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度重なる米軍機飛来 騒音苦情が急増

2010年05月10日

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厚木基地を飛び立つ米軍の空母艦載機。訓練のため、群馬上空に向かったと見られる=3月1日、田中昭さん撮影

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渋川市の山田さん方のカレンダー。航空機による騒音が発生するたびに記録している=渋川市北橘町下箱田

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米海軍横須賀基地に停泊中の原子力空母ジョージ・ワシントン=4月25日、神奈川県横須賀市

 在日米軍の駐留によって、住民の静穏な生活が脅かされるのは、沖縄だけの問題ではない。群馬の上空も、神奈川県の厚木基地を飛び立った米軍機による訓練空域となっているとみられ、このところ、飛来回数が増えている。新日米安保条約は6月で発効から50年。住民の不安の声は日米の両政府に届いているのだろうか。(木村浩之、石渡伸治)

 「ゴーッ」「ゴーッ」

 4月8日午後8時ごろ、前橋市上空で、雷のような爆音が響いた。

 「戦争でも始まったんですか」

 年配の男性と女性から、朝日新聞前橋総局にこんな電話があった。

 爆音は19、29日の夜にもあった。

 19日夜、同市三俣町3丁目の主婦後藤由美子さん(80)は、趣味の家庭菜園を終え、テレビを見てくつろいでいた。

 突然、爆音が聞こえた。玄関の外に飛び出し、空を見上げた。飛行機と思われる赤色の灯(あか)りが二つ、ちょうど真上に見えた。門扉にしがみつき、二つの灯りがジグザグに動く軌道を追った。

 「市街地の上を旋回していた。落ちたらどうするのか」

 2008年1月の恐怖がよみがえった。正午ごろ、近くの桃ノ木川沿いを散歩していた。爆音とともに戦闘機が県庁方面から飛んできた。機体は急降下し、こちらに向かってきたような気がした。空に揚がるたこより、機体が大きく見えた。

 同市下小出町2丁目、主婦長島さち子さん(80)は、機体が上空を横切るたびに戦争を思い出す。

 市内の私立女学校の生徒だった。前橋空襲があった1945年8月5日、戦闘機は爆弾を校庭に落とした。生徒1人が寄宿舎から防空壕(ごう)に逃げる途中、犠牲になった。親友だった。

 「機影なき轟音(ごう・おん)つづけば校庭に級友(とも)爆死せる八月甦(かえ)る」

 19日の轟音直後につくった短歌だ。

 前橋市内の主婦(39)は、幼稚園児の長男(5)がかわいそうになる。4月19日の夜もそうだった。

 夕食を終え、家族でテレビを楽しんでいたときだった。突然、テレビの音声をかき消す轟音。長男は「雷だー。怖い」と騒ぎ、布団の下に潜り込んだ。航空機の轟音が響くたび、おなじことが繰り返される。

 「いつまで家族の団欒(だん・らん)が邪魔されるのでしょうか」

 渋川市北橘町の主婦山田富美子さん(63)は、米軍機とみられる航空機が上空を飛ぶと、冷蔵庫横のカレンダーの空白に、記号と時間を記録している。「J」はジェット機、ヘリコプターは「H」。3月1〜4日はスペースが足りず、欄外の余白も埋めた。

 部屋で音楽やFMラジオを聴くのが趣味だが、邪魔される。08年3月、看護師をやめ、家にいるようになって、爆音のひどさに気づいた。それから仲間とともに記録を続けている。

 平和団体の県平和委員会の事務局長小田暁夫さん(75)は「一昨年あたりから増えてきた。最近の問題は旋回訓練だ」と話す。

 小田さんによると、米軍機の急降下の振動で渋川市の工場や民家の窓ガラスが割れる被害が起きた1995年7月ごろは、米軍機は前橋上空を通過し、赤城山の稜線(りょう・せん)に向かっていた。

 現在は前橋の市街地上空での旋回が多く、県庁のビルが訓練の「攻撃目標」になっているのではないかと推測している。

 在日米軍基地を監視する市民団体「リムピース」(代表、遠藤洋一・元東京都福生市議)は、神奈川県の米海軍横須賀基地を母港とする原子力空母ジョージ・ワシントンの艦載機スーパーホーネットなどが、厚木基地から群馬上空に飛来し、急降下して爆撃する訓練を繰り返しているとみている。訓練は、空母の出航まで続くという。

 リムピースは、3月1〜4日は35〜38機が向かったとみる。群馬県地域政策課によると、この間に飛行への騒音苦情が集中し、3月1日は96件、2日13件、3日133件、4日29件あり、リムピースの情報と符合する。

 同課によると、苦情は2008年1月ごろから急増している。09年度は478件で、記録が残る99年度以降で最多の苦情が寄せられた。今年度は今月6日までにすでに140件寄せられている。

 県企画部長らは2月、防衛省と外務省を訪れ、「県民生活に影響を与える飛行の即時中止など適切な対応を米軍に求めて欲しい」と要望した。

 だが両省とも「米軍機だと推測されるので米軍に伝える」との返答にとどまったという。県は3月には、高校受験時期の飛行中止を米軍に要請するよう、防衛省前橋防衛事務所に申し入れた。

 群馬を管轄する防衛省北関東防衛局(さいたま市)は、市民らから苦情があると、米軍に飛行の有無を確認している。2〜4月の群馬上空の飛行について、米軍機による訓練と認めたため、日本の航空法を守り適切な飛行高度を維持するよう求めたという。しかし事前連絡はなく、いつ、どこで、どんな訓練をしているかについても「米軍の運用上のことで、こちらでは承知していない」としている。

 県は在日米軍司令部や在日米大使館にも要望書を郵送した。だが、中野三智男・地域政策課課長は「外交、防衛は国の所管であり、国に要望することしかできない」と話す。

 在日米軍司令部広報は朝日新聞の取材に、「いったん日本当局との調整が成立すれば、航空機の運用の回数や飛行ルートについて話し合うことはない」とコメントした。

 厚木基地の艦載機は、06年の日米合意による在日米軍の再編で、14年までに岩国基地(山口県)に移転することになっている。そうなれば群馬への飛来は減る。しかし再編の行方は不透明だ。

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