2010年4月22日 - スポーツをめぐる前後左右

いつかはアスリートを助ける仕事がしたい

VANOCのドーピング・チームのボランティアとして働いていた榎村真弓さん。現地のボランティアは皆ブルージャケットを着ていた (PID: 004079)
VANOCのドーピング・チームのボランティアとして働いていた榎村真弓さん。現地のボランティアは皆ブルージャケットを着ていた

スキー競技の行なわれたウィスラーのクリークサイドやパラリンピックパークで、競技を終えた選手を待ちかまえ、見つめるひとりの日本人女性がいた。榎村真弓(えのきむらまゆみ)さん、29歳。VANOCのボランティアであり、ドーピングコントロールチームのシャペロン(競技直後、検査対象の選手に通告したり、選手の行動に付き添って監視する役割)および通訳としてミックスゾーンに入っていた。

専門を生かしたボランティア

パラリンピックパークでドーピング対象となった長田弘幸選手を案内する榎村さん (PID: 004080)
パラリンピックパークでドーピング対象となった長田弘幸選手を案内する榎村さん

VANOCのドーピング・チームは、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の考えに基づいて、IOC、IPCの条件下ですべてのドーピングコントロール(過程・研究・分析)を行う重要な任務。たとえば、「選手本人が薬物を筋力向上などの目的により使用し、不正に記録が塗り替えられるのを防ぐこと」や「ライバル選手及び関係者が不正工作を働く余地がないように選手を守ること」など、参加する人々が公平に競技できる状態にすることである。日本からは日本アンチ・ドーピング機構(JADA)から何人かのドーピング検査員(DCO)が派遣されているが、榎村さんはホスト国カナダのボランティアとしてこのチームに参加していた。
 
薬剤師の資格と経験をもつ榎村さんは、冬はニュージーランドでの医療通訳としてスキー場と病院を行き来している。自らもスポーツ好きな彼女は、そこで多くのスキーやスノーボードの選手のサポートをしながら、彼らのすばらしい競技を見ているうちに、「アスリートの助けになる仕事がしたい」と考えるようになった。

海外で自分のやりたいことが見えてきた?

「はい。オリンピック・パラリンピックのボランティアは、やりたい仕事のチャンスに少しでも近づけるんじゃないかと思って応募しました。最近、日本でも薬剤師がアンチ・ドーピング活動を始めるケースが増え、スポーツ界でも活躍できそうな予感がしていたんです。JADAには、薬剤師の資格としてスポーツ・ファーマシストがありますが、資格を取得しても、仕事につくには狭き門です。日本で待っていてもいつなれるかわかりません。そこで、行動あるのみ!と、オリンピックのドーピングボランティアになれるよう、カナダへ来てVAOCのボランティアとして自分の経験をアピールしました」

やってみて、どうでしたか?

「障害者の方がこれだけすごいということが、もっと一般の人の目にふれるといいなと思います。またパラリンピックでは、日本人選手の活躍のおかげで、シャペロンとDCOの通訳という2つの立場で担当することができ、パラリンピックでのドーピング・コントロールの一連の流れが把握できたことはとてもいい勉強になりました。カナダの新聞社の方のインタビューも通訳でき、よい経験になりました」
 
榎村さんは、パラリンピックでのボランティアをするために、昨年の秋からウィスラー・ビレッジに近いレイクサイドにお友達と一緒に暮らしている。スポーツが好きで、スノーボード、サーフィン、マウンテンバイク、ランニングなどにも親しんでいる。しっかりと好きなことを仕事に結びつけようと取り組んでいる姿は頼もしい。しかし、余計なお世話だが素晴らしいウィスラーでよい相手をみつけて、スポーツ三昧な暮らしはどうだろう。などと、思ってしまうが・・

これからどうしますか?

メダルセレモニーで、新田佳浩選手の最初の金メダルのブーケをキャッチ! (PID: 004081)
メダルセレモニーで、新田佳浩選手の最初の金メダルのブーケをキャッチ!

「パラリンピックや障害者スポーツの選手は、その障害に応じて薬を使用する必要のある選手が多いと思います。選手が使用している薬の中に、ドーピング検査で反応してしまう薬があり、大会開催期間中は薬が使用できずに障害の様子が変化して苦しむ選手もいるというお話も聞いたことがあります。将来的には、スポーツドクターと提携して、選手たちにドーピングの正しい知識や情報を伝え、ドーピングや薬の問い合わせの相談を受け、薬の正しい使い方を教え、選手にとって快適にスポーツができるような環境づくりをできるような形で関わっていきたい」
 
とのことである。
 
そのために、まず何をしますか?考えているステップをいくつか教えてください。
 
「今年、日本でスポーツ・ファーマシスト(*)の資格をとります。つぎに、語学力の向上。日本国内のドーピングの基準や方法など知識をたくさん習得し、なるべく国内外の大会のドーピング検査のスタッフ(またはボランティア)として参加できるようにして、どんどん経験を積んでいきます。その知識と経験を活かして、いずれはスポーツ界に貢献できるような仕事に携わりたい!」
 
ありがとうございました。
 

*「スポーツ・ファーマシスト」とは、平成21年4月より日本アンチ・ドーピング機構(JADA)と日本薬剤師会によって認定が始まった資格。スポーツ・ファーマシストは、ドーピング防止活動に関する正確な情報を持ち、競技者を含めた一般の人に対してドーピング防止に関する適切な情報を提供することをおもな活動としている。


(佐々木延江)


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