IP電話はインターネットを利用した安価な通話サービスだ。メリットとして、
などが挙げられる。しかし、IP電話の導入に当たってはIP-PBXの導入や通信網の整備といったコストが掛かるのが実情だ。さらに、万一不具合が発生しても元の電話網に簡単には戻せない。
導入の手間とコストの面では、SkypeはIP電話より優位に立っているといえるだろう。Skypeの場合、インターネットに接続されているPCに専用のソフトウェアをインストールしてヘッドセットを接続すれば、すぐに使用を開始できる。
基本設定のみではSkype同士の通話しかできないが、Skypeから直接、固定電話や携帯電話に通話発信できる「SkypeOut」を利用すればSkype以外との通話も可能になる。そして、試してみて何か支障があれば簡単に利用を停止できる。既存の電話網を変更せず併用することが可能だ。
IP電話を導入した場合、着信の電話番号が050で始まる番号になることがある。中には、長年使ってきたNTTの電話番号をそのまま利用できる、「番号ポータビリティ」に対応したIP電話サービスも存在する。しかし、すべての事業者が番号ポータビリティに対応しているわけではなく、2008年現在、番号ポータビリティ対応のサービスを提供しているのは厳しい品質基準をクリアした一部の事業者のみとなっている。そのため、地域によっては番号ポータビリティ対応のIP電話サービスを提供する業者が少なく、費用面や機能面で業務に最適なIP電話網を構築できない可能性がある。
一方Skypeは、固定電話や携帯電話からの発信を受信できる「SkypeIn」を利用することで、着信専用の電話番号「オンライン番号」を取得できる。日本ではオンライン番号として頭に「050」が割り当てられており、IP電話と同じく、必ず050で始まる着信番号になる。
ただし、どちらを導入した場合でも、電話番号の変更により取引先や顧客などへの周知や名刺および封筒などの刷り直しなど、新たなコストが発生することを忘れてはならない。また、社員の中には会社の電話番号が変更になる(特に局番)ことに抵抗を感じる人間も多いだろう。実際、日経コミュニケーションが実施したアンケートでは、「会社の電話がIP電話に変わることによって電話番号が『050』から始まるIP電話専用番号に変わる可能性があります。あなたは050番号に変わることに抵抗がありますか?」という問いに対して、「抵抗がある」と答えた読者が75.5%もいたという。
企業でIP電話やSkypeを導入する目的の1つとしてコスト削減が大事な要素となるが、それらの導入により業務効率が下がってしまっては意味がない。もし、どうしても電話番号の変更に社員の抵抗があるならば、それを考慮して既存の電話番号が使える番号ポータビリティ対応のIP電話サービスを選択するのがよいだろう。
IP電話は専用のサーバを利用し、ネットワーク構成の追加変更や調整が必要となるが、その分ネットワーク効率を十分に考慮して調整した上で使用を開始するため、音声品質を確保しやすい。
しかし、Skypeは既存のネットワークをそのまま利用する。従来の業務でのやりとりで既にある程度の帯域が使われている中、そこにSkypeが入り込む余地はあるのか。通話音声は途切れずにちゃんと聞こえるのだろうか。
Skypeは高音質な通話を保つために、さまざまな技術を使っている。そのうちの1つが、人間の声をデジタル信号に変換する「コーデック」の方式だ。コーデックでデジタル化されるデータが大きければ大きいほど、ネットワークには負荷が掛かる。Skypeでは、ネットワークにできるだけ負荷を掛けず高音質の通話音声を再生するために、CPUの処理速度やネットワークの回線状態によって、適切なコーデック方式を3種類の中から自動的に選択するようになっている。使われているコーデック方式は以下の通りだ。
名称 | 符号化速度 | 対象周波数 | 切り替え条件 |
---|---|---|---|
iSac | 10k〜32kbps | 50Hz〜8kHz | ブロードバンドの品質 |
iLbc | 13.3kbpsまたは15.2kbps | 300Hz〜3.4kHz | 数百kbps程度の回線 |
非公開 | 数kbps(推測) | 非公開 | 数十kbps程度の回線 |
ネットワーク負荷が少ないときは、Skypeが使用しているコーデックの中で最も高品質な音声を提供する「iSac」を利用しているが、負荷が増してくると「iLbc」に順次切り替わる。iLbcは固定電話と同じ300Hzから3.4kHzに対応したコーデックだ。もちろん、固定電話と同じ周波数であることから分かるように、iLbcを使用した場合でも通話には十分な音質が得られる。さらに、それでもネットワーク帯域が足りない場合は非公開のSkype独自のコーデックを使うとしている。この技術に関してはSkype社が詳細を公表していないため分からないが、この独自のコーデックでも、ある程度の通話品質を保つようになっているという。
さらに、ユーザーが通話中の状態を監視し、状況に応じてコーデックをリアルタイムで変更することもできる。音質は多少犠牲にはなるが、ネットワークの負荷増大により音声が途切れたりすることはない。
では、会社でSkypeを導入した場合、コスト面ではどのようなメリットが得られるのか。固定電話やIP電話の通話料金と比較すると、その安さを実感できる。
まずは、従来の固定電話の通話料金を確認してみよう。なお、固定電話での通話の場合、会社ごとに特別な割引などがあるが煩雑になるため詳細は省略する。ここでは、割引などをしない通常の通話料金について見ていく。以下が、平日8時から19時の昼間に、固定電話から市内/市外の固定電話に発信した場合の料金の一例である。
通常の通話料金(昼間) | マイライン(※1)適用時 | |
---|---|---|
NTT東日本/NTT西日本 | 8.925円/3分 | 8.5円/3分 |
NTTコミュニケーションズ | 8.925円/3分 | 8.5円/3分 |
KDDIメタルプラス | 8.4円/3分 | 8.5円/3分 |
ソフトバンクテレコム | 8.925円/3分 | 8.5円/3分 |
(※1)マイラインとは、あらかじめ利用する電話会社を登録することで、通話する際に電話会社の識別番号を付けずにその電話会社での通話接続を可能にする電話会社選択サービス。
同一県内の市外通話(区域隣接区域〜20km) | 同一県内の市外通話(100km〜) | 県外への通話(区域隣接区域〜20km) | 県外への通話(100km〜) | |
---|---|---|---|---|
NTT東日本/NTT西日本(※2) | 21円/3分 [20円/3分] |
42円/3分 [40円/3分] |
区域相互間の距離に比例して料金が上がる | 区域相互間の距離に比例して料金が上がる |
NTTコミュニケーションズ | 21円/3分 [8円/3分] |
42円/3分 [8.4円/3分] |
21円/3分 [15円/3分] |
84円/3分 [15円/3分] |
KDDIメタルプラス(※3) | ─ [20円/3分] |
8.4円/3分 [40円/3分] |
─ [20円/3分] |
15.75円/3分 [80円/3分] |
ソフトバンクテレコム | 21円/3分 [20円/3分] |
42円/3分 [40円/3分] |
21円/3分 [20円/3分] |
84円/3分 [80円/3分] |
(※2)NTT東日本/NTT西日本では、全国を562の単位料金区域(MA:Message Area)区域に分けて設定している。MAは「市内通話料金(昼間8.5円/3分)で通話できる区域」を指し、区域内・隣接区域内・区域外の3つに分けて料金が課金される。そのため、県内でも区域外に当たる可能性がある。
(※3)「KDDIメタルプラス」は、KDDIが中継網や電話回線、回線収容機まですべてを提供する直収の電話サービス。NTTの交換機や電話回線を使わないため、基本料を含め全体的に料金を割安に抑えられている。ここで示すマイライン適用時の料金は、NTTの交換機や電話回線を使った際の値段を算出した(そのため、マイラインを適用時の方が料金が高くなっている)。
固定電話から固定電話への発信の場合、市内通話はどのサービスを選択しても通話料金の差はほとんどない。市外通話の一部ではKDDIやマイライン適用時のNTTコミュニケーションズなど、安めに抑えられるところが出てきている。しかし、全国に支店を持つ大手企業ならばコスト軽減につながるかもしれないが、事業所が数カ所しかない中小企業の場合は劇的なコスト削減になるとは言い難い。
IP電話の場合、市内/市外で通話料金が左右されることはない。IP電話の通話料金例を見てみると、NTT東日本が提供する「ひかり電話オフィスタイプ」を使用した場合で8.4円/3分となっている。
では、Skypeの料金はどうだろう。Skypeは一部の制限を除き、国内通話を一定の料金でかけ放題として使用できる。2008年現在、固定電話に実質無制限の通話を発信できる料金プランとして「1カ国限定プラン」「世界中どこでもプラン」が実施されている。
1カ国限定プランは、月額695円で「指定した1カ国への固定電話が1カ月当たり最高1万分まで通話し放題」というものだ。月内の使用時間は約166時間と区切られているが、通常の通話時間を考えると実質的には無制限に近い。指定国を日本に設定すれば、国内通話が月額695円でかけ放題ということになる。
この料金を、IP電話で1万分通話する場合と比較してみよう。前述したひかり電話オフィスタイプの通話料金を当てはめると、1分当たりの通話料金は2.8円のため、2.8円×1万分=2万8000円となる。Skypeを使用する場合との差額は2万7305円にもなる。また、IP電話と違い、基本料金も掛からない。大手企業のみならず、中小企業の場合でも大幅なコスト軽減につなげられると推測できる。
ただし、ここでは通話料金のみに着目しており、Skypeと固定電話とのやりとりを補強するゲートウェイなどに掛かるコストは計算に入れていないことに注意していただきたい。Skype社側は、ビジネスでの利用でも音質は基本的に問題ないとしている。とはいえ、実際に使ってみると不具合を感じることがあるかもしれない。その場合は、自社側でネットワークの調整が必要になる可能性もある。
不便な点としては、フリーダイヤルや緊急電話には発信できないことが挙げられる。例えば、以下のような番号には発信できない。
そのほか、非通知拒否が設定された固定電話や携帯電話とは通話できないことがある。ただ、既存の電話と併用していれば上記のような番号には従来の固定電話で発信すればよい。多少の制限はあるものの、やはり月額695円という圧倒的な料金の安さは企業にとって魅力といえるのではないだろうか。
では、携帯電話やIP電話にかける場合でも、Skypeは「得」だといえるのだろうか。従来の固定電話サービスおよびIP電話から、携帯電話とIP電話に発信した際の料金を見てみよう。
NTTドコモ携帯 | au携帯 | ソフトバンク携帯 | |
---|---|---|---|
NTT東日本/NTT西日本 「0036通話サービス」(※4) |
50.4円/3分 | 55.125円/3分 | 55.125円/3分 |
NTTコミュニケーションズ 「0033モバイル」(※5) |
51.975円/3分 | 51.975円/3分 | 51.975円/3分 |
KDDIメタルプラス | 50.4円/3分 | 48.825円/3分 | 50.4円/3分 |
ソフトバンクテレコム 「0088ケータイコール」(※6) |
56.7円/3分 | 56.7円/3分 | 56.7円/3分 |
(※4)携帯番号の前に「0036」をつけて発信すると携帯電話への通話料金が安くなるサービス。
(※5)携帯番号の前に「0033」をつけて発信すると携帯電話に一律料金でかけられるサービス。
(※6)携帯番号の前に「0088」を付けて発信すると、携帯電話への通話料金が安くなるサービス。2つの料金体系があるが、ここでは申し込み不要な標準料金を記載した。
料金 | |
---|---|
NTT東日本/NTT西日本 | 10.92〜11.34円/3分 |
KDDIメタルプラス | 10.5円/3分 |
ソフトバンクテレコム | 10.5円/3分 |
IP電話サービス「ひかり電話オフィスタイプ」を使用した場合、携帯電話への通話は50.4〜55.125円/3分、IP電話への通話は10.92〜11.34/3分となっている。
Skypeから携帯電話やIP電話にかける場合は、17.5円/分、すなわち52.5円/3分となる。携帯電話へ発信する際は従来の固定電話やIP電話から発信するのとあまり変わらないが、IP電話へかける場合はかなり割高となってしまう。そのため、IP電話(050番号)へ発信する場合、Skypeではなく既存の固定電話を利用した方がよいだろう。Skypeのみに固執するのではなく、このように併用していくこともコストを軽減する大きなポイントとなる。
海外出張や海外の取引先との電話会議が多い企業の場合、最も通話コストが掛かるのが国際電話だろう。Skypeは国際電話をよく利用する企業に向いている。なぜならSkypeは、国際電話の通話料において、最もその「通話料を安価に抑える」魅力を発揮するからだ。では、平日昼間(8時〜19時)に各国へ電話をかけたとき、従来の固定電話を使った主な国際通話料金から見てみよう。
米国 | 中国 | フィリピン | |
---|---|---|---|
NTTコミュニケーションズ | 159円/3分 | 420円/3分 | 450円/3分 |
NTTコミュニケーションズ (「プラチナライン&世界割」適用) |
27円/3分 | 87円/3分 | 105円/3分 |
KDDIメタルプラス | 27円/3分 | 90円/3分 | 105円/3分 |
ソフトバンクテレコム | 180円/3分 | 490円/3分 | 520円/3分 |
一方、固定電話に比べて国際通話料金が安いとされているIP電話はというと、「ひかり電話オフィスタイプ」を例に取ると、米国へは27円/3分、中国へは90円/3分、フィリピンへは105円/3分となっている。固定電話からの国際電話も最近はかなり安くなっており、IP電話に迫る勢いで安価な通話料金プランも登場している。
しかし、Skypeを使えばさらにコストを抑えることが可能だ。Skypeには、「世界中どこでもプラン」というプランが用意されている。これは、月額1495円で「世界34カ国の固定電話に1カ月当たり最高1万分まで通話し放題」という料金プランだ。1カ国限定プランと同じく使用時間制限はあるものの、よほどでない限り使用時間が足りないということはないだろう。ビジネス上、世界中の拠点と連絡を取らなければならない企業にとって、従来、国際電話するたびに掛かっていたコストをSkypeならば1495円×契約ユーザー数のみで済ませられる。通話のたびに料金が加算されることはない。しかもSkypeは音声だけでなく、チャットでテキストメッセージを送ったりファイルを送信したりすることもできる。
このように、Skypeを利用すると大幅に通話料や導入に掛かるコストを節減できることが分かる。さらに、通話はSkype名とパスワードで管理されているので、インターネットに接続したPCとヘッドセットがあれば、どこからでも発信できるのも見逃せない点だ。固定電話やIP電話は、社内の電話機が設置されたところでないと通話できず、オフィスから出てしまえば社員個人が自費で通話するしかない。一方、Skypeはインターネット環境さえあれば出先からでも会社の経費内で電話をかけられる。使い勝手と導入しやすさ、コスト面から見れば、Skypeは企業のビジネスで役立つツールであるといえるだろう。
ただし、もちろんSkypeもメリットばかりではない。企業でSkypeを使用する際に最大の課題となるセキュリティ対策やID管理の問題がある。次回は、コスト以外の面から見た企業でのSkype活用対策を解説する。
1988年、秀和システムが企画した「はじめてのシリーズ」の著者に応募。審査後、同年に著作開始。既刊の著書40冊以上。All AboutのLANガイドもAll Aboutの開設当時から務めている。All About内でLANコミュニティーも主催しており、ネットワーク関連で困ったことがあれば、気軽に質問できる。
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