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ふじもと・てつや氏 1940年、松山市生まれ。日本被害者学会理事。著書に「犯罪学の窓」(中央大学出版部)など。
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| | 殺人に適用 日本も廃止を
−世界の犯罪傾向はどうですか。
「2007年の統計を見ると、世界中で約927万人が刑務所へ入っている。そのうち米国が約224万人、中国が約158万人、ロシアには約100万人の受刑者がおり、米中ロで世界の半分を占めている。最近は不況の影響で犯罪が増え、世界的に経済の悪化→失業の増加→犯罪の増加→犯罪の重罰化という悪循環が生まれている。どうやって犯罪を防止するかが世界的に重要な課題になっているといえる」
−公訴時効についての世界の動向はどうですか。
「殺人罪を見ると、英国には時効そのものがない。米国ではDNAなど客観的データがあれば容疑者不明でも起訴できる。これは『ジョン・ドゥー』(匿名)起訴と呼ばれている。ドイツではナチスのホロコースト(集団虐殺)に時効はなく、フランスでも生命を奪う重要な犯罪には時効は認められていない。国際的に見れば、人道に対する罪に時効はない、と言ってよいだろう」
−日本の時効制度はどうあるべきでしょうか。
「グローバルスタンダード(国際水準)からすれば、生命を奪う犯罪について時効を廃止するのが当然。日本も殺人罪の時効はなくしてよい。法改正をすべきだ」
−どこを改正しろということですか。
「日本の刑法は、国民の平均寿命が約40歳だった明治時代に制定されており、古過ぎて実態に合わない。明治の刑法は殺人の時効を15年としたが、犯行から15年たてば、ほとんどの人が死んでいる時代。これは死ぬまで許さないという意味にほかならない。現代は寿命が約80歳。殺人罪の時効が25年では短過ぎる」
「刑法も刑事訴訟法も改正すべきだろう。裁判員制度が実施され、かつてのような難しい刑法理論は要らなくなっている。刑事に関するすべての法制度を見直す必要がある」
−法務省の勉強会が示した見直し案はどうでしょう。
「死刑に値する重大な犯罪については、公訴時効を廃止すべきとする案に賛成だ。その他の犯罪は時効期間の延長を考え、今の25年を30年に延長したらよい」
−それでは証拠の保存などに問題があるという意見があります。
「米国ではデータベースができていて死刑囚のDNAはすべて保存されている。DNAがあれば真犯人の識別ができる。既に無罪となった人が12人出ている。DNAは散逸しないし、証拠の散逸というのは、時効を残す理由にはならない」
−証人がいなくなってしまうともいわれています。
「その理由がよく理解できない。証人がいなくなれば証拠が固まらず、検察官も容疑者を起訴できない。お互いさまではないか」
−年月がたてば処罰感情も薄くなるのでは。
「それも理由にはならない。被害者遺族の処罰感情は一生なくならない。時効が廃止されれば、仮に犯人が捕まらなくても、精神的な安らぎを得られる。もともと時効制度というのは、犯人が捕まらない場合があるので考えられた制度でもある。時効廃止には犯罪抑止効果が期待でき、米国の狙いはそこにもある」 「ただ、現在進行中の時効を止めることは問題だ。そこまですると被害者の側にベクトルが向き過ぎる。『疑わしきは被告人の利益に』は刑事司法の鉄則であり、加害者にあまりに不利益な制度にすべきではない。時効の適用はバランスを取らなければいけない」
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やました・ゆきお氏 1962年、高松市生まれ。日弁連刑事弁護センター委員。東京弁護士会所属。
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| | 証拠散逸 冤罪の危険高く
−公訴時効の制度をどう考えますか。
「容疑者にとって公訴時効というのは、検察官から訴追を受けない状態を意味している。容疑者の法的利益を考えて国による刑罰権の行使を制限する制度といえる。刑罰権が行き過ぎないようにするのがこの制度の趣旨。殺人罪では時効は25年だが、これでもかなり長い。時効を撤廃すれば容疑者の利益は考慮されなくなってしまう」
−廃止には反対ということですか。
「はい。もし事件から25年近くたって逮捕されたら、無実の証明は可能かどうか考えてほしい。アリバイがあったり、正当防衛だったりしても、それを証明する証人は死んでしまっているかもしれない。あの日あの時、何をしていたか、自分の記憶すら薄れてしまう」
「時効を廃止・延長したとしても証拠の散逸は防ぎようがない。無実であっても、それを証明する手段がなくなれば、冤罪(えんざい)の危険性が高まることになる」
−法務省の勉強会から提案がありますが。
「提案の根拠は被害者団体のヒアリングなどに基づく、国民の意識の変化に尽きる。しかし調査対象が時効の廃止や延長を求める側に偏っている。5年前に法改正を行って殺人罪の時効を15年から25年に延長したばかりであり、5年前の議論をあまりに軽視してはいないか。たった5年で国民の意識が大きく変わったとは考えにくい」
「ただ当時と違うのは、被害者の意見が明確になったことだ。犯罪被害者等基本法ができ、刑事裁判への被害者参加も実施されて、その言い分がかなり認められてきた。また新たに被害者団体から時効撤廃という提案も出されるようになった。かなり状況が変わってはいる。しかし25年に延長された時効はまだ1回も適用されていないし、延長幅が妥当だったかどうかも検証されていない」
−見直しは時期尚早だということですか。
「拙速で決めるべきではない。議論の仕方にも問題がある。例えば『犯人の逃げ得を許してはならない』と言われる。しかし死刑になると思い、死の恐怖に駆られたら、やっていなくても逃げることはあり得る。逃げている人が犯人とは限らない」
−DNAなど科学捜査の進展があるのでは。
「確かにDNA鑑定は犯人と被害者の接触があったという証明になる。米国が殺人罪の時効を廃止し、ジョン・ドゥー起訴を認めている背景には科学捜査があるのだろう。しかしDNA万能のような論議があるのはおかしなこと。その間違いは、再審が決まった足利事件で証明されている」
「DNA鑑定は決して万能ではない。人を殺そうとしたというような『故意の証明』にはならない。刑法は処罰する場合、主観的要素である『故意の証明』を求めており、それはDNA鑑定ではできない」
−被害者の処罰感情はどうでしょうか。
「時効がなくなったら、被害者遺族はかえって苦痛なのではないか。事件が生きている限り、ずっと待たなければならないのはつらいことだ。犯人にも苦しんでほしいという報復感情があっても、それは法律で保護すべきことなのかどうか」
−進行中の時効を止めることはどうですか。
「容疑者にとって極めて不利益な変更だ。法務省は憲法違反ではないと言うが、単純な手続きの変更とは違う。行為が終わった後でルールを変更するのは法的安定性を害し、認められない」
時効制度見直し案骨子 一、人の命を奪った殺人など生命侵害犯のうち、法定刑の特に重い罪は公訴時効を廃止
一、生命侵害犯のうちそれ以外の罪も時効期間を延長
一、廃止・延長の対象罪名や延長期間などはさらに検討
一、時効が進行中の事件に新制度を適用することは憲法上許されるが、さらに慎重に検討
(法務省勉強会最終報告書より) |
公訴時効 犯罪行為が終わってから一定期間を経過すると公訴の提起(起訴)を認めない制度。(1)時間の経過で証拠が散逸し、公正な裁判が困難になる(2)被害者らの処罰感情が希薄化する―などが理由とされる。犯人が国外に逃亡した場合などは時効の進行が止まる。2004年の刑事訴訟法改正(05年施行)で、「死刑に当たる罪」「無期の懲役・禁固に当たる罪」の時効期間が延長された。 |
(共同)
■次回(9月27日=日曜日)は「衆院選を総括」インタビュー
「政権選択」が大きな争点となった8月の衆院選挙では、民主党が308議席を獲得して政権交代を果たしました。県内でも民主党が8小選挙区中、7選挙区を制し、自民党は比例東海ブロックで1議席を確保するだけにとどまりました。
民主党は子ども手当の創設、高速道路の無料化などの政権公約を掲げていますが、財源を不安視する声が上がっています。一方の自民党は党再生を目指して総裁選の真っ最中。今後、野党としてどのように鳩山政権と対峙(たいじ)し、国会論戦を進めていくのか注目されています。
次回は、県選出の民主、自民両党の国会議員2人に衆院選を総括してもらい、新政権や両党の課題についてうかがいます。
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