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【コラム】

筆洗

2010年5月9日

 営業というものは、客に断られたからって、すごすご引き下がっていたら話にならないだろう。いや、むしろ、そこからが営業らしい▼<セールスは客にノーと言われてから始まる>。一種のビジネス格言になっているが、元は、米国のエルマー・レターマンという人が書いたセールス指南書の題。一九五三年刊というからほとんど古典だが、今なお『営業は断られた時から始まる』のタイトルで邦訳も出ている▼ネット書店で検索してみると、その手の指南書は実にたくさんある。『営業は感情移入』『営業は準備が9割!』などは、やはりタイトルがそのまま警句になりそうな気もする▼米軍普天間飛行場移設をめぐる鳩山さんの仕事も、提案を受けてもらえるよう相手を説得する、という図式だけ見れば営業に似ている。そして果たせるかな沖縄の人々にはきっぱり「県内」にノーと言われ、鹿児島県・徳之島の町長らにもはっきり「一部移転」を断られた▼もっとも首相の“営業”には<ノーと言われてから始まる>気配はない。沖縄では「国外か県外」という前言を反故(ほご)にした裏切りに怒りが渦巻いているし、徳之島の町長らも今後話はしない構え。始まるどころかもう先がない▼沖縄の負担を減らしたいとの<感情移入>はあったのだろう。だが、それを形にする<準備>は結局、何もできていなかったのである。

 

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