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社説:視点 長命社会 100歳まで働ける社会を

 「高齢者の生きがい問題で究極の解決策は就労だ」「となると、コミュニティーの中で高齢者が活躍できる場所の拡充が必要になってくる」「高齢者のキャリアコーディネーターを育成したらどうだろうか」

 学者と企業人との熱っぽい討議が続く。東大の高齢社会総合研究機構が国内の民間企業35社と昨年4月から始めた「ジェロントロジー(老年学)プロジェクト」。高齢化のピークとなる2030年を念頭に、互いに知恵を出し合い理想的な社会を築くためのロードマップ(行程表)を2年がかりで作ろう、という試みだ。 

 参加企業は、自動車・機械メーカー、食品・生活用品メーカー、流通・外食産業、建築・不動産業、金融業、医療・福祉機関など多岐にわたる。毎月1回の勉強会を開き、合宿や分科会で議論を重ねてきた。企業側の関心はもちろん高齢化対応の新商品、サービスの開発だが、異業種交流会としての役割も兼ねた産学の最先端の情報交換は、未来像の枠を広げている。

 3月にまとめた中間報告では具体例が72項目も挙げられた。100年間建て替えなしにリフォームだけで使える住宅技術の普及、高齢者でも安心して利用できる超小型電気自動車の開発、尿漏れなど排せつトラブルへの医学的サポートの確立、迷子や徘徊(はいかい)者を識別し保護する見守りシステムの整備など、いくつものアイデアが出された。

 注目したいのは、高齢化対策として最も重要だと思われる就労環境の理想として、100歳まで働ける「就労バリアフリー社会システム」の成立をうたっていることだ。もちろん若年層の就労機会が優先されるのは当然だ。だが、報告は高齢者の就労目的を生きがいの創造、技術の伝承、社会への貢献と位置付けている。そして、高齢者が(1)無理なく楽しく自分の能力・経験を生かし続けられる場作り(2)年齢にかかわらず個人の潜在能力が適正に評価される制度の定着(3)何歳でも何度でも転職、起業できる市場環境の育成--を課題として指摘している。

 理想はあくまでも理想だ。しかし、20年後に日本の高齢化率が3割を超え、75歳以上が現在の倍の2300万人になることが想定されている以上、100歳までの就労モデルはある意味では現実的課題といえる。

 長命社会を対象とした産学連携の共同研究には大いに期待したい。世界最速の高齢化を遂げる日本に見本はなく、その意味では、研究から試行錯誤を重ね日本モデルを世界に発信していくしかないからだ。

毎日新聞 2010年5月10日 2時30分

 

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