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社説:徳之島も拒否 苦し紛れの首相の言動

 鳩山由紀夫首相が明言する「5月末決着」は絶望的になってきた。首相の政治責任が問われるのは避けられそうにない事態である。

 首相は鹿児島県・徳之島の3町長との会談で、沖縄の負担軽減への協力を要請し、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の一部基地機能の移転受け入れを求めたが、3町長はこれを拒否した。首相が「部隊の移転が無理なら訓練だけでも」と食い下がったのに対し、町長側は在日米軍基地削減を求め、訓練移転も拒絶した。首相が徳之島入りして再交渉するという提案も受け入れられず、会談は完全な物別れに終わった。

 沖縄の県内移設と徳之島への一部移転を組み合わせようというのが首相の考えだ。徳之島への機能移転は、首相が主張してきた県外移設を一部とはいえ実現する頼みの綱である。首相は仲井真弘多沖縄県知事に「沖縄の負担をパッケージの中で軽減する」と約束した。徳之島移転がその中心であるのは間違いない。

 徳之島移転の展望が開けなければ沖縄との交渉にも響く。新基地建設反対の機運が盛り上がっている沖縄が、徳之島移転も伴わない「県内全面移設」を受け入れる可能性は今、まったくない。袋小路である。

 見逃せないのは、県外移設断念をめぐる首相自身の発言が、国民の不信を増大させていることだ。

 首相は断念の理由について、「学ぶにつけ」抑止力における在沖米海兵隊の役割に「思いが至った」「(理解が)浅かった」と語った。

 勉強不足で県外を主張し続けてしまったとすれば、安全保障の責任者である首相の資質を疑わざるを得ない。が、抑止力の勉強に7カ月もかかったというのは理解しにくい。外務、防衛両省は以前から抑止力を強調してきた。米政府の県外反対の強い姿勢に直面し、県外の真剣な検討もないまま期限が迫る中、県内に転換するための理屈付けに抑止力を持ち出した、というのが実情ではないか。無策の月日を勉強時間、変心を勉強の結果と言い繕った印象はぬぐえない。そもそも、本当に抑止力が方針転換の根拠なら、理解の中身を語らなければ説得力はない。

 また、「最低でも県外」発言が党の公約ではないという発言も大きな問題だ。県外移設はマニフェストにないと言いたかったのだろうが、有権者にとって党首発言は党の公約と同じである。方針転換を表明した直後に両者の違いを強調するのは、あまりにお粗末で、こそくな弁解だ。

 首相は沖縄の再訪問を検討している。しかし、遅すぎた沖縄と徳之島への要請も、不用意な発言も、戦略を欠いたまま日時を浪費し、追い込まれた末の苦し紛れの言動に映る。

毎日新聞 2010年5月8日 2時31分

 

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