戦後も60年代ごろまでは、演説一本で鳴らす政治家がいた。木戸銭が取れる、と言われた名調子は稲葉修(新潟)と田中伊三次(京都)で、たまたま2人とも法相経験者だった。
しかし、次第に演説軽視の時代に入っていく。
「いま、雄弁家は?」
と問われても名前が出てこない。理由の一つは、テレビ、ケイタイ、ブログ、メールなど意思伝達の小道具が増えたからだろう。
最近は、ネットに140字以内の<つぶやき>を書き込む簡易投稿サイト・ツイッターが政治家の間で広がっている。演説からつぶやきへ、政治のチマチマ化を象徴しているように思えて仕方ない。
憲法記念日の3日、政治家は何をつぶやいているのかサイトをのぞいてみた。冒頭に、
<××さんからの、短くてタイムリーなメッセージを受信しましょう!>
の文句があって、まず、1月から始めたという鳩山由紀夫首相のつぶやき。
<明日、沖縄に行きます。県民の皆さんの生の声を聞き、お話をしてきたいと思います>
38字。しかし、そんなことはだれでも知っている。見る値打ちがない。
最初は渋ったが、結局4月に参加した自民党の谷垣禎一総裁は。
<口蹄疫(こうていえき)対策本部を党本部で開き、……>
4月29日付のつぶやきがそのまま載っている。あまりやる気がない。
9条死守派の社民党、福島瑞穂党首。
<今、市原悦子さんの朗読です。うーん、プロは違うなあ。素晴らしい朗読>
政治家のツイッターを集めたサイト<ぽりったー>を開けてみると、84人の与野党衆参議員の名前が並んでいるが、3日付で憲法問題をつぶやいた議員は一人もいなかった。わずかに小池百合子元防衛相が、
<あすは憲法シンポジウムで山口・宇部に行きます>
と記していたが、これは単なる日程だ。ほかも、スケジュール紹介、活動報告や身辺雑記がほとんどで、短いなかに、自身の考えを凝縮した力こもるつぶやきにはめぐり合えなかった。
ツイッターをけなすのが目的ではない。すでに世界で1億人近く、日本でも約500万人が利用しているのだから、一種のブーム現象だ。
しかも、つぶやきを追いかけるフォロワー(閲覧登録者)が1万人単位で増えていくというから、政治家が見逃さないのもわかる。参院選が近く、集票活動の有力な武器になりうるからだ。
とはいえ、つぶやきは正統な言論と言えるのか。ワンフレーズ・ポリティクスの亜流ではないか。政治の質を落とすリスクはないか。
ツイッター活用の火付け役といわれる逢坂誠二首相補佐官(民主党衆院議員)は、
「単なる道具ととらえている。単純さがとても大事で、しょせんつぶやきだから、自然にまかせればいい。いい意味のネット世論が生まれてくると思う。流れはもはや止まらない」(1日付「毎日新聞」の対談で)
と言う。有効な新媒体という点に着目すれば、そういうことかもしれない。
しかし、最近の政情は締まりがなく、軽く、ゆるんでいる。一方で選挙至上主義がはびこり、そこにかっこうのツイッターがはまり込む危うさが感じ取れる。
ちなみに、5日付の逢坂のつぶやき。
<今日は、こどもの日。だからというわけではないのですが、ゆっくり目の活動開始です>
しょせん、つぶやき、政治家らしいメッセージではない。(敬称略)=毎週土曜日掲載
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岩見隆夫ホームページ http://mainichi.jp/select/seiji/iwami/
毎日新聞 2010年5月8日 東京朝刊
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