◆韓国、二重国籍容認へ
韓国政府は2011年1月から、「二重国籍」を一部認める国籍法を施行する。韓国人が他国籍を取得した際、徴兵拒否など韓国内で外国籍の権利を行使しないとする誓約署名を条件に、韓国籍の維持を認める内容だ。
植民地支配の歴史的経過と世代交代が進む在日コリアン社会の現状から考えて、二重国籍を許容し、「国民」の範囲を広くとらえようとする韓国の政策転換を歓迎したい。
私たちの周りには複数の国籍を持って生きる人は多くない。だから、二重国籍が許容されても、それがどのような意味を持つのか実感はわかない。
各国の国籍法には、父母のどちらかが自国民の場合にのみその国籍を継承できるとする「血統主義」、自国内で生まれれば自動的に国籍が付与される「生地主義」、その両方の混合型がある。韓国は日本の国籍法の影響を受け、「血統主義」に立脚してきた。国際結婚で生まれた子どもは22歳までに、父母どちらかの国籍を選択するよう求めていた。
欧米では多くの国が生地主義の立場を取り、そこに父母からの国籍継承も加わって複数の国籍保持を容認している。国境を越えて移住を繰り返してきた歴史が、「国籍」を絶対視せず便宜的に使いこなす感覚をつくりあげたといわれる。
日本にいれば、こうした考え方に違和感を抱く人は多いだろう。しかし、現代は国境を越えて生きるボーダーレスの時代。ビジネスや学術的成功の機会を複数の国でつかみ取ることが特別なことではなくなった。
韓国における二重国籍容認の流れは、人材を韓国社会につなぎとめておこうという国家戦略に基づく。ソフトパワーこそが資源であるとのとらえ方だ。国家を国籍や民族によって純化していくのではなく、窓口を広げ、多様な人材を取り込むことで競争社会に生き残ろうとしている。
日本に暮らす定住外国人に地方参政権を認める法案は、今のところ実現の見込みはない。これをめぐって「選挙権がほしければ帰化すればといい」と反対派は論陣を張った。
その一方、事業仕分けで注目を集める民主党の蓮舫議員を「元々日本人ではない」と発言した平沼赳夫元経産相や、政治的立場が違う政党の幹部について「帰化した子孫が多い」などと言い放った石原慎太郎東京都知事を見ていると、仮に日本国籍を取っても「仲間にできない」と言い出しかねない雰囲気がある。
定住外国人に地方参政権を認め、二重国籍容認へと向かう韓国社会。単一民族国家だと主張し、マイノリティーに冷たい社会である点でも共通してきた日本と韓国が、ちがう道を歩み始めたようだ。政治、経済、文化など両国の未来像を予測する上でも興味深いテーマだと言える。<文と写真・金光敏>
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■人物略歴
1971年、大阪市生野区生まれ。在日コリアン3世。大阪市立中学校の民族学級講師などを経て、現在、特定非営利活動法人・コリアNGOセンター事務局長。教育コーディネーターとして外国人児童生徒の支援などに携わる。
毎日新聞 2010年5月8日 地方版