECBがついに「国債買い入れ」という手段をとることを公表しました。

これのもつ意味は非常に大きいと思います。第一に(もっと早うださんかい!という批判はともかく)これまで理念的に単純な通貨増発につながるものとしてインフレファイターとして忌み嫌っていた手段まで思い切って踏み込んだと言うこと、第二にやはりそこは節は曲げないということを言いたかったのだと思うけれど、不胎化によって資金を吸収しながらやるということですが同時に3ヶ月と6ヶ月のタームレポの上限撤廃を復活させると言うことで、まあ事実上「なんでもあり」であることを公言しました。そしてFRBを中心としてドルのスワップ協定をECBを含む各国中央銀行間で復活させ、ドルの資金繰り問題にも対応可能としました。

すでに週末から大規模な支援スキームが発表されており、総額7500億ユーロという巨額のセーフティーネットはそれだけでギリシャやポルトガルの3年分ぐらいのファンディングをまかなって余りありますが。その上での流動性対策ということで、これまでの後手から一気に先手を奪い返そうと言う気合を感じます。

これらの手段によって、欧米の金融機関の資金繰り問題は劇的に改善すると予想されます。なにせすでにレポの担保適格としてギリシャは格付け御免の扱いとなっていますから、ギリシャ国債を含む適格担保をベースに3ヶ月ないし6ヶ月のあいだ金融機関は無限大に資金をECBから調達でき資金繰りに困ることがなくなりました。そして手持ちのたとえばギリシャ国債でもいざとなったらECBが買い取ってくれるというのだから、あえて投売りする必要がなくなります。ドルもスワップ協定で手当てをしているので、当面市場の安定が期待されます。

本日の欧州市場は先週末の瀕死の状況から一気に復活しました。先週の金曜日の状況は本当にひどかった。東京市場でロイター画面のユーロ円為替レートが数十銭単位で「飛ぶ」のです(今朝もスワップはひどかった)。ドル円もそこまでひどくはないけれど、明らかに市場の流動性が枯渇しているのが見て取れました。中央銀行やG7が緊急電話会議や市場関係者へのヒアリングを通じて事態の把握に努め、日銀もとりあえず2兆円の緊急オペを打ちました。このまま放置すればパリバショック程度の事態にはなりえたし最悪リーマンショック的な資金繰り倒産すらありえたのかもしれません。今日は欧州では先週まで値段が付かなかったギリシャ国債もワイドながらツーウェイの値段が付き始めました。銀行のリスク許容度すなわちファンディング問題が一気に回復した証拠です。ユーロもストップロスの買いをどんどん引っ掛けながら1.3を上抜けし、株価にいたってはスペインで10%以上の上げを記録しています。拡大を続けていた周辺国国債の対ドイツ国債利回り格差も大きく縮小に転じました。劇的に変わった感じです。

しかし不確実要素は多く残っています。第一は国債買取の規模がまだ発表されていないこと。おそらくこの手段はいざと言うときのためのものとして詳細は事前に発表しないのではないかと思います。第二にはこうした緊急対策の期間がまだはっきりしないこと。現段階で期限をつけることはまた市場から足元を見られるという判断があるのでしょうね。そして、最大の不安要素は、今回の対策があまりにも何でもありだったので、これから「理屈」との折り合いをたくさんつけていかなければならないことでしょう。これで全て解決したわけではないのです。

そもそも独立した国民国家の集合体であるユーロの中で他の国への援助が制度化されていないことが問題の根っこにあるわけですが、「なんであいつらのために俺らが金を出すねん」という素朴な「理屈」はドイツ国民の中でまだまだくすぶることでしょう。現実に懸念されていたとおり、NRW州ではメルケル首相率いる与党CDUが敗北、救済に反対の立場をとるSPDが票を伸ばしました。明らかに民意はこういう解決を受け入れていない可能性があります。それは次の国政選挙までに国民が納得しなければスキームごとひっくり返る可能性があると言うことです。
ドイツの次の下院選挙は原則的には2013年。ちょうどIMFの原則的融資期間満了に重なってくる。要するに長くてもギリシャなどの重債務国にとって改善に残された期間は3年しかありません。しかしながら、突然の緊縮財政を果たしてうまく乗り切ることができるのか?それまでの間に暴動で政府が転覆し、(あまり深く物事を考えない)新政権がユーロから脱退するなどという政策をとるのではないか、といったリスクはあります。実はギリシャなどの緊縮がうまくいくという方向性に賭けるのはかなりリスクを伴うと思っています。

ひとつの考え方としてここまでグダグダになったんだからもっとグダグダにしちゃえ、という開き直りの方法があります。マーストリヒト条約の財政安定化協定基準を緩めてしまうということ。なあに、どうせドイツだって厳密には守れていないわけですし・・・とはいってもついこないだこうした基準を厳しく守ろうってみんなで話し合ったばかりなのでこれはちょっとどうかなぁとおもいますが・・・。

究極的には、この際財政統一への思い切ったステップを踏むという手があります。要するに財政問題の決定プロセスが統一されていれば相互援助(日本の交付税特会みたいなものかな)の仕組みができるわけで、日本にたとえて言えば税収の多い東京都の人々の所得税がxx県▲▲市への地方交付税に化けるということが可能になるわけです。
いまでも都会の住民からは「俺たちがたくさん税金をはらってやってるんだぞ」みたいな言い方を聞きますけれど、同じ日本なんだからみんなで幸せになろうよ、その代わり公共投資とか公務員の待遇とかも国ごとには勝手に決められないことになって、まあみんな納得するわけですね。ギリシャとドイツの関係もそういう方向に向かうのが理念的には理想なんでしょう。あるいみIMFの監督下に入るということは財政自主権の一部放棄という側面があるわけで、どうせなら、という言い方はできるでしょう。とはいってもやはり民族の異なる国どうしで、今回の危機の前段階ではギリシャがナチス時代のことまで持ち出して挑発などしてますから、なかなかねぇ・・・。

というわけで考えれば考えるほど先行きはまだまだ茨の道。でもあれほど実現不可能だと思っていた東西ドイツ統一やユーロの創設まで力技で成し遂げたのだから、意外にやっていけるのかもしれません。欧州政治は議論と対立と説得の過程です。時には武力の影を見せながら、これまでもひとつの方向性をもって導かれてきたのですから、個人的にはそういう人類の英知とかにまだまだ信頼を置きたい気持ちは強いです(あ、マーケット参加者としてはまったく違う行動をとりますので、念のため)。



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内 容 ニックネーム/日時
ここまでやるのか・・・とか、ここまでやらないといけない状況だったんだなあ・・・とか、色々思うところはありますけれど、事態の推移を見守るしかないですね。
しかし、もし日本がこんな状況に陥ったら、どこが救済してくれるんだろう?と思うと、背筋が寒くなります。
40歳無職
2010/05/11 08:04

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