《いかなる政体をとろうと、国家の指導者たる者は、必要に迫られてやむをえず行ったことでも、自ら進んで選択した結果であるかのように思わせることが重要である》(マキアヴェッリ「政略論」)
鳩山首相は今朝、米軍普天間飛行場移設問題をめぐり、記者団に「対応が場当たり的ではないか」と聞かれ、次のように強調していました。本当はもう、この人のことはしばらく触れずにおこうと考えていたのですが、次々に材料を与えてくれるので、取り上げざるをえません。
「場当たりな発言は一切しておりません。公約というのは、党の公約。私はしかし、最低でも県外と言ったのは自分自身の発言、自分自身が総理になった以上、その自分の言葉を実現したいと思って、今日まで政権の中で努力をしてきたということです。(中略)自分の発言というものを申し上げた以上、それに対して、政権に就いたこの中で努力をしたいと、今日までその思いで行動してきたということでありますから、何も場当たり的に申し上げているつもりはありません」
うーん、一国の指導者にふさわしい、見事なまでの強弁ですね。惚れ惚れします。このような苦境に置かれ、なおかつ国民のこれほど冷たい視線にさらされながら「ボク悪くないもん」と堂々と言い張る胆力は端倪すべからざる大きな器ゆえでしょうか。私たちは今、一生のうちにそう何度も遭遇することのない希有な大物をまさに見ているようです。
なので、鳩山氏に敬意を表して、5日付の新聞各紙の普天間問題に関する解説記事と社説から、鳩山氏を表現したキーワードを順不同で拾ってみました。やはり、各紙の記者・論説委員とも、わき上がる尊敬心や憧憬を抑えきれず、熱い思いを吐露しています。
①『場当たり』…「十分な根回しもなく、場当たり的発言を連発し、『国外・県外移設』に期待を寄せてきた沖縄の地元住民をあきれさせた」(読売)
②『ブラックジョーク』…「沖縄海兵隊が『抑止力』とは思わなかった、というのは一国の首相としてブラックジョークにもならない」(日経)
③『迷走』…「高い政治目標を掲げて迷走した挙げ句、結局は断念に追い込まれるお決まりのパターンが極まった」(東京)、「首をかしげざるをえない発言の数々は、この間の迷走劇を端的に物語った」(日経)、「普天間をめぐる8カ月の迷走を招いたのは、この問題を軽く扱った首相の認識の甘さだ」(同)、「ここに至る政府の迷走ぶりは目を覆うばかりだ」(読売)
④『自業自得』…「内閣支持率が20%台に急落したのは、それこそ自業自得だ」(産経)
⑤『体面』・『メンツ』…「米軍普天間基地の一部移転は、防衛省内で『現行案修正なら不要』と結論付けられており、『県外』にこだわる首相の体面を保つ意味合いが大きい」(毎日)、「単に自らのメンツを守るため、現行計画の修正を図っているとしか見えない」(読売)
⑥『稚拙』・『拙劣』…「今回の事態は、鳩山政権の『政治主導の試み』の稚拙さを浮き彫りにした」(毎日)、「首相は、思慮の浅さと政治手腕の拙劣さを猛省すべきである」(東京)
⑦『八方美人』…「八方美人的な姿勢は、現行計画の履行を求める米国との関係を、首脳会談も行えないまでに悪化させた」(東京)
⑧『裏切り』・『欺き』…「沖縄県民の県外移設への期待をあおった末に裏切る結果にもなった」(東京)、「公約は浅慮からだというのか。結果的に国外・県外移設は選挙目当ての甘言だった。国民を欺いた首相の政治責任は極めて重い」(同)
⑨『言い訳』…「公約違反との批判に対しては『公約は選挙の時の党の考え方だ。党としての発言ではなく、私自身の代表としての発言ということだ』と強弁した。そんな言い訳が通るとでも思っているのだろうか」(東京)
⑩『不信』『信用性』…「深刻なのは、各方面から政権そのものに『不信』の2文字を突きつけられていることだ」(産経)、「住民との対話集会や首相を迎える沿道では怒声も飛んだ。首相への県民の不信はますます深まっている」(毎日)、「首相の安全保障上の認識不足までさらけ出す結果に終わり、政権の安保政策の信用性を疑わせる結果になった」(読売)
…こうやってざっと見てみただけで、いかに鳩山氏が衆望を担い、多くの国民に期待されているかが分かろうというものです。これらのキーワードをまとめると、
「鳩山氏の場当たり的で八方美人的な迷走と言い訳は、稚拙で国民を裏切っており、しかも鳩山氏自身の体面を守るためのものにすぎないので、不信を招いているが自業自得だ」
ということでしょうね。見上げたものです。社民党の照屋寛徳国対委員長も本日、鳩山氏の沖縄での言動について記者団に「一言で言えばあきれてものが言えない。情けない」と述べ、鳩山氏を励ましていました。尊敬心が隠せないご様子です。やはり鳩山氏は以下のマキアヴェッリの言葉を心にら刻み、実践されているようです。
《君主にとって、厳重のうえにも厳重に警戒しなければならないことは、軽蔑されたり見くびられたりすることである》《君主にとって最大の悪徳は、憎しみを買うことと軽蔑されることである》(「君主論」)
いや、ホントにもう、鳩山氏のことなんて考えたくもないのですが、一応、これでも官邸の主だし、明日は鹿児島・徳之島の町長らとの会談がセットされているし。きょうは都内のホテルで開かれた地方自治体議員フォーラムでのあいさつで「ちゃんと生きてますからね」と述べていましたが、なんだかなあ。
by tropicasso
鳩山首相の主観的「誠意」と国…