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精神科医ユウの日記 <90%ノンフィクション・10%ユウの妄想>
モーニング女医。 2002/08/12
〜クイズに出演する女医。
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アメリカ横断ウルトラクイズ。
クイズ・ミリオネア。
クイズ・タイムショック。
百万円クイズハンター。
世の中に、華々しいクイズ番組は星の数ほどあります。
しかし、このクイズ番組ほど逆方向に走っていったものはありません。
それこそが、
「お財布いっぱいクイズQQQのQ」
タイトルを聞いた時点で立ちくらみがするようなこの番組は、数年前のお昼の時間、笑っていいともの裏番組として堂々のスタートを切りました。
内容はとてもシンプル。コンビを組んで、クイズやゲームにチャレンジして賞金をゲットするという王道の企画です。
目標視聴率、9%。
しかし実際の視聴率は0.9%で、3ヶ月で打ち切りが決定した、ネッシーと同じくらい幻の番組です。
友人にこの番組のことを話すと、必ずといっていいほど帰ってくる反応が、
「うわ、マジ!? そんな番組に出たヤツいるの!?」
そう言われると、僕も続きの言葉を飲み込んでしまいます。
ユウ「ははは、いるわけないよなぁー!!」
……………。
僕、出たんです。
> コンビを組んで
組んだんです。あの人と。
それは、僕がちょうど医局に入職して少したった、ある春の日でした。
仕事にようやく慣れかけてきたとき、その事件は起こりました。
マヤ「ねえユウ先生、大もうけしたくない!?」
いきなりそれですか。
僕はそのときまでマヤ先生のパーソナリティをうまくつかめていませんでしたが、
そのときにハッキリと氷山の一角を見た気がしました。
ユウ「…………い、意味が分かりません…」
マヤ「大もうけ、したいの? したくないの?」
明らかに誘導尋問モードでした。
でも、その危険が分かっても、それを避けることはできません。
中世の魔女裁判は、池に沈めて、浮かんだら魔女(すなわち火刑)、沈んだら人間(すなわち水死)だったそうですが、
明らかにそれに似てます。
マヤ「……どっち?」
表情は笑顔ですが、目だけは笑っていません。
僕は恐怖を感じながら言いました。
ユウ「…………そりゃ、したくないと言えば、ウソになりますけど」
マヤ「したいのね!?」
回りくどい言葉は通用しませんね。
マヤ「じゃあ、すぐに大もうけできるクイズ番組が出るんだけど、一緒に出場しない!? ていうかもちろん、出場するよね? わー、ありがとー!!」
…………。
すでに勧誘じゃない。
ユウ「ク………。クイズ番組ですか?」
マヤ「そう!! クイズ番組!」
クイズ番組と聞いて、そのときの僕の頭の中には、「世界丸ごとハウマッチ」の冒頭での巨泉の寒いギャグくらいしか頭に浮かびませんでした。
マヤ「あのねあのね、お財布いっぱいクイズQQQのQって言って、毎日笑っていいとものウラでやっている番組なの! なんとうまく行けば、カンタンに50万円が手に入るのよ!!」
僕はちょっと考えてみました。
毎日お昼にやっている番組で、毎日50万円…。
月曜から金曜まで週に5日やっていたとして、月に4週あるから、全部で20日。
50万×20日=1000万円…。
いいともに勝てるか分からないのに、そんな予算が出るのでしょうか。
僕はそこまで考えると、その賞金の遠さを感じました。
しかしマヤ先生の勢いは止まりません。
マヤ「それにすごいのよ! なんと司会は、あの上岡龍太郎と笑福亭笑瓶!」
微妙なコンビですね。
僕は一抹の不安感を覚えましたが、心の中に少しだけの好奇心もありました。
そしてしばらく迷った後で、僕は意を決して言いました。
ユウ「……うーん、出てみようかな……」
するとマヤ先生はにこやかに言ったのです。
マヤ「そういうと思って、もうエントリーしておいたの」
僕の意志なんか必要なかったんですね。
さぁ、禁断の1時間へ向けての歯車が回りだす!
果たしてマヤとユウは、賞金をゲットすることができたのか!?
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精神科医ユウの日記 <90%ノンフィクション・10%ユウの妄想>
モーニング女医。 2002/08/15
〜クイズに出演する女医。
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<昨日までのあらすじ>
「お財布いっぱいクイズQQQのQ」。
突然にそんなクイズ番組に出ることになったマヤとユウ(一人は強制)。
二人はいったいどうするのか?
マヤ「で、もうすぐ予選だから、準備しておいてね」
話の進み具合に不安になりながら、僕はつとめて平静に聞きました。
ユウ「分かりました…。で、具体的にはいつなんですか?」
マヤ「明日」
準備できません。
マヤ「頑張ろうね」
頑張れません。
僕は言葉にならない思いを抱えながら、深呼吸をしました。
ユウ「だいたい先生、クイズできるんですか?」
マヤ「もちろん! 私は小さいとき、クイズの女王って言われていたのよ!?」
今は「クイズの」が取れちゃったんですね。
僕はそう思いましたが、もちろんその言葉を飲み込みました。
ユウ「……じゃあ、試しに聞いてみてもいいですか?」
マヤ「YES! いつでもカムカムよん?」
その言葉に、なおさら不安を強めながら、僕は問題を出しました。
ユウ「ゴルフでパーより1打多くなると?」
マヤ「ホームラン」
どこに走るんですか。
ユウ「…世界三大珍味は、トリュフ・フォワグラと何?」
マヤ「しゃもじ」
食べられません。
ユウ「『カフェオレ』という言葉のうち、『ミルク』を表しているのは?」
マヤ「ミ」
ないです。
僕は声にならない叫びを抱えながら、その場で立ち尽くしていました。
ユウ「正解は…。『ボギー』『キャビア』『レ』です」
マヤ「惜しいっ!」
惜しくもなんともないです。
マヤ「いずれにしても、予選は明日!
泣いても笑ってもあと1日しかないから、頑張ろうね!」
僕は泣いて過ごします。
たとえようのない悲しみと不安を抱えながら、僕は帰宅しました。
そして、ついに予選当日。
僕とマヤ先生は、赤坂TBSのロビーで、予選の開始を待っていました。
高鳴る不安をどうしても消すことができない僕に、マヤ先生は言いました。
マヤ「だいじょーぶよぉ。どうせお昼の奥様番組なんだから。他の出演者の人たちだって、ふつーの主婦さんが遊びで出てるだけなんだから。心配しないの!」
するとADさんが近づいてきて言いました。
AD「それじゃ、予選に参加される方は、呼びますので返事をしてくださいー!」
マヤ「ほら、行くわよ…?」
AD「弁護士チームの、木村さま、竹野さまー!」
マヤ「………………」
ユウ「…………………」
AD「大学教授チームの、牧野さま、木田さまー!」
マヤ「……………………」
ユウ「………………………」
AD「クイズ王チームの、梶原さま、関口さまー!!」
マヤ「…………………………………」
ユウ「……………………………………………」
マヤ「ね?」
何がですか。
さぁ、勝負前から実力が最下位なのが決定している事実!
二人は果たして本番に出ることができたのか!?
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精神科医ユウの日記 <90%ノンフィクション・10%ユウの妄想>
モーニング女医。 2002/08/29
〜クイズに出演する女医。3
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<昨日までのあらすじ>
「お財布いっぱいクイズQQQのQ」。
突然にそんなクイズ番組に出ることになったマヤとユウ(一人は強制)。
二人はいったいどうなるのか!?
その予選は2次に分けて行われました。
1次が筆記試験。
そして2次が、面接試験です。
筆記試験はことのほか難しく、僕はほとんど解けませんでした。
しかし隣に目をやると、他のチームの人たちは驚くほどの勢いでペンを走らせていました。
すごい………。
僕は心配になりながら、マヤ先生のほうを見ました。
すると先生は、驚くほどの勢いでペンを回していました。
すごい…。(違う意味で)
自分たちと周囲のあまりの実力の差を痛感しているうちに時間は過ぎ、僕は答案をADの人に渡しました。
そして試験後、マヤ先生はにこやかに言いました。
マヤ「できた?」
ユウ「………できません……」
すると先生は大きく目を見開いて言ったのです。
マヤ「だいじょーぶよ! これは医師国家試験じゃないんだから、単純な点数が問題じゃないの!
結局は、目立った人ほど本戦に出られるんだから!」
ユウ「はぁ…」
マヤ「イイ? だから次の面接こそが大切! ここでどれくらいアピールできるかで、私たちの
運命が変わってくるのよ!」
ユウ「だ、大丈夫でしょうか…?」
不安になる僕に、マヤ先生は言いました。
マヤ「弱音を吐くんじゃないの! どんな困難も、気の持ちようで変わってくるのよ!
ほら、ことわざでも言うでしょ?」
ユウ「…………」
マヤ「しーとんどうぶ……」
ユウ「…………………」
マヤ「…………………………」
マヤ「心頭滅却すれば、火もまた涼しよ」
今、シートン動物記って言いそうになりませんでしたか。
僕は頭がクラクラになりながら、静かに自分たちの番を待っていました。
「それでは、精神科医チームの方ー」
マヤ「あ、はい!」
ADさんの声に、僕たちは中に入ります。
するとテーブルの向こうに、ディレクターさんと思われる人物がいました。
「えっと……。では腰掛けてください。緊張しないでね」
マヤ「はい、しません」
正直ですね。
ディレクターさんはその言葉を聞くとしばらく沈黙し、そしておもむろに聞きました。
「それでは、あなた方のアピールポイントをおっしゃってください」
するとマヤ先生は、にこやかに答えました。
マヤ「女王です」
意味分かりません。
「……………………」
静かになる一同。
そしてしばしの無言の後、ディレクターさんは言いました。
「…スゴいね…」
同感です。
「……えっと、得意なクイズのジャンルは……?」
ディレクターさんは先ほど我々が書いたプロフィールを見ながら言いました。
「……心理学……?」
それを聞くと、マヤ先生はにこやかに言いました。
マヤ「はい、心理学です。どんなクイズでも、心理学を使えば解けないものはないんです」
……そんなに大きく出ちゃっていいんですか。
僕は静かにそう思いました。
「………じゃあ、先ほどの筆記試験が最下位だったのは、どうしてなんですか…?」
………そんなに悪かったんですか。(予想はしてましたが)
するとマヤ先生は静かに言いました。
マヤ「……ディレクターさんは、認知的不協和理論というものを知っていますか?
人は心に矛盾を抱えると、その気持ちを解消するために、考えを変えるという理論です」
「……へ、へぇ……」
マヤ「私たちは、すごく自信満々に行動している。でも実際は問題ができていない。
そんな矛盾した私たちを見たとき、ディレクターさんはこう思うはずです」
「……………」
その場にいた全員が、マヤ先生の言葉を待ちました。
マヤ「私たちは、奥の手を持ってるはずだと」
考えません。
「自信過剰」と思うだけです。
その言葉に、ディレクターさんは言いました。
「……じゃあ、そのためにわざと問題を解かなかったの…?」
マヤ「もちろんです」
違います。
解けなかったんです。
僕は声を大にして言いたくなりましたが、何とか言葉を飲み込みました。
するとディレクターさんは、笑顔で言いました。
「……イイ! イイねー!! 面白いよ、君たち!
えっと……。女王さまと奴隷チームだっけ?」
精神科医チームです。
「キャラ立ってるねー!」
…………。
それだけは同意します。
「他の予選参加の人って、みんな固くってね」
そしてディレクターさんはプロフィール用紙に手早くサインすると、僕たちに言いました。
「じゃあ、本番でも頑張ってね!」
マヤ「はいっ!」
………………。
こんなんでいいんですか。
僕はあまりの展開の速さに状況が飲み込めませんでした。
そして数分後。
マヤ先生は意気揚々とテレビ局から出て、赤坂の駅に向かっていました。
マヤ「よしっ! 本番は頑張ろうねー!!」
僕は思いました。
まさか僕たちは放送禁止コードには引っかからないだろうか…。
しかし、そのときの僕の頭には、考えつきもしませんでした。
まさかマヤ先生が、司会者である上岡龍太郎にあんなことを言うとは……。
さぁ、その言葉とはいったい何なのか!?
そして二人は大金を手に入れることができたのか!?
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精神科医ユウの日記 <90%ノンフィクション・10%ユウの妄想>
モーニング女医。 2002/09/05
〜クイズに出演する女医。4
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<昨日までのあらすじ>
「お財布いっぱいクイズQQQのQ」。
突然にそんなクイズ番組に出ることになったマヤとユウ(一人は強制)。
「キャラが立ってる」というシンプルな決め手により、二人はついに本番に出場する…。
どうしよう。どうしよう。
すでに日付は本番当日。
そして泣いても笑っても、本番まであと20分しかありません。
僕はTBSの控え室で、震えながら本番を待っていました。
どうしよう。どうしよう。
僕は不安を抑えるために、何度も自分に言い聞かせます。
そうだ。あんなに色々な本を読んだじゃないか。
あんなに何度もリハーサルをしたじゃないか。
あんなに頑張ってマヤ先生と作戦を立てたじゃないか。
そうだ…。大丈夫だ、僕…。
あとは…。あとは…。
あとは、マヤ先生さえ来れば。
本番まで、あと20分。
大幅に遅刻しているマヤ先生に、ディレクターさんも、本気でしびれを切らしています。
「こんなところでキャラ立っちゃわなくても良かったよね…」
同感でございます。
時間は、刻々と迫ってきます。
ディレクターさんは、静かに言いました。
「…最悪、前説(まえせつ。番組前に観客を指導したりする)の芸人さんと組んでもらうかもしれないから」
……芸人さん。
僕はその言葉に、隣でにこやかにネタの練習をしていた二人組を見ました。
いや、さすがにこの人たち(←クリック)は。
どう考えてもイメージが違いすぎます。
せめてパイレーツだったら
と本気で考えながら、僕はひたすらマヤ先生を待っていました。
そして、本番まであと10分を切ったとき。
出演者控えのイスで、まさにモリ夫さんの方が僕の隣に着こうとしていたときに、
マヤ先生はついに会場に到着しました。
マヤ「みなさん、ごめんなさい〜!」
それを見た僕は、あまりの喜びについこう言ってしまいました。
ユウ「間に合ってくれてありがとうございますー!」
マヤ「どういたしまして!」
この会話に何の違和感もなくなっているところが、すでにマズい気がします。
「困りますよー!!」
ディレクターさんはそう言いながら、マヤ先生を僕の横に座らせました。
マヤ「でも悪かったわねユウ先生、ギリギリまで勉強してたら遅くなっちゃった!」
ユウ「何の勉強ですか?」
マヤ「クイズの勉強!」
ユウ「…………」
その言葉に少しだけ不安を隠せませんでした。
ユウ「……具体的には……?」
マヤ「紫色を英語でパープルっていうのは、その色が取れるもとになる、貝の『パープル腺』から来てるんですって」
ユウ「……………。他には?」
するとマヤ先生はにこやかに言いました。
マヤ「それだけ」
パープル、問題に出てください。
僕は頭がクラクラになりながら、必死にそう願っていました。
すると突然、大音量のテーマが鳴り響きました。
ついにおサイフいっぱいクイズ、QQQのQが始まったのです。
僕はその音を聞きながら思いました。
番組のスタッフも、司会者も、みんなが本気でこの番組を作っているに違いない。
絶対に、その気持ちを壊さないようにしないと…。
すると司会者は、声も高らかに言ったのです。
「みなさんこんにちは〜! おサイフいっぱいクイズ、QQQっQの時間ですー!」
司会者さん、まだ番組名を覚えきれてないみたいでした。
さぁついに番組が始まる!
マヤとユウは果たして大金を手に入れることができたのか!?
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精神科医ユウの日記 <90%ノンフィクション・10%ユウの妄想>
モーニング女医。 2002/09/12
〜クイズに出演する女医。5
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<昨日までのあらすじ>
「お財布いっぱいクイズQQQのQ」。
突然にそんなクイズ番組に出ることになったマヤとユウ(一人は強制)。
そしてついに本番はスタートする…。
マヤ「ねぇユウ先生…。番組のシステムは分かってる?」
ユウ「いえ、それがあんまり…」
その言葉にマヤ先生は言いました。
マヤ「番組自体はとってもシンプルな内容。
まず、10問の即答クイズがあって、それをペアの二人が5問ずつ答えるの」
ユウ「はい」
マヤ「ここで二人合わせて正解数が5問以下だと失格。賞金も0円。
でも6問以上正解すれば、次の「二人でクイズ」に進めるわ」
ユウ「へえ…。大丈夫でしょうか…」
マヤ「大丈夫よ! 私は5問全部正解するから、ユウ先生はたった1問正解するだけでいいの!
カンタンでしょう?」
本当にそんなにうまくいくんですか。
僕の頭の中に、「取らぬ狸の皮算用」という言葉が浮かびました。
マヤ「私たちの出演は番組の最後のほうだから、他の出演者のを見て、予習しておきなさい?」
ユウ「……はい……」
番組は、恐ろしいほどの勢いで進んでいきました。
司会者である上岡龍太郎と笑福亭笑瓶は、にこやかに番組を進めていきます。
マヤ「見てなさい? 番組だって良心にあふれてるんだから、みんなカンタンに解けるような問題よ」
僕はスタジオでの声に耳を傾けていました。
「では、弁護士チーム、一人目への問題。
つんくがプロデュースした『ガタメキラ』の語源は、なに?」
………………。
「タレントの卵チーム、一人目の方への問題。
国会は全部で3種類あります。通常国会、特別国会、さてあと一つは何?」
………………………。
「大学教授チーム、二人目への問題。
『負けないで』『揺れる想い』などのシングルがヒットしたZARDのボーカルの名前は?」
…………………………………………。
「女子高生チーム、二人目の方に問題。
古来より庭などに設置される、『ししおどし』。この『しし』とは何のこと?」
………………………………………………………………………。
明らかに出演者の弱点ばかりついてませんか。
良心のカケラも感じられない問題に、
当然のごとく彼らはほとんど答えることができず、次のクイズに進むことができたのは3分の1にも満ちませんでした。
その結果、彼らが獲得した賞金は、平均して3〜4万円。
マヤ先生の顔色も、見る見るうちに悪くなっていきます。
マヤ「大丈夫、大丈夫よマヤ……。私なら楽勝だから……私なら楽勝だから……」
心理学用語で、「ポジティブ幻想」というものがあります。
一言でいうなら、「自分だけは大丈夫」という認識のことです。
マヤ「私なら勝てる……私なら勝てる……。
いや、ていうか司会者が急に病に倒れて、私たちは不戦勝になる…」
ずいぶん、
ネガティブ方向なポジティブ幻想ですね。
ユウ「先生…。さすがにそれは…」
そういいかけたとき、マヤ先生はにこやかに言いました。
マヤ「ふっふっふ…。でも大丈夫よユウ先生?
こんなこともあろうかと、すでに作戦は練ってあるのよ」
ユウ「へ?」
マヤ「ほら、予選があったじゃない。あのときに私たち、ぜんぜん解けなくて最下位だったでしょう?」
ユウ「…あ、はい…」
マヤ「あれはね、私たちの実力があまりに低いと誤解させるためのワナだったのよ」
誤解というより、正当な評価のような。
僕はそう思いましたが、話の腰を折るのはやめておきました。
ユウ「…どういうことですか?」
マヤ「ああしておけば、決して彼らもあまりに難しい問題も出さないでしょう?
さっきの弁護士さんチームの人たちは、予選でできすぎちゃったのよ」
ユウ「……………」
マヤ「ふふふ、これで問題だって、簡単なのしか出ないに違いないわ…。
せいぜい1+1=田んぼの田とか、そんな動物イルカ、とか…」
それはそれでイヤなんですけど。
そう思っているうちに、ついに僕たちの番がやってきました。
「じゃ、よろしくお願いします! 思いっきりはじけて来てくださいね」
ディレクターさんは、僕たちにそう声をかけました。
マヤ「はいっ!」
元気よく答えるマヤ先生に、彼は笑いながら言いました。
「期待してますよ〜。なんたって今回一番のダークホースなんですから」
マヤ「あはっ! 嬉しいです! 頑張りますねー!」
…………………。
ダークホースって、語感はカッコいいですけど、結局は
『大穴』ってことですよね。
僕はそう思ったのですが、 喜んでいるマヤ先生を見ると、その言葉を飲み込みました。
「それでは本日最後のチーム! 精神科医チームのお二人です!!」
司会者の声に、大急ぎで裏から躍り出ていくマヤ先生。
僕も急いで一緒に入場します。
音楽が鳴り響き、会場中から拍手が沸きあがります。
司会者の上岡龍太郎が、にこやかにマヤ先生に言いました。
上岡「こんにちはー!」
マヤ「こ、こんにちはー!」
上岡「えっと、大和さんは精神科医? 女医さんですか?」
マヤ「あ、はい、そうでーす♪」
上岡「いかがですか、番組に出られた感想は」
するとマヤ先生は、満面の笑みで言いました。
マヤ「もう、ゾクゾクに感じちゃってます」
先生、お昼の番組です。
上岡「…………」
司会者の反応にマヤ先生は慌てて言いました。
マヤ「いえ、感じるといっても、あっちの方じゃなくて、なんていうか幸せ一杯っていうか、
エクスタシーっていうか」
もう、しゃべらないで下さい。
僕は心の中でそう突っ込んでいました。
マヤ「そう、感じるのは悪いことじゃなくて」
上岡「それでは第1問行ってみましょうー!」
正解です、司会者さま。
上岡「一人目は、大和さんでよろしいですか?」
マヤ「あ、はい、もちろん!」
するとアナウンサーが問題を読み始めました。
「『アルジャーノンに花束を』『24人のビリー・ミリガン』を書いたアメリカの作家といえば誰?」
よしっ!
僕はこの問題を聞いた瞬間、喜びを隠せませんでした。
確かマヤ先生は、この本は読んでいたはずです。
確か正解は、「ダニエル・キイス」。
これで一問はゲット…。
そう思いながらマヤ先生の方を見ると、先生の表情は完全に青ざめていました。
ウソでしょう?
その瞬間、僕は一つの事実を思い出しました。
…そうだ……。
マヤ先生は確か、自分の興味のある情報以外は、全部が頭から抜けるんだ…。
上岡「さぁ、お答えは!?」
マヤ「ミ…ミ…」
会場が静まり返ります。
マヤ「ミリー・ビリガン」
誰ですか。
さぁ、二人は果たして、6問正解することができるのか!?
精神科医ユウの日記 <90%ノンフィクション・10%ユウの妄想> モーニング女医。 2002/10/18 〜クイズに出演する女医。6 |
<昨日までのあらすじ>
「お財布いっぱいクイズQQQのQ」。
突然にそんなクイズ番組に出ることになったマヤとユウ(一人は強制)。
そしてついに本番はスタートし、マヤはさっそく1問目を間違える…。
その後のマヤ先生の間違いぶりは、まさに目をおおうばかりでした。
上岡「ダイナマイトを発明した科学者によって作られた、世界的に有名な賞の名前は?」
マヤ「……ド……」
上岡「……ド?」
マヤ「ドクター中松賞」
イヤな賞ですね。
(正解『ノーベル賞』)
上岡「妖精パックやオベロンが出てくる、シェイクスピアの戯曲は、真夏の夜のなに?」
マヤ「アバンチュール」
いまどき誰が使う言葉ですか。
(正解「真夏の夜の夢」)
そしてその後。
あまりのマヤ先生の実力に司会者の方が問題を選んでくれたのか、その後の問題は限りなく易しくなっていました。
上岡「アメリカの首都はワシントン。ではフランスの首都は?」
上岡「色気よりも食い気。これと同じ意味の言葉は、花よりナニ?」
うわぁ。
マヤ「パリ!」
マヤ「だんごー!」
さすがにこの問題には当然のごとく正解したマヤ先生は、にこやかに言いました。
マヤ「やったぁ! 私の本領発揮ね!!」
これが本領ですか。
僕は心の中で激しく突っ込みました。
しかしすぐに司会者は言いました。
上岡「じゃあ、次はゆうきさんの番ですよー!」
ユウ「あ、はい…」
マヤ「足を引っ張ったら、承知しないわよ…?」
先生に言われたくないです。
僕はそう思いながらも、笑顔で言いました。
ユウ「はい、頑張ります!!」
あらためて自分の二面性を感じました。
さぁ、果たしてユウとマヤは1次を突破できるのか!?
精神科医ユウの日記 <90%ノンフィクション・10%ユウの妄想> モーニング女医。 2002/10/21 〜クイズに出演する女医。7 |
上岡「それではゆうきさんへの問題です」
僕はその言葉にドキドキしていました。
僕への問題は5問。
マヤ先生が2問しか正解しなかったため、僕はこのうち4問を正解して合計6問を正解しないと、
次に進むことができません。
上岡「ゆうきさん、自信はありますか?」
心理学用語に「セルフ・ハンディキャッピング」というものがあります。
「テスト前なのに、ぜんぜん勉強しなかったよー」
「私、うまくできそうもないなー」
このように本番の前にわざと自分に不利な情報を外に出すことで、
「失敗したときの言い訳」にもなり、「成功したときはより強いアピール」にもなるという
まさに魔法の言葉です。
僕も例にもれず、セルフ・ハンディキャッピングを使おうとしました。
ユウ「いや、ぜんぜん自信」
そのとき、マヤ先生の目が明らかにギロッと光るのを感じました。
ユウ「自信ありますよ!!」
上岡「そうこなくっちゃねぇ!」
すでにセルフ・ハンディキャッピングすらも許されない状態。
こんなの、心理学用語にも存在しません。
僕の精神はギリギリのところまで追い詰められていました。
上岡「それではゆうきさんへの第1問です」
ユウ「……はい…」
そこで僕は思い出しました。
今までは、その人のレベルよりやや難しそうな問題が第1問で出ていました。
すなわちその問題は、その出場者の実力そのものを表しているといっても過言ではありません。
(ちなみにマヤ先生はあちらの読みよりも少し下だったため、途中で問題のレベルが下がったみたいでしたけど)
いったい僕は、どんなレベル問題が来るのか。
すなわち僕自身、どんなレベルだと判断されているのか。
そう思った瞬間です。
上岡「童話三匹のこぶた。
二匹目のこぶたが作った家は、何でできていた?」
これが僕レベル。
僕は意識がやや飛びそうになりました。
上岡「さぁゆうきさん、答えは…!?」
ユウ「……木……」
上岡「せ、正解ー!!!!」
奇跡を見た特派員
みたいな顔、やめてください。
上岡「続いての問題です」
ユウ「あ、はい」
上岡「最近は遺伝子操作などによる食物の配合が話題になっていますが…」
あ、なんかレベル高い問題っぽいです。
上岡「イノシシとブタをかけあわせてできたものは?」
いきなり低レベル。
ユウ「イ……。イノブタ……」
上岡「せ、正解です…!」
だから驚かないでください。
そこから先は、まさに「僕レベル」な問題でいっぱいでした。
上岡「正式名称デオキシリボ核酸。人間の細胞の中にある、遺伝情報をあらわす物質をアルファベット3文字で言うと」
ユウ「……あ、でぃ…」
上岡「DNなに?」
そこまでヒントいりませんから。
ユウ「…DNA」
上岡「せ、正解です!!」
マヤ「すごいじゃない、ユウ先生…!!」
これで驚かれてる僕っていったい。
上岡「それでは、あと1問正解すれば次に進めます。
では最後になるかもしれない問題です」
ユウ「はい」
上岡「ジョバンニとカンパネルラが主人公の宮沢賢治の小説といえば」
あ、最後にして少しだけ難しいめっぽい問題です。
たしかこの答えは……
そう思った瞬間です。
上岡「銀河鉄道の夜ですが」
はい?
上岡「それでは、メロスとセリヌンティウスが主人公の太宰治の小説は?」
答え、入ってます。
ユウ「………走れメロス……」
上岡「大正解! まさかの連続正解で、二回戦進出!!」
まさかって。
マヤ「キャー!!! すごいじゃないユウ先生ー!! 奇跡だわー!!」
大喜びするマヤ先生。
僕が突っ込む間もなく、すぐにテーブルが運ばれてきました。
上岡「さぁ、二回戦は『2人でクイズ』です!
この問題の正解数に応じて、お2人の現金つかみ取りの時間が増えてきます」
マヤ「はいっ! 頑張ります!!」
僕には何か釈然としないものがありましたが、とにかく次に進めたのでOKとしました。
このまま行けば、もしかしてイイところまで行くのでは…?
僕の期待は少しずつ膨らみ始めました。
上岡「二回戦では、『人間の心理をうまく読んだ人』が勝てるようにできています。
精神科医のお2人には、カンタンかもしれませんね」
え? え?
誰かの心理を読むのでしょうか。
それなら少しは自信があります。
相手が、予想範囲内であれば……。
そう思った瞬間です。
上岡「二回戦では、答えが一つに決まらない問題を出します。
答えをそれぞれで書いていただいて、
2人の答えが、ピタリと一致した場合のみ、正解になるわけです」
……………。
読む相手って、マヤ先生?
僕はそのとき、心の底から自信を持って断言しました。
不可能だ。
さぁ、2人はいったいどうなったのか!?
精神科医ユウの日記 <90%ノンフィクション・10%ユウの妄想> モーニング女医。 2002/10/31 〜クイズに出演する女医。8 |
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<昨日までのあらすじ>
「お財布いっぱいクイズQQQのQ」。
突然にそんなクイズ番組に出ることになったマヤとユウ(一人は強制)。
ついに2人は1次を突破。そして「2人で同じ解答を出さなければいけない」という
「2人でクイズ」にチャレンジすることになった。
はたしてユウはマヤの気持ちを読むことができるのか!?
<本編>
ていうかどうして僕が読む側でマヤ先生が読まれる側なんでしょうか。
僕はつい自分で書いたあらすじに突っ込んでしまいました。
二人の前に、ついたてのあるテーブルが用意されます。
そしてそれぞれの前にボードとペンが用意されました。
上岡「では、第1問を出しますよ? 準備はよろしいですか?」
マヤ「はいっ! もちろんです!」
上岡「では、第1問!
最近海外旅行が流行っていますが、では日本人に定番の旅行スポットといえば、どこ!?」
心理分析的には、「相手の気持ちが気になって仕方ない人」は、必死に相手の目を見つめようとします。
言い換えれば、立場の低い人ほど相手を見ようとするということ。
僕はあらためてマヤ先生の顔を見つめました。
マヤ先生は、こちらの方などまったく気にせずに、にこやかにボードに字を書き始めました。
あらゆる意味で、眼中にない。
僕は必死に考えました。
これは一般人にとっての定番の旅行スポットを書けばいいのでしょうか。
それとも、
マヤ先生にとっての定番の旅行スポットなのでしょうか。
…………………。
それだけで、
全然違ってくる気がします。
ていうか、
絶対に他のペアよりも、一段階悩む場所多いです。
しかしこう思っていても始まりません。
僕はあらためて考えました。
普通の人に定番のスポットといえば……。
ハワイ・グアム・サイパンでしょうか…。
あとは最近では香港とか台湾とか……。
じゃあ、マヤ先生に定番のスポットといえば……。
やっぱり医局のみんなで行ったところでしょうか……。
というと。
ギリシャ・エジプト・トルコ・アラスカ……。
そしてフランスのすっごいビーチに、ドイツのすっごい温泉……。
絶対に、かぶらない。
……………。
今これを読んでいるみなさんから、
どんな医局だよ。
とか
すっごいって何。
という突っ込みが聞こえてきそうですが、それは聞かないでください。
いずれにしても、選択肢多すぎです。
僕は思考がショートしそうになりながら、必死に考えました。
上岡「よろしいですか!?」
もう時間がありません。
僕は前に先生と死にそうになった、最悪の思い出の国である「エジプト」と書きました。
この気持ちが伝わっていれば、マヤ先生と答えが同じになるはずだ……。
僕はそんなささやかな希望を持っていました。
上岡「では、答えをどうぞー!!」
マヤ・ユウ「はいっ!」
上岡「おおっ! これはー!」
マヤ先生がにこやかに出したボード。
そこには、こう書いてありました。
熱海
めっちゃ国内。
自分の中に絶望感が襲ったとき、司会者は言いました。
上岡「ゆうきさんはエジプト! どうやらお2人とも大きく考え方が違うみたいですね!」
僕はあわててマヤ先生に言いました。
ユウ「ちょっと待ってくださいマヤ先生!? これって海外じゃなかったんですか!?」
するとマヤ先生は鋭い目で僕の顔を見つめながら言いました。
マヤ「甘いわね、ユウ先生…?
問題では、最近海外旅行が流行っていますが、では日本人に定番の旅行スポットといえば
って言ったのよ?」
え。
マヤ「『最近海外旅行が流行っていますが、では日本人に…』。そういう言い方をすると、
ついその答えも海外って考えちゃうわよね。でも誰も『海外限定』とは言ってない。
すなわち日本国内でも別に構わないのよ。でもそんな固定観念にとらわれて、あなたは
海外しか考えなかった……」
…………………。
マヤ「それに気がつかなかった、あなたの負けよ」
負けたのは二人ともです。
僕はもう何て突っ込んでいいのか全然分かりませんでしたので、
とりあえず謝りました。
ユウ「すみません」
マヤ「…いいわよ…。これからは気をつけてね」
ユウ「………」
すごく釈然としない僕に、マヤ先生は言いました。
マヤ「まぁいいわ…。次からは、ユウ先生の思考に合わせてあげる」
ユウ「え?」
マヤ「すなわちユウ先生は、何も考えずに素直な解答を言えばいいの。
百戦錬磨の私が、全部の心理を読んであげるから」
……………。
マヤ「何も心配しなくていいのよ」
余計心配なんですけど。
上岡「ではいいですかお二人とも!? それでは第2問です!」
マヤ「いい? ユウ先生! 素直にね!!」
ユウ「…………」
上岡「では問題! 女性が男性に使う殺し文句といえば何?」
なんですかその問題。
はたしてユウの答えは!?
そしてマヤの答えは!?
精神科医ユウの日記 <90%ノンフィクション・10%ユウの妄想> モーニング女医。 2002/11/07 〜クイズに出演する女医。9 |
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<昨日までのあらすじ>
「お財布いっぱいクイズQQQのQ」。
突然にそんなクイズ番組に出ることになったマヤとユウ(一人は強制)。
ついに2人は1次を突破。そして「2人で同じ解答を出さなければいけない」という
「2人でクイズ」にチャレンジすることになった。
はたしてユウはマヤの気持ちを読むことができるのか!?
<本編>
上岡「では問題! 女性が男性に使う殺し文句といえば何?」
なんですかその問題は。
僕は思わず突っ込んでしまいました。
この答えを、マヤ先生と一致させなければいけません。
僕は考えます。
マヤ先生なら、どんな殺し文句を言うのでしょうか。
僕は必死にイメージしてみようとしました。
………。
マヤ「殺すわよ?」
本当に殺してどうする。
なんだか殺し文句というより脅し文句になっている気がしました。
…いや待て。
さっきマヤ先生は言ったんだ。
僕の考えるとおりの答えを言えば、マヤ先生はその気持ちを読んで、あわせてくれると。
…よし。
とにかく僕が自然に思いつく答えを考えよう。
上岡「さぁ、答えをお書きください!」
僕が「女性の殺し文句」といわれて一番に考え付く言葉。
すなわち、自分が言われてもっとも嬉しい言葉だ。
……………。
「いやん♪」
そんな言葉発する女の人、見たことない。
…もっと現実的な言葉だ…。
考えろ、考えろ…。
………。
「ボインちゃん」
これは確かに嬉しい言葉ではあるが、何か違う気がする。
ていうか実際に女性が言ったら凍ります。
考えれば考えるほど、頭がまとまりません。
上岡「さぁ、答えをどうぞ!」
もう時間がありません。
そうだ。
シンプルに考えろ。
純粋に、言われて一番嬉しい言葉は……。
僕は大急ぎで書いて、そのボードを出しました。
上岡「おおおおおおっ!」
その瞬間、周囲から驚きの声が上がりました。
僕のボードに書いてある答えは、『大好き』。
しかし観客の目は明らかにマヤ先生の方に注がれています。
僕も急いでそのボードを見ました。
そう。
この答えが、
「踏んであげるわ」
とか
「足をなめなさい」
とか
「ムチを使うわね」
といった、みなさんも想像通りのSMチックな答えだったらいくらか救いがあったかもしれません。
「僕の思考はそんな風だと思ってたんですか」
とか突っ込めば、それで話は終わります。
でも、マヤ先生の答えは、はるかその予想を超えていました。
そこには、こう書いてあったのです。
『好き』
この後の僕の精神的ショックがお分かりになりますでしょうか。
上岡「惜しいーっ!! 大和さんが『好き』に対して、ゆうきさんは『大好き』!
非常に惜しかったですねー!!」
マヤ先生は、僕の解答を見ると、にこやかに言ったのです。
マヤ「ユウ先生…? 『大』好きなんて高望みする前に、
超えなきゃいけないハードルがあるんじゃないかな」
ユウちゃん大ショック。
なまじ真実なだけに、SMと思われているよりもキズが深かったです。
そう思っていると、マヤ先生は静かに言いました。
マヤ「自分の今の立場を見あやまったのが、あなたの敗因よ」
見あやまったのは、先生も同じです。
僕は心の中で激しく突っ込みました。
上岡「というわけでお2人は、2問中正解は0−! 結果、現金つかみ取りのプラスボーナスはありません!
よってお2人のつかみ取りの時間は、基本の15秒間! ではお2人とも、用意してください!」
マヤ「さぁ、行くわよ? 自分を責めるのはそれくらいにしてね!」
責めるの、僕だけですか。
そう思う間もなく、すぐにセットが運び込まれます。
何かがギュウギュウに詰まった大きな器が、セットの真ん中においてありました。
上岡「さぁ、15秒の間に、その現金を好きなだけカップに移してください!」
僕はその、「妙に黒々とした現金」を見つめました。
って。
全部十円玉なんですけど。
僕とマヤ先生は、器の前に並びました。
上岡「さぁ、用意はいいですか?」
マヤ「いい? 行くわよ!?
この現金が人生のすべてくらいに思ってつかみ取りしてね?」
この十円が、人生のすべて。
上岡「行きますよ? よーい、ドン!」
マヤ「いくわよっ!?」
さぁ、2人はいったい、いくら手にすることができたのか?
そして最後に行った「不可能ゲーム」とは!?
次号、衝撃の最終話!!
つづく
精神科医ユウの日記 <90%ノンフィクション・10%ユウの妄想> モーニング女医。 2002/11/18 〜クイズに出演する女医。最終話 |
<昨日までのあらすじ>
「お財布いっぱいクイズQQQのQ」。
突然にそんなクイズ番組に出ることになったマヤとユウ(一人は強制)。
2人は数々のクイズを突破し、ついに現金つかみ取り(10円玉だらけ)にチャレンジする!
長かった夜についに夜明けが!
<本編>
みなさん、10円玉の匂いってかいだことありますでしょうか。
銅のサビ具合と手アカの香りの入り混じった、あの不思議なニオイです。
上岡「さぁ、お2人の稼いだ金額は!?」
僕とマヤ先生は腕いっぱいにその芳香を漂わせながら、静かに金額計測の目盛りを見ていました。
さぁ、もうすぐ結果が出ます。
何日も練習し、必死の思いでくぐりぬけてきて、僕たちが得たお金は……。
上岡「15820円!!」
なんていうか、高いんだか安いんだか。
時給換算したら悪くないかもしれないのですが、
明らかに精神的疲労に対して割りがあわないような気がしました。
上岡「さぁっ! それではお二人には、最後のゲームにチャレンジするか決めていただきましょう!」
その言葉に僕はツバを飲み込みます。
上岡「最後の大関門、エンピツつかみどりゲームです!」
エンピツつかみどりゲーム。
番組の最後のカギを握る、
もっとも重大なゲームのネーミングとは思えません。
上岡「さぁ、お二人は10万・30万の、どちらにチャレンジしますか? それともやめますか?」
僕は考えます。
このゲームのルールはとってもシンプル。
上から落ちてきたエンピツをつかみとれば賞金がもらえるという、
単純極まりないゲームです。
つかめれば、その額の賞金がもらえますが、万が一つかむことができないと、現在持っている賞金が
半分になってしまいます。
そして10万のエンピツのほうが、30万のエンピツより長く、つかみやすくなっているのです。
さすがに30万は失敗する可能性が高いし…。
10万あたりが無難かな…。
いやそれとも、やめておくってのも手か…。
僕が10万かやめるかで悩んでいると、隣から底抜けに明るい声がしました。
マヤ「もっちろん、30万で!」
先生って、いつもそう。
僕は声にならない声を感じながら、静かにその場に立ち尽くしていました。
上岡「おおっ! 30万! それではぜひチャレンジしていただきましょう!」
すぐに会場内にエンピツつかみゲームのための機械が設置されます。
エンピツは機械で固定されており、離れているスタッフが、スイッチで落とすように作られているのです。
落としたら半額……。
でもつかめたら30万だ……。
マヤ先生と分けたとしても、15万。
それだけあれば、焼肉が50回食べられます。
……………。
ひたすら肉にこだわる自分が、戦時中の子供みたいに感じます。
でも、僕の気持ちは少しずつ盛り上がってきます。
もしかして成功できるかも…。
そんな気持ちを感じていると、後ろからマヤ先生の声がしました。
マヤ「ユウ先生…。やる前に一言だけ教えておくんだけど…」
ユウ「…はい?」
マヤ「人間の反応速度って、どんなに頑張っても、0.16秒なのよ」
ユウ「………」
マヤ「すなわち、目で「落ちている」のを確認してから、手を動かすまでの時間は、決して0.16秒を切ることが
できないわけ」
ユウ「……………」
マヤ「もちろんそれすらもプロのスポーツマンとかの話で、ひたすら患者さんやパソコンとかに向かっている
私たちの反応速度は、それより劣るでしょうね」
ユウ「…………………何が言いたいんでしょうか………」
マヤ「そうすると、だいたい0.2秒はかかるわけよ。反応してから手を伸ばすまでに」
ユウ「……はい……」
マヤ「物理でやったと思うんだけど、0.2秒で物体が落ちる距離って、どのくらいか分かる?」
ユウ「……どのくらいでしたっけ……」
マヤ「20センチメートル」
僕はその言葉に、あらためてエンピツと手の距離を見てみました。
15センチもない。
ユウ「…………」
マヤ「すなわちね、このゲームはね、人間には不可能なのよ」
それを伝えて、僕にどうしろと。
マヤ「だから、がんばってね」
がんばれません。
あらためてテレビ局の賞金を渡さない方針に気がつき、僕はめまいがしました。
マヤ「ユウ先生…。大丈夫よ。自信を持って…」
もてませんて。
マヤ「普通の人間には不可能かもしれないわ。でもね」
ユウ「……え?」
マヤ「普通の人間以下のあなたなら、あるいは」
どんな理論ですか。
上岡「さぁっ! 準備はいいですか? 手をエンピツの下で開いてください」
その言葉に、大きくやる気を失われながらも、僕は手を指示通りに開きました。
上岡「落ちる前に手を閉じる、フライングは失格ですよ?」
ユウ「………」
上岡「では、スタート!」
その声に会場中が静まります。
いつ落ちるんだ。
いつ落ちるんだ。
胸の鼓動が耳に響くほどに高鳴っているのを感じます。
そして…。
すとん。
上岡「おおっと! 残念!!」
あっけないほど静かな音を立てて、床に転がるエンピツ。
会場中から、落胆の声が上がります。
えっとですね。
なんていうか、ですね。
0.2秒どころか、1秒以上かかりました。
人間以下は、
しょせん人間以下に過ぎないことが分かりました。
上岡「さあっ! 2人目の方に行ってみましょう!」
マヤ「………ユウ先生、よくがんばったわ……」
人間心理には「反動形成」というものがあります。
極度の攻撃心などを感じたときに、わざわざ逆の行動を取ることで、その気持ちを抑えようとする心理作用のことです。
マヤ「うふふふふ……。
失敗されたわけでございますけれど、
どなたさまもあなたのことは責めませんわよ?」
極限まで使われた不自然な敬語に、
抑えきれない攻撃心を感じました。
上岡「さぁっ! 大和さん、準備はいいですか?
泣いても笑っても、これで最後ですよ?」
いえ、怒ってます。
マヤ「ふふふ…。準備は大丈夫ですよ…?」
上岡「さぁ、最後のゲーム、スタート!」
その瞬間、僕は思いました。
そうだ。
今までもマヤ先生は、常識を超える方法で成功を収めてきたことがある。(ごくたまに)
今回も、もしかして何か秘策があるのでは……。
そう思ったときです。
マヤ先生のポケットに、瞬間接着剤らしきものが見えました。
…………………。
なんですか、それは。
そういえば、マヤ先生の手がテカテカ光っているように見えます。
……………。
先生。
つかめなくても、カスれば何とかなる作戦でしょうか。
…………………。
色々な意味で、常識超えちゃいました。
会場中は、再び静まります。
………心臓の鼓動が高鳴る、僕。
どくん。
どくん。
どっくん。
マヤ「たぁっ!」
上岡「おおおおおおっ!!」
その日の夜。
僕とマヤ先生は、半額の7910円を手に、赤坂の居酒屋で冷酒を飲んでいました。
先生の手の平は、まだくっついたまま離れませんでした。
マヤ「…………人生って、なかなかうまく行かないものね………」
今きづいたんですか。
僕は心からそう感じながら、静かにコップを口につけました。
マヤ「次は何のクイズに出ましょうか」
ユウ「…………」
マヤ「やっぱり高校生のふりして、高校生クイズね」
それ、別な意味で無理ですから。
世の中で一番難しいクイズは、
マヤ先生の思考回路の仕組みなんじゃないかと思いながら、
僕は静かに冷酒を飲み干したのでした。
完