有名シードバンクのショーウインドー。大麻の種がきれいにディスプレーされている=アムステルダム、後藤写す
コーヒーショップ「バーニーズ」。店員は陽気で、いくつかの日本語も知っている=アムステルダム、後藤写す
バーニーズから約1キロ離れた別の店ものぞいた。店員は「イチバン、ホノボノ、サイコー」と日本語で叫び、笑顔を見せた。3月に専門学校を卒業した東京都渋谷区の男性(27)は友人と2人で来た。「吸うと楽しい気分になり、音楽もよく聞こえる。日本で仕事のストレスがたまったらまた吸うかも」
オランダ外務省によると、同国でも大麻の所持、販売、栽培は本来は違法だが、コーヒーショップは自治体の許可があれば最大500グラムの在庫が許され、客1人に約5グラムまでの販売は黙認される。そもそも吸引は違法ではない。こうした「寛容政策」が始まったのは1976年。大麻をある程度黙認することで、危険性、中毒性の高いヘロインや覚せい剤などの「ハードドラッグ」に手を出させないようにするのが狙いだ。
大麻が吸えるコーヒーショップは全国に約700店。アムステルダム市のヒル・バンブルッセル社会福祉部長は「ショップは市のアトラクションになっている」と話す。
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警察庁によると、昨年、大麻取締法違反の検挙者は過去最多の2920人。このうち栽培容疑の検挙は243人と10年前の約6倍。一方、乾燥大麻や大麻樹脂の密輸容疑の検挙者は48人で、ピーク時(2003年)の5分の1だった。近畿厚生局は、所持が違法な大麻草の密輸を避け、種子を入手して栽培するケースが増えているとみる。
インターネットでオランダ産の種子を売る近畿地方の男性は「法律ギリギリのところで仕入れている」と打ち明ける。最近は種子の販売が栽培幇助(ほうじょ)罪に問われることもあり、「(サイトを)閉めた業者も多い。時間の問題。もう少しもうけたい」と話した。
大麻寛容政策に対する外国からの批判への配慮から、オランダは国境近くでのコーヒーショップ開店を制限するなどの規制に乗り出している。
ヒルシバリン法務相兼内務相は朝日新聞の取材に対し、「コーヒーショップの入店をオランダ在住者に制限する規制の検討を始めた」と明かした。店を会員制にしたり、銀行カードでしか買えないようにしたりして、オランダ在住者しか買えない仕組みづくりを考えているという。
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厚生労働省監視指導・麻薬対策課は「大麻は記憶への悪影響、学習能力の悪化、人格喪失などを引き起こすほか、使用をやめても依存性が残る」と指摘する。オランダ・ユトレヒト市のNGO「トリンボス」のプロジェクトリーダー、マルフリット・バンラールさんも「若年層が常用すれば、脳の発達障害を引き起こすことがある」と警鐘を鳴らす。
岐阜薬科大学長の勝野真吾教授(社会薬学)は「昔はまずシンナーに手を出し、次第に覚せい剤などをやるケースが多かった。今は大麻がシンナーに取って代わった」という。様々な違法薬物を経験したという男性は「最初は大麻を吸い、そのうちもっとパンチのあるやつを欲しくなった。当たり前の話」と語る。
財団法人「インターネット・ホットラインセンター」は、大麻種子の販売広告を監視対象に加え、大麻草の画像や味などの情報を掲載した場合、栽培幇助罪にあたるとして警察に通報している。ただ、ある麻薬取締官は「大麻種子の売買が合法のままでは、取り締まるのは難しい。売買を免許制にして罰則を設けるべきだ」と訴えている。(後藤泰良)