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テロとの戦いと米国:第4部 オバマの無人機戦争/1(その1)

 ◇無人機爆撃、本土で操縦 民間人の被害拡大

 オバマ米政権がアフガニスタンやイラクで、無人航空機を飛ばし武装勢力を掃討する「無人機戦争」を推し進めている。「米兵士が死なない」「低コスト」とされる軍事策だが、巻き添えとなる民間人の被害が深刻化、その手法を疑問視する声も噴出している。現実感が希薄となっている最新のテロとの戦いの問題点を報告する。【ワシントン大治朋子】

 ◇自宅から出勤「午前はアフガン、午後イラク」

 米国本土の基地から衛星通信を使い、1万キロ以上離れた戦地で無人航空機を飛ばす。兵士は自宅で家族と朝を迎え、基地に出勤。モニター画面に映る「戦場」で戦い、再び家族の待つ家に帰る--。

 「午前中3時間はアフガンで飛ばし、1時間休憩する。午後の3時間はイラクで飛ばす。米国にいながら、毎日二つの戦場で戦争をしていた」。イラク戦争が始まった03年、米西部ネバダ州ネリス基地で無人機のパイロットをしていたジェフリー・エガース大佐(48)が振り返る。

 「迫撃弾が発射された。やつらを仕留めてくれ」。04年、戦闘が激化したイラク中部のファルージャ。大佐は現地からの要請に応え、無人機「プレデター(捕食者)」の操縦席で、レーダーの示す発射地点を確認、操縦かんを倒し航行させた。

 巨大なプラモデルのような機体(翼幅約17メートル、長さ約8メートル、重量約512キログラム)の時速は約130キロ。現場上空に到着し、モニターに浮かぶ男たちに照準を定めるまで、わずか9分。左手で安全ロックを解除し、右手の操縦かん頭頂部にある赤いミサイルボタンを押す。画面いっぱいに土煙は広がり、「武装勢力は、姿を消した」(エガース大佐)。

 「瞬きしない目」。空軍は無人機をそう呼ぶ。24時間の連続飛行も可能。夜間は赤外線カメラが、武装勢力を探す。プレデターの機体価格は約450万ドル(約4億3000万円)でF22戦闘機の約85分の1だ。昨夏、空軍が作成した長期計画書によると、「2012年をめどに、一人で同時に4機の操縦を目指す。人件費56%の削減が可能」。最終的に目指すのは「無人機を操縦するロボット」の開発だ。

     ◇

 「無人機はなぜ、罪のない人々を殺すのか」。昨年末、米南部ニューメキシコ州で開かれた講演会で、反戦市民団体が空軍幹部に食ってかかった。観客席にいた空軍中佐が振り返る。「立ち上がって叫びたかった。『無人機の攻撃は正確だ。照準の3メートル近くの人が無事なのを、この目で見てきた』と」

 だが、米陸軍士官学校のゲーリー・ソリス元教授は「軍服を着ない武装勢力と市民を映像だけで区別するのは難しいはず」と指摘する。国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)によると、09年に戦闘に巻き込まれて死亡した市民は2412人。4人に1人は、米軍の無人機を含む空爆などの犠牲になっている。

 毎日新聞が入手した空軍の集計値によると、オバマ政権が発足した09年、アフガンで無人機プレデターと新型の「リーパー(死に神)」が投下した爆弾は219個。08年(183個)の1・2倍で、07年(74個)の約3倍だった。今年1~3月末は計52個で、昨年と同ペースとなっている。

 オバマ大統領は、パキスタンでの米中央情報局(CIA)による無人機空爆も拡大。米シンクタンクによると、04年から今年4月16日までに最大1314人が死亡し、うち3割(378人)は民間人で、民間人の約半数がオバマ政権下で犠牲になった。国連人権理事会のフィリップ・アルストン特別報告者は、民間人被害を重視。「国際人道法に違反する疑いがある」と話し、6月の同理事会で改善を求める方針だ。

毎日新聞 2010年4月30日 東京朝刊

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