昨年六月の松本サリン事件で、実行犯のオウム真理教幹部らが長野県松本市の現場でサリンを発生させた時刻は、これまで想定されていた「午徽十時四十五分ごろ」より早い午後九時台だった可能性の強いことが二十四日までの医師団体の被害調査でわかった。発生現場近くでは、事件当夜の午後九時過ぎ、宇宙服のようなものを着た不審者が目撃されており、警視庁と長野県警の合同捜査本部は、犯行時刻特定のカギとみて被害証言の裏付けを急いでいる。
同本部では犯行時刻を公式には特定していないが、被害者からの最初の一一九番通報が午後十一時九分に寄せられ、それを契機に同様の訴えが相次いたことから逆算して、「午後十時四十五分ごろ」とみていた。
ところが、このほどまとまった同市地域包括医療協議会の周辺住民約二千人に対するアンケート調査結果で、のどや目の痛み、息苦しさなど、サリン中毒の自覚症状を訴えた五百八十六人中、午後八時台から症状を感じていた住民が五人、同九時台からが八人いたことがわかった。
このうち、九時台の八人は発生現場の駐車場を起点に北東方向にだ円状に分布するなど、その後拡大した被害分布と符合。自覚症状の訴えはその後、十時台に二十六人、十一時台にピークの百二十一人と連続的に増えていた。
調査結果を分析した那須民江・信州大医学部講師は「八時台の五人は散在しており、記憶違いの可能性があるが、九時台は、発生現場と同じ番地に四人がまとまっている。症状も共通しており、九時台にサリンが発生したのではないか」と推測している。