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 第3回 日本ミトコンドリア研究会年会 要旨

(演題番号41-50)

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相同DNA組換え依存するホモプラスミー成立機構とその普遍性
○柴田武彦、凌楓(理研・遺伝生化学)

目的:酵母でも、ヒトでもミトコンドリアゲノムの基本状態はホモプラスミーである。酵母細胞、哺乳類の生殖細胞系列では、ヘテロプラスミー状態は一過的で、少数世代間にホモプラスミーとなる。我々は、出芽酵母の相同DNA組換え欠損変異mhr1-1 及び、その野生型遺伝子がコードするMhr1蛋白質の研究から、ATP非依存型相同DNA対合蛋白質であるMhr1蛋白質が誘導するローリングサークル型複製でできる直鎖状多量体(コンカテマー)mtDNAが、発芽中の娘細胞への分配中間体であり、娘細胞に移ると同時に環状単量体にプロセスされるというモデルを提出した。このモデルは、ランダムに選ばれた少数のmtDNAの子孫だけを選択的に娘細胞へ送り込む結果になるので、ホモプラスミー成立機構を説明する。これらモデルを検証した。
結果:mhr1-1 変異は、mtDNAコンカテマーの量を減らし同時にヘテロプラスミックな接合体細胞からホモプラスミー細胞が分離する速度を遅らせた。一方、Mhr1蛋白質大量発現はmtDNAコンカテマー量を増加させ,同時にホモプラスミー化を加速した。これらの結果は、上記のmtDNA複製・分配のモデルと、ホモプラスミー化機構を支持する。更に、このモデルは細胞分裂周期をG1で同調した細胞でのmtDNAの選択的標識と、分裂開始後のmtDNA標識の追跡実験により確認された。
考察:多数のタンデムに連なる繰り返し配列に於いて、全ての単位配列が選択について中立である変異についても均一な集団になるというホモプラスミー化様現象は核染色体DNAでも知られている。興味深いことに、出芽酵母の核では、このような繰り返し配列の単位の増減は、DNA二本鎖切断の相同組換え修復に働く相同DNA対合蛋白質であるRad51蛋白質ではなく、ATPを必要としない相同DNA対合蛋白質Rad52蛋白に依存して起こることが知られている。従来は、繰り返し単位の増減は、不等交叉によって起こり、配列の均一化はジーンコンバージョンによって起こると言われていた。しかし、両者は、mtDNAの複製、ホモプラスミー化と共通な単一機構で説明できる。DNA二本鎖切断での、相同DNA対合蛋白質の作用結果が、ローリングサークル複製へ進むか、相同組換え修復へ進むかは、相同DNA対合反応という共通な開始機構とそこに働く相同DNA対合蛋白質の特性で決まるのかも知れない。

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相同的組換えに依存するミトコンドリアDNAの複製開始と超抑圧現象
○凌楓1、堀晶子1,2、柴田武彦1
(1理研遺伝生化学、2埼大大学院理工)

 ミトコンドリアDNA (mtDNA)の遺伝機構には数多くの謎が秘められている。mtDNAの複製がどのように開始されたかについても未だに定説がない。哺乳類細胞のmtDNA複製の開始機構については、RNA polymerase による転写依存仮説を中心に研究が進められている。一方、単細胞真核生物である出芽酵母 Saccharomyces cerevisiae のmtDNA複製開始機構としては、転写依存型と組換え依存型の両方が議論されている。
最近我々は、出芽酵母において正常な mtDNA よりも優先的に複製されるという超抑圧現象(Hypersuppressiveness)を示す欠失mtDNAの複製原点 (Ori) 領域特異的な二本鎖切断が存在することを見出した。哺乳類細胞においても同様の事例が報告されているが、その生物学的な意義は不明である。一般に二本鎖切断において、切断端から生じる3ユ末端単鎖領域が無傷の二本鎖DNAの同じ、あるいは類似した塩基配列とヘテロ二本鎖を形成し、プライマーとして働き、相手のDNA鎖を鋳型としてDNA合成することで切断によって失われたDNA配列を回復する(相同的組換え修復)。出芽酵母mtDNA組換えに必須で、ローリングサークル型mtDNA複製開始にも働くMhr1蛋白質はヘテロ二本鎖を形成する活性を持つ。そこで、酵母ミトコンドリアではOri特異的な二本鎖切断がmtDNA複製開始に働き、単位長さ当たり多数のOriを持つ短い欠失mtDNAが超抑圧現象を引き起こすと考えられる。実際、二本鎖切断の強度が超抑圧現象を示す欠失mtDNA量の維持に関連し、またMhr1蛋白質の機能欠損がこのようなmtDNAからなるコンカテマー形成能と相同的組換え体に対する量の低下をもたらすことを見出した。これらは確かにOri特異的二本鎖切断がローリングサークル型複製開始に働くこと、更に、Mhr1蛋白質によるヘテロ二本鎖形成が二本鎖切断修復による相同的組換えの開始よりも優先的にローリングサークル複製誘導に機能することを意味する。また、二本鎖切断が組換え修復、あるいはローリングサイクル複製のどちらを誘導するかを制御する機構の存在が示唆される。

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ミトコンドリアDNAの複製機構
○安川武宏、Mark Bowmaker Mingyao Yang、Aurelio Reyes & Ian Holt
(MRC DHNU, Hills Road, Cambridge, CB2 2XY, UK)

 哺乳動物ミトコンドリアDNA (mtDNA)は約16.5キロ塩基対(Kbp)の環状2本鎖DNAであり、その複製機構はそれぞれの鎖が互いに数Kbp離れた特定の位置(OH、OL)から別々に複製されるというモデルが提唱されコンセンサスを得ていた。このモデルはStrand-asymmetric型複製と呼ばれ哺乳動物mtDNAのみに見られる特徴的な機構と考えられていた。
 しかしながら、我々はDNA複製過程を正確に検証するために広く用いられているneutral/neutral 2次元電気泳動法(2DNAGE)を中心とした解析により、mtDNAはleading鎖とlagging鎖が協調的に新生されていくStrand-coupled 型複製で複製されていることを明らかにした。つまりmtDNAの複製機構は従来信じられてきたStrand-asymmetric型とは決定的に異なる、核やplasmidなどで見られる一般的なStrand-coupled型であるということを突き止めた。また、mtDNAは複製過程でリボヌクレオチドをDNA鎖に取り込んでいることも明らかにした。
 さらに我々は2DNAGEを用いてmtDNA上の複製開始場所を正確にマッピングしたところ、開始点はOHとOLではなく、cytochrome b(cyt b)、NADH dehydrogenase subunits 5、6 (ND5、ND6)の3つの遺伝子がコードされている約4 Kbpの領域にまたがった広い領域であることを明らかにした。この複製機構は本質的に両方向へ複製フォークが拡大していくbi-directional theta replicationであり、一方向の複製の進行はOHで停止し、それ以降はその逆方向のみに複製が進行している。
これらの結果はヒト、マウス、ラット、培養細胞で共通であったことから、哺乳動物や同等の大きさの環状2本鎖mtDNAを持つ生物のあらゆるmtDNAの複製は上記の機構を共有していると考えられる。

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TFAMはミトコンドリアDNAの維持に必要である
○神吉智丈、大垣吉平、濱崎直孝、康東天
(九大・医・臨床分子医学)

要旨:我々は、transcription factor A (TFAM)が、ミトコンドリアDNA(mtDNA)1コピー当たり約1000分子存在すること、さらに、その全てがmtDNAと結合していることを明らかにし、核様体の主体は、mtDNAとTFAMの複合体であることを報告してきた。今回われわれは、ヒトHeLa細胞に於いて、tet-offシステムを用いたTFAMの過剰発現細胞を樹立した。組織染色で確認したところ、過剰発現したTFAMのほとんどがミトコンドリアに局在した。過剰発現状態ではコントロールに対し、TFAMがおよそ2倍発現し、同時にmtDNAも2倍に増加した。また、RNAiを用いたTFAM発現抑制実験では、TFAMは15%程度まで減少し、同時にmtDNAも10%程度まで減少した。さらに、TFAM過剰発現状態で、RNAiを用いて内在性TFAMの発現を抑制すると、内在性のTFAMは、15%程度まで減少するが、tet-offシステム由来のTFAMは減少せず、TFAMの総量は1.1〜1.5倍程度となった。このときmtDNAも同程度維持されていた。こうしたTFAMの増減に従いmtDNAも同程度増減するというこれらの結果は、TFAMがmtDNAの維持に重要な役割を果たしている事を強く示唆している。さらに、これらの過剰発現細胞もしくはRNAiによるTFA発現抑制細胞から精製してきたミトコンドリアを用いて転写活性を測定し、TFAMの過剰発現時、発現抑制時の転写に対する影響も観察中である。

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8-oxodG修復におけるTFAMの役割
○福應温、Alam Tanfis Istiaq、濱崎直孝、康東天
(九大・医・臨床分子医学)

[背景・目的] mtDNAは細胞内でもっとも活性酸素が産生されているミトコンドリア内に存在しているため酸化傷害を受けやすい。DNAの酸化傷害として代表的な8-oxodGは塩基除去修復により修復されると考えられている。塩基除去修復は傷害特異的なDNAグリコシラーゼによる傷害塩基の除去によって始まり、すべてのDNAグリコシラーゼが持つAPエンドヌクレアーゼ活性により修復合成されるべきDNAのギャップを形成する。大腸菌ではMutMとMutYが、ヒトにおいてはhOGG1とhMYHがそれぞれ8-oxodG/dCペアの8-oxodGと8-oxodG/dAペアの dAを除去する。これまでにhOGG1とhMYHはmtDNAにおいても8-oxodGの修復に働くことが報告されている。我々はTFAMがmtDNAとnucleoid構造をとっていると考えているが、本研究ではTFAMが酸化傷害に対する塩基除去修復においてどのような役割果たしているかを明らかにする端緒として、それぞれのDNAグリコシラーゼの活性に対してTFAMがどのような作用をもつか検討した。
[方法・結果及び考察] 大腸菌MutMおよびMutYを用いた8-oxodG修飾したオリゴDNAに対するDNA鎖切断実験系にTFAMを加えたところ、TFAMがMutMとMutYどちらのAPエンドヌクレアーゼ活性に対しても阻害的に働くことが分かった。一方、我々は同じオリゴDNAを用いたEMSAにより、TFAMが8-oxodG修飾したオリゴDNAと結合することを確認している。これまでにも酸化傷害部位にTFAMが高い親和性を持つという報告がなされており、TFAMはMutMやMutYのヌクレアーゼ活性を基質拮抗的に阻害すると考えられる。本研究会では、hOGG1、hMYHに対するTFAMの作用も合わせて検討し、さらにそれぞれのDNAグリコシラーゼの8-oxodG修復に対するTFAMの効果を基質特異性の点から考察したいと考えている。

46 HL60細胞のアポトーシスに伴うミトコンドリアDNAの挙動について
○小林涼子、吉川欣亮、米川博通
(都臨床研・実験動物)

HL60細胞にN6-benzyladenosine(NBA)を作用させると、DNAラダーの生成や、カスパーゼ-3およびカスパーゼ-9の活性化を伴う典型的なアポトーシスを起こすこと、およびNBAの作用はアデノシン受容体を介するものでなく、細胞膜上のヌクレオシドトランスポーターによる取込みに依存した反応であることがMlejnekらにより報告された。我々はNBAによるアポトーシス誘導に伴う細胞DNAの分解の様子をパルスフィールドアガロースゲル電気泳動法(PFGE)で調べた結果、ミトコンドリアDNA(mtDNA)に関して興味深い結果を得た。
HL60細胞に通常の培養条件下でNBAを投与して20-24時間の処理でアポトーシスを誘導の後、常法に従いサンプルを調製し、Bio-Rad社製Cheff Mapperを用いてPFGE分析を行った。 泳動後のEtBr染色による検出で、smear状の分解物が広い分子量領域にわたって見られたが、試薬濃度5-10mMで、高分子量DNAの分解の進行に伴い、およそ400kbp付近に、通常の培養条件では見られない特有のバンドを生じた。このバンドを含む部分をアガロースゲルから切り出して精製、制限酵素処理後、ショットガンシークエンス法によりDNA塩基配列を決定したところ、その大部分がauthenticなmtDNA配列を含むフラグメントであり、ヒトmtDNA由来の放射性プローブがこれらのバンド付近に?nイブリダイズすることを確かめた。また、ヒト型mtDNA塩基配列の1ケ所だけを切断する制限酵素での処理で、ヒトmtDNAのゲノムサイズ(16.5 kbp) の泳動位置に濃いバンドを生じた。PFGEによる同様の現象は、etoposide処理によるアポトーシス誘導サンプルにおいても検出された。以上の結果から、アポトーシスの過程にリンクして、mtDNAがその存在あるいは代謝様式に変化を生じたものと考えられる。
47 pro-anticancer drugであるYT-4,5のミトコンドリアの機能に対する影響
○岡本麻由美1、友田 夫2、濱崎直孝1、康東天1
(1九大・医・臨床分子医学、2東京医科大・生化学)

(目的)抗腫瘍作用を有するYT-4、YT-5は、化学合成により製造された水溶性フェノキサジン化合物である。これまでの実験で、YT-4、YT-5は細胞レベルでは種々の癌細胞に対して抗腫瘍作用を示し、マウスへの投与実験においても同様の結果が得られている。抗腫瘍作用を示す一方、副作用が少なく、新規の抗癌剤として実用化されることが期待されている。この薬剤のpolgの活性阻害作用が報告されている。今回薬剤の抗腫瘍作用とpolgの活性阻害作用の関係を調べた。
(結果)Jurkat cellにYT-4、YT-5を加えて培養し細胞増殖曲線を作成すると、濃度依存性に細胞増殖が抑制された。そのtotal DNAを用いて行ったサザンブロットでは、mtDNA量の低下はみられなかったが、ミトコンドリア膜電位では低下していた。以上の結果よりYT-4、YT-5は細胞レベルではmtDNAの複製阻害作用はなく、ミトコンドリアの電子伝達系に作用していることが推測された。現在さらにミトコンドリアへの影響について解析中である。

48 日本人におけるミトコンドリアゲノム多様性
○田中雅嗣(岐阜県国際バイオ研究所)

【背景】ミトコンドリアDNA (mtDNA)の全塩基配列に基づいた世界人類のミトコンドリアDNAの多様性に関する最近の分析は、ヒトのアフリカ起源説を支持する確固たる証拠を提供している(Ingmanら、2000)。100,000年前以降に、少なくとも2つのmtDNA人間血統が、急速にアフリカから旧世界に広がり始めた(Maca-Meyerら、2001)。考古学的記録は約30,000年前に人間が極東アジアの日本に到着したことを示している。(Gloverら、1980)。その頃、日本は北と南の陸橋によってアジア大陸とつながっており2つの移入ルートが可能であった。13,000年前に日本とシベリアにおいて世界で初めての土器が出現した(Shiraishi 2002)。その後の技術的な改良は、日本の新石器時代の縄文文化をもたらし、かなりの人口成長が見られた。その後大陸の人々が朝鮮半島からの日本に到着し弥生時代が始まり、約2000年前に人口の流入は最大となったと推定されている。
【研究方法】東アジアのmtDNAの系統樹を構築するために、私たちは日本人672個体のミトコンドリアゲノムの全塩基配列を決定した。これにより、アジア人942個体の全塩基配列を使って系統発生を分析することが可能になった。日本人mtDNAの全塩基配列データから新しい分岐および小分岐が同定された。この明白な系統樹に基づいて、私たちはアジア人4,713個体のmtDNAの部分的塩基配列を10%未満の誤差で分類した。
【結果および考察】人口および系統地理学的な方法を適用して、日本列島におけるヒトの定住の歴史において論争の的になっている問題を明確にするために、mtDNAの部分配列を利用した。人口に基づいた比較によって、現代の日本人が北アジア人、特に韓国人に最も近い遺伝類似性を持っていることを確認した。このことは、弥生時代以降に中国大陸から日本へ遺伝子の拡散が生じたとする従来の説と一致する。一方、この系統地理学的なアプローチによって旧石器時代の日本人が高度に分化していたことが明らかになった。琉球人とアイヌ人において基礎的なMおよびN系統が存在することから、古代において南方と北方からの移住があったと推定された。さらに、日本人とチベット人との間の直接的な関係も明確になった。これはY染色体の研究結果と一致した結果である。更に、いくつかの小分岐が日本において最も高い多様性を示したことから、日本がアジア大陸への移住拡大していった地域の一つであると推定された。
【結論】ミトコンドリアゲノム多型から描き出されたこの複雑な像は、日本への定住の歴史を説明するために提案されてきた従来の理論では十分に説明できない。
49 食道がんにおけるミトコンドリアDNA の変異
○組本博司1、山根由裕1、篠田雅幸2、波戸岡俊三2、石崎寛治1
(1愛知がんセ・研・中央実験、2病・胸部外科)

 ミトコンドリアゲノムDNAは、乳がん、膀胱がんや肺がんなどの様々ながんにおいてに高頻度に変異があることが報告されている。一方、食道がんでは、飲酒・喫煙などによるDNAへのダメージによって生じるがん関連遺伝子の変異が発がんに重要であることが明らかとなっているが、ミトコンドリアDNAへのダメージや変異の誘発に関してはほとんど調べられていない。そこで、我々はミトコンドリアDNAの中で特に多型が多く見つかっているHVR-IおよびHVR-II の変異を解析した。愛知県がんセンター病院において手術を受けた38例の食道がん患者の腫瘍および正常組織由来のDNAについて、HVR-I、HVR-IIそれぞれの領域を特異的なプライマーを用いてPCRにより増幅し、それらの塩基配列を比較することによって変異を検出した。
その結果、13例(34.2%)に変異を観察し、高い頻度で変異が起こっていることを見いだした。13例の内12例は1カ所に、1例は2カ所に変異が生じていた。また、14カ所の変異の内11の変異はHVR-II内にあるCの繰り返し領域(MitMapの303-309)の繰り返し数の変化であった。一方、核ゲノムDNAの9番、10番、13番染色体に存在する3カ所のマイクロサテライト領域について解析した結果、38例のうち4例についてのみ、1カ所のマイクロサテライトに変異が見られた。これは、食道がんに核ゲノムの不安定性がほとんど見られないという以前からの報告とよく一致している。これらの結果から、食道がんのミトコンドリアDNA においては、核ゲノムとは独立に不安定性が誘発されている可能性がある。
 また、ミトコンドリアDNAに変異を持つ症例と変異を持たない症例の予後を比較したところ、予備的な解析結果では、変異を持つ症例の方が持たない症例より悪い傾向にあった。現在詳細な解析を行っているので、併せて報告する。
50 小児発症MELASの予後
○松崎美保子、中野和俊、佐々木香織、中山智博、田良島美佳子、立川恵美子、大澤真木子
(東京女子医大小児科)

〔目的〕小児発症のMitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis and strokelike episodes (MELAS)における、予後を明らかにする。
〔対象・方法〕症状、高乳酸アシドーシス、筋生検上ragged red fiberの存在、mtDNA 変異の有無などにより診断したMELAS罹患者8名(男児3名)、初発3歳〜15歳2ケ月、最終受診時年齢6歳11ケ月〜29歳を対象に症状、経過を後方視的に分析した。
〔結果〕初発症状は、筋症状4例、中枢神経(CNS)症状3例、両者同時出現1例であった。片頭痛様発作を、筋症状初発者は4例17エピソードに、CNS症状初発者は2例3エピソードに認めた。痙攣を伴う発作が認められた7例29エピソードの内、痙攣に先行して4例7エピソードに頭痛を、3例6エピソードに嘔吐を、2例5エピソードに視覚症状を認めた。片頭痛、嘔吐、意識障害、半盲・羞明、閃輝などの眼症状、痙攣(全身性痙攣、部分痙攣、持続性部分痙攣EPC、眼瞼ミオクローヌス)、一過性片麻痺、小脳性失調が出現した。同一症例でも、発作ごとに臨床症状は多彩。経時的に痙攣発作型・出現部位が変化し、4例では多源性、1例では交代性痙攣、4例では群?ュ、2例ではEPCが出現した。加齢とともに発作症状を起こさず脳筋症が徐々に進行するタイプ、急速に脳筋症が進行するタイプ、心筋症が進行するタイプを認めた。2例は、6歳11ケ月拡張型心筋症、8歳5ケ月乳酸性アシドーシスを伴う痙攣群発にて死亡、いずれも就学前発症であった。
〔考察・結論〕片頭痛様発作は、痙攣を伴う脳卒中様発作の軽症型と推測された。若年発症者で、重篤な経過をたどった。

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