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北朝鮮問題―中国の重い責任と役割

 北朝鮮をめぐる状況がますます流動化の様相を見せている。

 焦点の一つが3月末に黄海で起きた韓国軍の哨戒艦沈没事件だ。46人もの兵士が死亡・行方不明になった。北朝鮮が関与したとの疑念が韓国で強まるなか、米豪なども加わる調査団が原因を探っている。北朝鮮による行為が明白になれば、一気に緊張が高まろう。

 北朝鮮の中では、経済の危機的な状態にデノミネーションが拍車をかけた。食糧不足も深刻な様子だ。

 加えて、68歳になる独裁者の金正日総書記は健康不安を抱え、後継体制をめぐる動きが急である。

 そうしたなか、金総書記が中国を訪れた。一昨年夏に脳卒中で倒れたといわれて以来初の外国訪問だ。目的は経済と体制維持の面で中国の支援と協力を求めることにあったのだろう。

 核問題で金総書記は胡錦濤国家主席に「非核化の目標を堅持する」と述べたが、踏み込んだ言及はなかったようだ。これでは、非核化は唱えながら、その意思が見えない従来の姿勢に変化があったとはとても思えない。

 中国は今なお北朝鮮にとっては唯一の頼れる友好国だ。今回は4年ぶりの訪中だった。しかし、当時とは環境も大きく変わっている。

 この間、北朝鮮は2回の核実験を強行し、ミサイル発射実験も続けた。中ロも賛成した国連の経済制裁を尻目に、ウラン濃縮にも乗り出した。

 いま核不拡散条約(NPT)再検討会議が開かれている。「核なき世界」を主張する米オバマ政権は核戦略見直しで、NPTを守る非核国には核を使用しない方針を打ち出した。事実上、イランと北朝鮮を対象から外し、核不拡散への強い意欲を見せる。

 北朝鮮は核開発を正当化しているが、全く筋違いであることは改めて繰り返すまでもない。

 国際社会は、北朝鮮を交渉の場に引き出し、非核化と地域の平和と安定のために、知恵を絞って粘り強く当たっていく必要がある。

 核、ミサイルだけでなく拉致問題を抱える日本をはじめ、各国は北朝鮮の変化を促す決め手をつかみかねている。だからこそ、中国はとりわけ重い役割を担わなければならない。

 貿易やエネルギー、食糧面で北朝鮮の対中依存度は増す一方だ。いわば中国が北朝鮮の生存の首根っこをつかんでいる。核不拡散の責務も負い、6者協議の議長国でもある。

 朝鮮半島の急激な変化を望まない中国の立場はあるにせよ、非核化へ北朝鮮が動かない以上、経済協力をはじめとする政策では一段と厳しい態度をとってほしい。中国はそんな姿勢で北朝鮮への説得を強めてもらいたい。

 それがこの地域全体の利益にもつながることを中国は理解すべきだ。

空き家活用―地域の力と知恵で生かす

 全国で空き家が増えている。老朽化して危険なものを除き、地域の活性化や福祉のためにもっと活用する道があるのではないだろうか。

 総務省が昨年まとめた調査では、住宅全体の13%を占める756万戸が空き家で、5年前より15%増えている。空き家率は特に大都市圏以外で高く、20%を超す県もある。

 政府や自治体は、空き家を宿泊施設や文化活動の場として再利用したり、放置しておいては危険な廃屋を撤去したりする場合の費用を補助している。地域の実情に応じて工夫をこらしているケースもある。

 人口減に歯止めをかけたい山あいの里、岡山県西粟倉村。村役場の総務企画課長、関正治さんは、空き家に入居する人の世話をしている。今春も東京などから移ってきた若者を案内し、新居の鍵を渡した。

 人口1600人。村面積の95%が森林。スギ、ヒノキ材や家具の産地直売で林業再生にかける。消費地に売り込むアイデアやセンスを村が期待するのは、都会などからの移住者だ。

 森林組合や村出資の会社が雇用の受け皿になっている。住む場所として、全550戸のうち70戸を占めていた空き家に目をつけた。家を残して都市部に住む人々に連絡をとり、改修費を350万円まで村が負担するとの条件で、貸し出しを呼びかけた。

 家賃は月2万円。子どもの保育料は8千円にした。2年余で大阪や東京などから20〜40代の22世帯38人が移住。赤ちゃんも生まれた。

 宮崎市では、介護問題の解決に空き家を使う試みが進んでいる。

 市内に3軒ある「かあさんの家」では、がんや認知症、腎不全といった病気をかかえるお年寄りが5〜6人ずつ、ヘルパーたちの支えを受けて暮らしている。

 空き家だった30坪ほどの民家をNPO法人が借り、家具や食器はできるだけそのまま使う。昼は2人以上、夜は1人のスタッフが世話をするほか、医師の往診や、訪問看護を受ける。

 ふすま越しに人の気配がある。認知症の人たちも家庭的で穏やかな雰囲気のなかで、暮らしやすい。

 NPO法人代表の市原美穂さんは6年前、空き家を借りようとしたが、断られ続けた。急展開したのは、自宅を貸すから90歳を過ぎた父の面倒もみてほしいと、介護に疲れた60代の夫妻から話があってからだ。ほかの高齢者が同居するようになり、父親の死後も暮らしている。

 全国から年に100人以上が視察に訪れている。同じような「家」が、九州や関西に広がりつつある。

 政府と自治体、NPOや企業などが知恵をよりあわせることで、多様な再生のかたちが見えてくるはずだ。

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