中日−ヤクルト 8イニングを3安打無得点に抑えた先発の山内=ナゴヤドームで(榎戸直紀撮影)
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ちりも積もれば山となる。有名なことわざをこの日の山内に言い換えれば、「1球の積み重ねが快投になる」−。全112球。プロ入り最長となる8イニングを投げ、3安打無失点。今季2勝目こそならなかったが、白星にも等しい快投劇だった。
「とにかく1球1球に集中して投げました。どの球がよかったとかは覚えていません。先に点を取られないようにとだけ考えて投げました」
3年目にして初めてのナゴヤドーム。地元の愛知県豊田市出身だけに、感激もひとしおだった。「すごい声援で。力になりました」。140キロ前後の速球に得意のスライダー、新球のシュートを投げ分けた。初回から3回までパーフェクト。その後も球を低めに集め、ゴロの山を築いた。
スタンドには母の広美さんをはじめ、家族の姿があった。「来てたのは知りませんでした」。快投は1日早い「母の日」の贈り物にもなった。
強く胸に刻んでいる言葉がある。プロ初白星を挙げた4月25日の夜。ファームの小林投手コーチに電話で報告したところ、祝福とともに助言をもらった。「1つ勝ったことで(成績などの)欲が出ると思う。でも計算はせず、1球1球だけに集中するんだ」。小林投手コーチ自身、初白星から登板16試合、1年5カ月も勝てなかった経験がある。「おれは計算して、2勝目が遠かった」。白星の皮算用をしても、結果はついてこない。欲の怖さを教えられた。
「余計なことを考えず、集中して投げることを心がけました」と試合後の山内は言った。規定投球回には達していないが、防御率1・42と抜群の安定感を示している。
「勝ちたかった? いえ。白星がつかなくても、チームが勝てたからよかったです。交流戦も必死に投げたいです」。山内に必要以上の欲はない。計算もしない。ひたすら打者にだけ集中し、快投を続けようとしている。 (清水裕介)
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