ニューヨークの高級レストランで250ドルのステーキが味わえるのもあとわずかかもしれない。日本が定評ある和牛肉の輸出を停止したからだ。
日本政府は国内でウイルス性感染症の口蹄疫に感染した牛が見つかったことで先週、牛肉輸出を停止した。これは風味と食感、高い価格で有名な高級牛肉が海外で入手困難になることを意味する。
マンハッタン・ミートパッキング・ディストリクトの精肉供給業者デブラッガ&スピットラーのジョージ・ファイソン最高執行責任者(COO)は「顧客は『在庫はどの程度あるのか。取り置きはできるのか』と電話をよこす。われわれの在庫はわずか500ポンドだ」と述べた。
ニューヨークの一握りの高級レストランで提供され、時に「神戸」と称される和牛肉の喪失を料理長らは嘆いている。マンハッタンのオールド・ホームステッド・ステーキ・ハウスの料理長、オスカー・マルティネス氏は「日本の供給業者から牛肉を仕入れている。神戸牛で有名なレストランであり影響は大きいだろう。神戸牛は人気メニューで、これを食するために来店する常連客や日本人顧客もいる」と述べた。
マルティネス氏は、供給業者から連絡はないとした一方、日本での口蹄疫の報道で先週末から和牛肉料理をメニューからはずしている、と話した。口蹄疫に感染した動物の肉を食べても人間には影響はないが、ウイルスが拡大すれば動物の個体数が減少する可能性がある。
ニュージャージー州ウエストオレンジのレストラン、ハイローン・パビリオン&ザ・マナーの料理長は、特別ディナーに和牛肉を好んで使用している。同料理長は「とにかく素晴らしい。口でとろけるので、ステーキナイフを使用する必要さえない。ほかの肉ではこのような体験はできない」と述べた。
米国の輸入牛肉に占める和牛肉の割合はわずかだ。デンバーの調査会社、グローバル・アグリトレンズのパートナー、ブレット・スチュワート氏によると、昨年の米輸入牛肉は86万3986トンで、うち和牛肉は141トン、金額では590万ドル(約5億5000万円)に過ぎない。
ファイソン氏は、ウィルス感染が小規模である場合、日本の輸出停止期間は3~6カ月になる、と予想する。和牛と掛け合わせた米国牛や豪州牛の肉の需要が増加する可能性があることは希望の光という。
実際のところ、和食レストランの一部は費用効果を理由に、過去数年間で供給元を米国業者に完全に切り替えている。マンハッタン・マレーヒルの和食レストラン、白梅のディレクター、小島恭之氏は、2年以上前に日本からの牛肉輸入を止めたとし、多くの和食レストランはもはや日本からは購入していない、と語った。
ミートパッキング・ディストリクトでレストラン、モリモトを経営する著名料理人、森本正治氏は、日本から取り寄せた和牛肉を提供しているが、割合としてはそれほど大きくはないと書面で明らかにした。森本氏は「われわれは豪州産と米国産の『和牛肉』、米国のプライム・ビーフも提供する」とした。
一方、マルティネス氏は、使用できるのは日本産の和牛肉だけ、と主張する。日本の輸出停止期間に他国産の和牛肉で代用する可能性はあるか、との質問に「そうした肉はひどい。日本産とは比較にならない」と述べた。