2010年04月25日

普天間基地移設より住民を移設?

ネットで知ったのですが、デヴィ夫人が普天間基地の問題に関して、そもそも基地ができた時に周囲に住んでいた人はいなかったんだから、基地を移転するよりも住民を移転させてはどうかとブログに書いたのだそうです。逆転の発想ですが、これは事実誤認と重要な視点が欠落したものの見方です。案外、デヴィ夫人と同じ考えの人っているんじゃないかと思い、今回の記事を書いてみることにしました。



確かに普天間基地が出来た当時は、周囲に住宅も学校もなかったはずです。周囲の住民は、そこに基地があるとわかっていて住宅を建てて住むことにしました。しかし当時は、普天間基地はほとんど使用されていなかったのです。米陸軍は沖縄を占領すると飛行場を建設しましたが、嘉手納基地をメインに使っていて普天間にはミサイルなどが配備されていました。

その後、冷戦の激化にともなって沖縄駐留部隊が増加し、嘉手納が一杯になったので海兵隊が普天間を使用することになります。この頃、すでに近隣には住宅が立ち並んでいたので、飛行機の離着陸には難があり、そこでヘリコプターをメインに使う海兵隊の基地として利用されることになりました。しかし軍の巨大化や装備の変化などがあり、普天間でも飛行機を使う事になり、現在に至ります。

基地があるとわかっていて住み始めたのだから、問題があるなら住民が出て行けばよいというのは乱暴です。確かに基地はありましたが、飛行機の離着陸が始まったのは住宅街が形成された後なので、この理屈は住民に対して酷でしょう。そしてこの考えには、重要な視点が欠落しています。それは、怖い思いをしているのは住民だけではないという視点です。

滑走路のすぐ近くに住宅や鉄筋コンクリートの学校があるということは、離着陸に失敗した時の緩衝エリアが全くないことを意味します。夜間のスクランブルなど事故が起こりやすい環境で、ミスをすれば即大事故に繋がるという環境で飛行機を飛ばしている米軍も怖い思いをしているのです。ですからデヴィ夫人が言うように住民全員が出て行っても、米軍からすれば何の問題も解決しておらず、周辺の土地を借り上げて平らに整地しなければならないのです。

それを考えると、住民全員を移転させるよりも基地を移転させた方が安上がりになる気がします。そして大事なのは、この移転問題は日米の双方が望んでいたことなので、交渉次第では日米の双方が歩み寄る余地があったということです。しかし約束を守ると言いながら、一方的に約束を反故にしようとする鳩山政権のやり方は、最悪のアプローチでした。アフガニスタンやイラク問題で米軍の指揮官としての資質を問われているオバマ大統領にとって、もはや絶対に妥協できないレベルになってしまいました。

普天間は、もはやどのように決着しても遺恨を残します。5月の決着すら絶望的となると日米関係は急速に冷めていき、経済的な損失も考えられます。ここで何度か書きましたが、今でもアメリカは日本の商売にとって最大の(ん?二番目になったんでしたっけ?)お得意様です。内需が冷えて外需頼みになっている現在、その外需の最大の顧客との仲をいたずらに悪くすることに、何のメリットもありません。

今回の民主党の対応は、ただただ国益を損ねるだけだと思います。
 
Posted by hanemone at 22:01  |Comments(2) | 時事
この記事へのコメント
興味深く読みました。
が、疑問があります。
宜野湾市の人口推移(wikiより):
1955年 24,328人
1980年 62,549人
2005年 89,769人
2009年 約92000人
・・て最近もどんどん増えていますが、離着陸が増えてからも住民が集まってきている理由はどのようにお考えでしょうか。冷戦って70年代の話ですよね。
住民全員を移転させるよりも基地を移転させた方が安上がりになる、ということも全くそうは思えないのですが、試算を元に書かれているのでしょうか?
回答頂ければ幸いです。
Posted by kugotta at 2010年05月07日 14:07
★kugottaさん
安上がりになるとい うのは、試算はしていません。というのも、住民全員を移転させることに成功した場合、航空機の離発着にどれほどの広さのバッファーゾーンが必要なのか私に はわかりませんので、計算のしようがないんです。ただ両方の手間を考えると、基地を移転させた方が安上がりに感じます。

基地を移転させる 場合
新たな基地の土地の確保+周辺住民の合意+新たな基地の建設(宿舎等を含む)+部隊の移動

住民を移動させる場合
全住 民の合意+全住民の移動先の確保+住民の新たな仕事の世話(移動により仕事ができなくなる人の場合)+全住民の移動+基地周辺の土地の新たな借り上げ+借 り上げた土地の建物の解体とバッファーゾーンの整備

住民を移動させるほうが手間が多いので、予算的にも時間的にも厳しいと感じました。基 地の近くには小学校もあるので、住民を移動させた場合は新たな学校の建設も必要になるかもしれませんし、そもそも全住民の合意を得るのは政治運動化されて ダム建設の時よりもはるかに困難になるように思います。

紹介していただいた数字は面白いですね。普天間を海兵隊が本格的に使用し始めたの は70年代に入ってからで、航空機の使用は徐々に増加していきます。冷戦の終結は90年ないし91年ですが、航空機の使用が増えて冷戦が終結しても近隣の 住民は増え続けているんですね。沖縄の経済停滞により、地価が安い(と思われる)基地周辺に移り住む人が増えたのではないでしょうか。確かにこれらの人 と、土地を基地に強制収用されて仕方なく周辺に住んでいる人とでは事情が違いますが、今さらそれを分けて処理するのは現実問題として、かなり困難なのでは ないかと思います。
Posted by はねもね at 2010年05月08日 00:06
 
※半角英数字のみのコメントは投稿できません。