ロイターの記事で、電書協(日本電子書籍出版社協会)の細島事務局長がiPadについて「紙との共存ができるなら協力するが、紙の出版を維持できないなら協力はできない。こちらがコンテンツを出さなければ向こうも(電子書籍端末を)出すことはできない」とコメントしたことが話題を呼んでいる。この発想は今週の記事で紹介した電波行政と、滅びゆく業界の既得権(サンクコスト)を守る点で共通している。
そういう行動は合理的ではなく、契約理論では、サンクコストを無視して(合理的な)再交渉を行うことをいかに防ぐかというメカニズム・デザインが論じられる。しかし再交渉を繰り返すと悪い評判が立って業績が落ちるので、評判を守るためには互いのサンクコストを守って長期的関係を維持する必要がある。長期的関係が続いている限り、官僚が業者の既得権を守れば天下りでき、出版社が書店の利益を守ればたくさん売ってくれるだろう。
問題は、合理的行動による利益と、長期的な「義理」を守る利益のどちらが大きいかということだ。電波行政の場合には既得権を法律で守れるので、電波部にとっても事業者にとっても後者のほうが大きいだろう。しかしそれによって日本の無線業界全体が没落すると、長期的利益も失われる。電書協の場合には、細島氏は単純に錯覚している。日本の著作権法では出版社に許諾権はなく、書籍なんか読めなくてもiPadは大人気だ。読書のプラットフォームがiPadになったとき、取り残されて滅びるのは紙の出版社である。
日本の経営者に「長期的視野」があると賞賛されたことがあるが、それは将来の利益の成長率が割引率(リスク)よりも大きかった1980年代までの話だ。業界全体が沈没するときはリスクが長期的利益を上回り、約束を破る合理的行動が有利になる。電書協に入っている出版社はわずか31社で、その時価総額を合計してもアップルの1/100にもならない。アゴラブックスは、電書協を無視して電子出版する。どっちが「協力してもらう」側なのか、細島氏は冷静に考えたほうがいいのではないか。
問題は、合理的行動による利益と、長期的な「義理」を守る利益のどちらが大きいかということだ。電波行政の場合には既得権を法律で守れるので、電波部にとっても事業者にとっても後者のほうが大きいだろう。しかしそれによって日本の無線業界全体が没落すると、長期的利益も失われる。電書協の場合には、細島氏は単純に錯覚している。日本の著作権法では出版社に許諾権はなく、書籍なんか読めなくてもiPadは大人気だ。読書のプラットフォームがiPadになったとき、取り残されて滅びるのは紙の出版社である。
日本の経営者に「長期的視野」があると賞賛されたことがあるが、それは将来の利益の成長率が割引率(リスク)よりも大きかった1980年代までの話だ。業界全体が沈没するときはリスクが長期的利益を上回り、約束を破る合理的行動が有利になる。電書協に入っている出版社はわずか31社で、その時価総額を合計してもアップルの1/100にもならない。アゴラブックスは、電書協を無視して電子出版する。どっちが「協力してもらう」側なのか、細島氏は冷静に考えたほうがいいのではないか。
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コメント一覧
>さらに「紙の本より安くなるはずの電子書籍は紙の本の何倍も売れないと割に合わない」と出版界の懸念を代弁している。
それは出版社の利益であり、作家の利益は、たぶん減少するどころか増加します。(Kindleは70%の印税を払う)
出版社専属の作家なんていませんから、作家がどちらにつくかは明らかじゃないでしょうかねえ。
iTMSがいまいち儲からなかったのは、音楽の配信コストが高いからです。数十メガバイトのファイルを携帯電話網で転送して100円とか200円では割に合わない。
しかし、本の場合、文庫本で数百キロバイトしかないので、配信コストは非常に低い。漫画本でも、圧縮の度合いによるけれども、せいぜい10MBもあれば十分でしょう。
つまり、本は電子配信型コンテンツに非常に向いている。音楽よりもずっと儲かる可能性が高い。
ホリエモンが有料メルマガで1億円稼ぎそうな勢いだそうです。これから有名作家がこぞって有料メルマガ形式で原稿をネット上にUpするようになったら(iPadで出すでも基本的に同じことでしょうが)紙の出版業界などは壊滅ですね。黒船がもう目の前に来ているのに本当に何を勘違いしているのでしょうか。
面白いですね。
「日本電子書籍出版社協会」という名前から、
「電子書籍」を推進する立場なのかと思いました。
実際は逆なんですね。
「出版物再販制度は全国の読者に多種多様な出版物を同一価格で提供していくために不可欠なものであり、また文字・活字文化の振興上、書籍・雑誌は基本的な文化資産であり、自国の文化水準を維持するために、重要な役割を果たしています。」社団法人 日本書籍出版協会 http://www.jbpa.or.jp/resale/index.html
自国の文化水準を維持するために、電子書籍端末等の多様な読み方を提供することによって、一人でも多くの人が情報に接する機会を増やすのが規制に守られた業界の義務だと思います。雑誌や新聞は積極的に電子化に取り組みべきだと思います。