クライミングに挑戦する視覚障害児たち=東京都杉並区の明治大学、関口聡撮影
岩や人工壁をよじ登るフリークライミングが、目の不自由な人たちの間で広がっている。命綱(ロープ)で安全を確保しながら自分のペースで挑戦でき、日常生活の自信にもつながるとして、活動に取り入れる盲学校もある。今冬、視覚障害者だけが参加する初の世界大会も開かれる予定だ。
「次は右手、11時の方向に10センチ」「すごい、さっきより高い所まで登れてるよ」。明治大学和泉キャンパス(東京都杉並区)の体育館にある高さ11メートルの人工壁。ここで、都立久我山青光(せいこう)学園(視覚障害教育部門、旧・久我山盲学校)の小中学生が、放課後活動としてクライミングに挑戦している。声援を受け、つかみやすいホールド(突起物)を手探りしながら、少しずつ登っていく。
付き添いの母親らは「障害があると、人との接点が少なくなりがちなので、こういう機会を積極的に活用している」「中学生はロープを持つ役を務めることもあり、仲間の命を預かる重みも感じている」と話す。子どもたちに負けじと、息を切らして壁に挑む父母もいる。
指導するのは、NPO法人モンキーマジック(東京都武蔵野市)の代表小林幸一郎さん(42)。主に視覚障害者向けの講習会を運営している。合言葉は「No Sight But On Sight!」(見えなくても一発で登れるぜ!)。「On Sight」は、「初めてのルートを、落下せず登り切ること」を指すクライミング用語だ。
小林さんは28歳の時、進行性の網膜の病気が発症。できないことが増えていく中、10代で始めたクライミングではあまり不自由がなかった。そこで、視覚障害者も楽しめる機会をつくろうと2005年にNPOを設立。講習会にはのべ1200人以上が参加してきた。
危険で、高い運動能力が必要という印象を持たれがちだが、小林さんによると「視覚障害者に向いているスポーツ」。自分のペースで、また障害のない人とも同じルールで楽しめること、ロープで安全を確保できること、などが理由だ。ある視覚障害者は、「『障害者スポーツ』となると健常者の仲間は誘いづらいが、これなら誰とでも一緒に楽しめる」という。
神奈川県立平塚盲学校は、体育館に人工壁があり、体育の授業や部活動で利用している。中卒や高卒者があんまなどを学ぶ理療科には、中途失明者ら幅広い年齢層の人が在籍。中途失明で落胆していた人も、ここでクライミングに出会い、大きな楽しみを得たという人は多いという。
12月4、5日には初の「視覚障害者クライミング世界選手権」が千葉県で開かれる。米国、ロシア、イタリア、ネパール、タイなどから視覚障害者が参加予定という。小林さんは「いろいろな人が楽しめる懐の深いスポーツだということを、多くの人に知ってほしい」と話している。(三島あずさ)