きょうの社説 2010年5月9日

◎公務員の採用半減 若者、地方への影響大きい
 政府・与党が打ち出した国家公務員の新規採用数の半減方針は、「超氷河期」といわれ る就職難のなかで、公務員を目指す若い世代の希望を奪う安直な人件費削減策と言わざるを得ない。官僚組織のスリム化は重要なテーマだが、景気の低迷で民間企業に雇用の拡大をお願いしている時期に、自分たちは別といわんばかりに国が率先して採用を減らしてよいのだろうか。特に国の出先機関の採用を原則「2割以内」に抑える方針は、ただでさえ働き口の少ない地方に影響が大きい。

 鳩山政権が掲げる国家公務員総人件費の2割削減には、給与体系の見直しや官庁の統廃 合など、抜本的な改革が欠かせない。その骨格部分にほとんど手を付けず、無策のツケを若者や地方に回すのはいかがなものか。

 不況下では民間企業も採用を減らすのだから、国家公務員だって減らしてよいという理 屈は一見、正しいようにも見える。しかし、多くの企業は、徹底したリストラを行い、人件費圧縮やコスト削減の努力を重ねたうえで、それでも足りない場合にのみ新規採用を減らすのが常である。鳩山政権が現役公務員の給与や組織の統廃合になかなか手を付けようとしないのは、支持母体である労組の反発を恐れているからなのか。

 政府・与党は、天下りあっせんを全面禁止し、定年まで働ける環境づくりを目指してい る。再就職のあっせんを全面禁止すれば、これまで早期勧奨退職の対象だった中高年が勤務を続けることになり、総人件費が膨れ上がるのは目に見えている。それでは、総人件費の2割削減の公約が達成できなくなるから、新規採用をばっさり削ろうというのだろう。公務員を減らす政策なら、何でも国民の支持が得られるわけではない。

 公務員は好不況に左右されず、安定的に採用するのが望ましい。新規採用を減らすなら 、公務員制度改革の全体像を定めたうえで、長期的な視野に立った採用計画を示してほしい。地方部局の採用を極端に絞る方針は、出先機関の廃止をにらんでの措置だろうが、将来が見通せない段階で、大幅削減を先行させるのは乱暴過ぎる。

◎工芸トリエンナーレ 「創造都市」の方向探る一歩
 金沢市で始まった「金沢・世界工芸トリエンナーレ」は、ユネスコの創造都市ネットワ ークにクラフト(工芸)分野で登録された金沢にとって、工芸を生かした都市づくりの方向性を探る新たな一歩である。

 市は1995年に「世界工芸都市宣言」を行ったが、その後、現代美術を発信する金沢 21世紀美術館が開館し、「工芸」という言葉が示すイメージも多様化し、都市の魅力づくりと一体的に語られるようになった。昨年6月に「クラフト創造都市」という国際的な評価を得たことで、宣言を力強く実行に移す段階に入ったといえる。トリエンナーレを美術界の枠におさめず、工芸を都市全体のテーマとして考える契機にしたい。

 金沢市は「世界工芸都市宣言」以来、「世界工芸都市会議」や「世界工芸コンペティシ ョン」を開催してきたが、トリエンナーレはそれらの趣旨を継承、統合した内容となり、3年ごとに開かれる。

 今年は金沢21世紀美術館とリファーレを会場に、キュレーター(企画者)5人が作家 を選定し、「工芸的な世界」を表現する展覧会が始まった。リファーレでは、農業用ビニールハウス5棟の中に、日本芸術院会員や人間国宝から新鋭作家まで多彩な作品が飾られ、ジャンルも器から建築、ファッションに及ぶなど刺激的な空間が出現した。6月20日までの期間中、九谷焼シールを切り張りして転写技術に触れるワークショップなど趣向を凝らした催しもある。

 工芸の世界では、展示の空間構成も重要な芸術領域になってきたほか、共同制作やワー クショップなどパフォーマンス的な要素も取り込んで多様な展開をみせている。金沢の伝統工芸を巻き込む形で、この地域から先駆的な取り組みを発信していけば「工芸都市」の個性も一層鮮明になるだろう。

 来週には日仏自治体交流会議に合わせ、市内の工芸工房などをめぐる「クラフト・ツー リズム」も本格実施される。作り手の顔や制作過程を積極的に公開することは工芸の魅力発信策として極めて有効である。トリエンナーレとの相乗効果を引き出したい。