八代尚宏・国際基督教大教授 定昇見直しの勧め (1/2ページ)

2010.2.17 05:00

 ■若年層や非正規の改善原資に

 経営環境が厳しい中での春季労使交渉(春闘)が始まった。2009年の国内総生産(GDP)は、前年比で5%も落ち込む一方、雇用者数は微減にとどまっており、全国で600万人もの過剰雇用が存在するといわれる10年は、世界貿易の回復から、日本経済もプラス成長が予測されている。他方、物価下落はさらに進むため、名目ベースではゼロ成長となり、企業の所得も現状維持にとどまる。

 こうした状況の下、労働側は賃金水準の引き上げ(ベースアップ)はあきらめ、1年先輩の社員の給与に追い付く定期昇給のみを要求に掲げた。しかし、経営者側は雇用を守るためには定期昇給の凍結も必要としており、隔たりは大きい。

 過去の高い経済成長の時代の春闘は、年々増える企業利益を、賃金増の形で労働側に配分する仕組みだった。しかし、低成長期では、賃金引き上げよりも、過剰雇用を維持することで、企業の所得が労働側に配分される面が大きい。すでに08年の労働分配率は、00年初のピーク時の水準まで跳ね上がっている。

 こうしたなかで、過去の年功型賃金を維持する定期昇給は、労働者間の賃金格差を生み出す要因となる。男性雇用者のうち、50歳以上シェアは、20年前と比べて1割弱高まったが、これは賃金総額でも同様である。この分だけ、若年層の雇用や賃金がしわ寄せを受けていることになる。

 一方、今の若年世代が50代になるころは、それを支える若年者層はいっそう減少し、現在のような定昇制度は夢物語となろう。高年齢者が希少であった時代に形成された年功賃金の負担は、高齢社会では若年労働者にしわ寄せされる。これは年金制度の世代間格差と同じ原理である。

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