アクセス3000突破記念。

「過去の賢明な市会の思い出・・・。」

「空港問題」をめぐり、神戸市会がまだ、ほんの少し民意を反映していた頃の記録である。かなり長いがこれを読むと現在の市会や「神戸空港推進論」の詭弁性が浮き彫りになるであろう。

ん、なに?こんな記念ページ期待してなかったって?まあ、そうゆわんと読んでーや。

「神戸市会史第6巻」より

第10章 空 港
第一節 新空港建設への胎動
神戸ポートアイランド沖に注目 関西に新しく国際空港を建設しょうという動きは、昭和三七年ごろに始まる。当初は、青野
ケ原(兵庫県小野市)や琵琶湖周辺などが有力な候補地として話題になった。四〇年代に入って明石・鳴門ルートの架橋の建設促進の問題とからんで、新国際空港を淡路北部に誘致しょうとする動きが関西の財界を中心に活発化して来た。しかし、明石架橋が完成までに一〇年以上は必要であろうという見通しで、淡路北部誘致が後退、代わって大阪湾誘致の動きが台頭して来た。
 運輸省は、その動きに応えるように、関西新国際空港建設予定地の各種の調査を「関西新空港調査委員会」(運輸省内に設置)を通じて、日本気象協会、日本建設機械化協会、社会工学研究所などのコンサルタントに委託し、新空港建設への瀬踏みを始めた。
 建設予定地として、泉南沖、岸和田沖、西宮沖、六甲沖、ポートアイランド沖、明石沖の大阪湾内六カ所と淡路島北部、阪和県境の陸上二カ所、計八カ所が1がっていたが、これらの候補地は、阪神沖、堺沖、泉南沖、淡路北部の四方所に絞られてきた。各候補地の優劣比較調査が行われ、阪神沖、特に神戸のポートアイランド沖が投資効果、建設条件を満たしているとして注目された。


調査費600万円をめぐつて質疑 関西新国際空港について、四六年第一回定例市会の本会議で二月一八、一九の両日にわたって、田中正美議員(社会)、久留島義忠議員(共産)の両議員から次のような質疑が行われた。中でも四六年度の予算案に、空港影響調査費六〇〇万円が計上されたことに関して、宮崎辰雄市長に村し、「誘致を前提としていないか」と厳しく追及している。
 

−田中議員の質疑−


<問>建設予定地として、ポートアイランド沖がほほ決定的という見方もあるがどうか。
<答>運輸省が各コンサルタントに依頼した調査は約一〇種類あり、断片的な話では、泉南沖の事がよく耳に入り、ポートアイランド沖が決定的とは思っていない。
<問>ポトアイランド沖、六〜一〇qでは、副滑走路の方向から騒音公害を市民はまともに受ける。市長は反対の先頭に立つべきだ。
<答>副滑走路の方向は、大阪湾の奥深く向かっており、主滑走路(東西方向)とは直角でなく、神戸市内に影響はないと思う。市民に騒音公害などの影響があれば反対する。
<問>新空港の大阪湾内設置については芦屋市など関係自治体や各種団体が反対している。市長の見解はどうか。
<答>私は、神戸市長であるから、神戸市民に悪影響を与えるものなら反対にやぶさかでない。
<問>建設されようとしている空港は、約六三〇万坪という巨大な面積をもった島である。このような巨大な飛行場を神戸港の正面に建設すれば、港の機能は麻痺することは明らかである。この点についての見解はどうか。
<答>空港建設には、港湾機能を阻害しないということが、私の前提条件である。今後、調査検討したい。
<問>運輸省は、空港建設に埋め立て造成方式を考えているが、必要な土砂五億トンの一部を六甲山系からとる計画をしている。市長の緑化方針とするこの計画をどう考えるか。
<答>神戸市の人口は将来一八〇万人が見込まれている。そのため、市街地は今の倍の面積が必要と考えている。自然のままで残るのが七割、市街化されるのが三割ということになる。今後、一五%程度のニュータウンづくりが必要で、山を削ることになる。現場で土盛りをするよりも地山のまま利用する方が安全だ。余った土は、空港の問題は別として、六甲埠頭などの埋め立てに利用するのがよいと考えている。
<問>明石架橋の際の調査費が促進費にかわったケースがある。四六年産予算に計上した空港影響調査費は、その懸念はないか。また、この六〇〇万円でどんな調査ができるのか。
<答>空港影響調査費を促進費にすることはない。調査は県と共同でするので、六〇〇万円でも間に合うと思う。
<間>運輸省の資料によると、空港建設地の決定については、地元の全面的協力が得られる場所という項目が入っている。このような項目からして、新空港ができるのもできないのも市長の決断如何と思うが、考え方を聞きたい。
<答>空港建設に対しては、科学的調査をして、騒音公害や港湾機能への影響等を検討し、その結果、協力するか反対するか判断したい。
 

−久留島議員の質疑−


<問>空港建設の調査費六〇〇万円を計上した理由は何か。
<答>空港予定地が決まった時に調査すればよいと考えていたが、市民の中に早く、仮定の論議でもよいから調査してほしいとの要望もあって、予算を計上した。
<間>SST(超音速飛行機)のソニックブーム(地上衝撃波)についてどう考えているのか。
<答>SSTはまだ開発途上であり、いまのままの状能ぞ飛んでくることは不適当だと思う。また飛来させることには反対する。
<間>軍事利用についてはどうか。
<答>軍事利用については、私は答えられない。ご意見はうかがっておきたい。


市側に資料に資料の公表を迫る こうしたなか、関西新国際空港の建設について、神戸の経済界あるいは市民の間に賛否の議論
が活発化していた。四六年六月一八日の総務財政委員会では、市に対して「運輸省から市に具体的な相談はあったか」「秋には閣議決定が行われるような情勢で、委員会審査の参考となる資料は提出できないか」「空港問題について市民の関心が高まっているにもかかわらず、当局の何も言わない姿勢は疑問だ」などの質疑が相次いだ。
これに対し当局は、「運輸省にはすみやかに資料を提出するよう要求している。空港の必要性、建設位置、騒音などの資料はいま収集している。まとまれば、委員会に提出する」と答弁し、「新聞報道を通じて情報が提供されているにもかかわらず、委員会には何も知らされていない。資料の提出はいつごろになるのか」との質疑に
「資料は六月いっぱいにまとめ、七月には委員会に提出したい」と初めて当局の姿勢が明らかにされた。
質疑応答の後、当局に対して「新空港設置に関する参考資料(騒音・空港位置等)」の提出を要求した。

神戸市試案を発表 総務財政委貞会の資料要求を受けて、当局は、次に開かれた四六年七月一日の委員会で、ポートアイランド沖に建設する場合の「袖戸市試案」を説明した。
このとき説明きれた神戸市試案は、運輸省などから入手した情報をもとに、神戸市独自に作成したポートアイランド沖候補地の位置、空港の形、騒音範囲などの資料だった。
それによると、新空港の位置はポートアイランドの南西すみから沖合いへ六`の地点。形は五角形の野球のホームベース型。工費約七五〇〇億円で、第一期(四七年−五一年)の工事が面積五〇〇f四〇〇〇bの主滑走路一本。将来は二000b、四〇〇〇b滑走路四本、三二〇〇b横風滑走路二本の計六本を持つ世界第一級の空港になる、としている。
 この日の委員会では各委員から神戸市試案の根拠について質疑が出きれたが、当局からは「各方面から情報を集めて検討し、市で書いた案であり、今後、資料を出していくため、資料の出所は公表を避けたい」との答弁があった。新空港の関連資料が一部にせよ、公表されたのはこれが初めてだった。
 この試案発表に際し宮田芳彦企画局長は「今回の案は、運輸省案に近いものとみてもらっていい。今後、市民の健康と暮らしを守るために空港問題はガラス張りでいきたい」と表明し、運輸省案の発表まで、とりあえずこの試案をたたき台として市民に空港誘致の賛否を問うことになった。
 ポートアイランド沖は、泉南沖とともに、最有力候補になっていたところで、運輸省の計画が進むにつれ、地元住民の建設反対運動も強くなり、多くの反対請願が提出されていた。
 市側の試案提出を機に、空港設置に反対、賛成の請願・陳情は一段と増え、請願件数は五〇件を超えるなど、市民の関心の高さを示した。
七月五日の総務財政委員会でも「関西新国際空港の袖戸沖又は阪神沖建設反対に関する請願」が審査された。
意見決定にあたっては、七月一日に当局より資料が提出されたが、公害等の疑義は明らかにされず、また、調査については運輸省ペースで進められており、当局にはそれだけの調査能力はないので、これ以上審査を続行しても将来にわたり疑義は解明されないものと判断する。従って、請願を本会期中に採決したいとの意見があった。
しかし、この請願に関して、現在委員会として調査を継続中であり、それを中断して採決はできない。また、公聴会を開き広く市民各界の意見を開くべきである。きらに請願者の意見も開くべきであるとの意見が出され、結論は次回委員会に持ち越されている。
 公聴会については七月七日の委員会でも結論は得られず、八日になって、開催すると決定し、細部については各会派一人ずつの代表者五人で決定することになった。
 二二日の委員会で、空港問題に関する公聴会を八月四、一三、一六の三日間開くことに決定した。
 公聴会では、先に発表された神戸港ポートアイランド沖六`に建設しょうとする神戸市試案に問題が絞られ、
  @ ポートアイランド沖設置の可否
  A 航空機騒音
  B 神戸港の船舶航行への影響
  C 大気汚染
  D 神戸経済、市財政におよぼす影響
  E 都市構造の変化と自然破壊
の六項目について、それぞれ専門の学識経験者と利害関係者から意見を聞くことになった。学識経験者の公述については人数は一一人、公述日は八月四、一三日の二日間で、一般利害関係者の公述は、一六日に行われることになった。

 学識経験者の公述人と公述事項は次のとおり。
 【八月四日】山口篤利神戸商船大学教授(船舶航行) ▽大志野章・元大阪府公害監視センター室長(大気汚染) ▽木村秀政・日本大学教授(騒音) ▽山本剛夫・京都大学教授(同) ▽関川栄一郎・航空評論家(都市構造・自然環境)

 【八月一三日】米花稔・神戸大学教授(経済・財政)▽坂本二郎・元一橋大学教授(同) ▽柳沢三郎慶応義塾大学教授(大気汚染) ▽竹内義治豊中市長(騒音) ▽小田義士海難防止研究会常任理事(船舶航行) ▽田中茂神戸大学工学部長(都市構造・自然環境)
 また、一般の公述人の申し込みは一〇〇人(賛成四八人、反対五〇人、その他二人)で、選定の結果、二四人に決まった。

市会公聴会開く 四六年八月四日、会場の明治生命ビル一二階ホールには、総務財政委員会の委員全員のほか小林辰之助市会議長はじめ市会議員約五〇人、神戸市、兵庫県関係者、傍聴券を持った市民ら多数が詰めかけた。中には、西宮、尼崎など阪神間各市の関係者の姿もみられた。
公聴会は、溝田弘利総務財政委員長の開会あいさつに続いて学識経験者の公述に入ったが、午前一○時半ごろ、会場に赤ヘルメットをかぶった学生十数人が隊列を組んで押しかけ、「新空港反対」「公聴会粉砕」のシュプレヒコールで気勢をあげた。学生たちはかけつけた警察官に排除されたが、そのあと玄関前にすわり込み、マイクでシュプレヒコールを続けるなどの妨害があった。
 八月一三日も学識経験者による公述が行われた。三回日の公聴会は八月一六日、サンボーホールで開かれ、賛成一二人、反対一二人、計二四人の一般利害関係者が公述を行った。二四人の公述人は、大学教授、医師、労組幹部、会社役員、市民運動リーダー、主婦、会社員などで、独自の勉強や自分の公害体験などを織りまぜ、持ち時間一〇分の中で、それぞれの立場で賛否の熱弁をふるった。
 賛成意見の公述内容をまとめると@利便が多いA経済効果が期待できるB陸、海、空の国際複合一貫輸送が可能になるC知識・情報産業へ移行できるD世界への窓口が開けるE騒音、大気汚染などの公害問題は科学技術の発達で防止できようF海上空港で騒音は防ぐことができ、伊丹の現状が救えるG空港島が防波堤となり台風時の神戸港の港湾機能にプラスになるH今の時点よりも未来に立って考えることが大事だ、など。賛成論の中にも「公害がない空港」を前提とした公述人が多く、また運輸省のデータが未発表で早急に結論は出すべきではない、とする意見もあった。また、「航空機はもう身近な交通機関で、近くにあれば便利」「経済効果では、建設費が直接、間接に地元経済に影響を与え、雇用増、各種税収の増大が見込める」などの見方が示された。
一方、反対意見を要約すると@都市環境の悪化、騒音公害、大気汚染、ガソリンなどの貯蔵の危険性、交通公害をもたらすA埋め立て土砂採取による自然破壊B航空機事故を招くC船舶航行に支障があるD経済効果について疑問があるE空港が軍事目的に使われる可能性がある、など。
 一般市民に最も関心の高い騒音公害についてはほとんどの公述人がふれ「試案の七〇ホンは信頼できない」「市街地に騒音公害が及ばない保障がない」と指摘していた。大気汚染については「すでに工場排煙、自動車排ガスなどで市内は限界にきている」「これ以上の汚染は我慢できない」などが代表的だった。また「空港建設の間、神戸港の船舶航行に障害をきたすのは必至」「経済効果よりも逆に物価高を招く」などと心配する声があった。
午前中に会場にまぎれ込んでいた過激派学生の一人が公述人からマイクを奪おうとして一時混乱する場面もあったが、やじなどで反対気勢をあげる学生を強制退場させ、午後は平静に進められた。公聴会は、この市民代表の公述で終わった。
なお、一〇月九日に開かれた総務財政委員会で「先に作成、提出した新空港の神戸市試案は、運輸省の調査概要が公表(九月二一日)されたことで調査村象としての必要がなくなったので撤回したい」と申し出があり、委員会は、試案をもとにして行ってきた調査データは、今後も尊重していくことで了承している。
 ところで、神戸市試案が市会に提出された七月一日、時を同じくして神戸の経済三五団体で作っている空港誘致組織「公害のない関西新国際空港を推進する会」が運輸省の丸居幹一飛行場部長を招いて勉強会を開いた。また翌二日には、財界が組織している関西新空港推進協議会の代表理事・芦原義重関西経済連合会会長、砂野仁神戸商工会議所会頭の両氏が坂井時忠兵庫県知事を訪ね、自治体の協力を要請するなど、空港建設の候補地選びの最終段階を迎えて官界、財界の動きがあわただしくなった。
坂井知事は、芦原、砂野両氏との会談の席上「早急に自治体側の推進協議会を設ける」と積極的な発言をしている。この間題に関して、宮崎辰雄市長は、「空港問題は、市会でやっと調査の方向へ動き出した段階であり、市としては、いまの時点で推進協議会に入るようなことは出来ない。ただ関係府県市の事務レベルで調査会のようなものを作るならば別だ」と慎重で、「当面必要なことは、公害の有無を調査すること。いまの段階で推進機関を結成することは適当でない」という見解を示した。

神戸沖有力に 公聴会が開かれているさなかの四六年八月一〇日、大阪国際空港で開かれた「大阪国際空港騒音対策委員会」の席上、運輸省航空局の丸居幹一飛行場部長は、関西新国際空港建設について「神戸ポートアイランド沖と大阪・泉南沖が有力で、それぞれ問題点はあるが、経済効果では神戸沖が有利だ」と述べ、運輸省の意向として初めて神戸沖有力を示唆した。丸居部長が建設地選定調査の経過報告の中で明らかにしたもので、説明によると、これまで候補に上がっていた八ヶ所のうち、阪和県境と錦海湾は都心から離れ過ぎている。大阪市の沖は管制上難点があり、淡路島は大量の土砂を削りとる必要があり、現在の土木技術では難しい。また、明石沖は、地盤はよいが、進入路と漁業権に問題がある。西宮・芦屋沖は、どうしても民家の上の飛行を避けられない、といずれも候補地として不適当である、としていた。
一方、泉南沖は管制上問題が少ない。船舶の出入りも少なく、トンネルにしても橋にしても連絡路をつけやすく、候補地として残っている。しかし、経済効果は最良とはいえない。
これに対して、神戸ポートアイランド沖は、経済効果が大きく、また、これまでもっとも難点とされていた船の航路も致命的な障害とはならないというものであった。


航空騒音の測定 関西新国際空港問題を審査していた総務財政委員会は、神戸港沖空港設置についての参考にするたの測定め、四六年八月五日、大阪国際空港周辺六ヶ所で航空機の騒音調査を行った。
この調査は、公聴会の合間をぬって、市民生活局環境部の協力で実施した。二回目の騒音調査は、同月二六日夜、前回同様、大阪空港周辺で行われた。夜間の騒音測定はこれが初めてだった。三回日の騒音調査は、九月一三日、東京・羽田沖での実地測定となった。
 同委員会では、この三回の調査データを審査の参考資料に加えた。
一方、運輸省でも、大阪湾、播磨灘に関西新国際空港をつくった場合、航空騒音が沿岸地区にどの程度影響を及ぼすかを割り出すジャンボ機による調査飛行を一一月八、二九日、一二月六日の三回、実施した。
 泉南、神戸、明石沖の各候補地とも、騒音度が建設の大きな鍵となるだけに、運輸省以外にも沿岸各市町、団体などが独自に騒音計を配置し、多くの住民も目と耳で、ジャンボ機の飛行と騒音の実態を確かめた。

反対請願を採択
関西新国際空港の建設に反村する請願七件が、四六年第二画定例市会二日日の五月一四日の本会議で、総務財政委員会に付託され、同月一八日に開かれた委員会において審査された。
 反村の理由は@空港の主な利用者は、貨物輸送の荷主と航空会社だけA騒音、大気汚染などの公害B船舶航行への障害C埋め立て用土砂の採取による自然破壊D航空機事故の心配E道路の過密化F兵庫県、神戸市など地元自治体の財政への圧迫、などがあげられていた。委員会で宮田芳彦企画局長は「これらの請願を通じて、住民の公害に対する不安が表明きれている。今後、空港の騒音など公害の実態を調査したい」と述べた。
 委員会の意見決定では、「さらに慎重な審査を要するため開会中の継続審査」を申し出ることになった。以来、空港建設にかかる請願は相次いで提出され、第三回定例市会最終日の一〇月一三日までに五六件を数えた(賛成の請願が二三件、反村の請願が三三件)。一〇月一三日の本会議では溝田弘利総務財政委員長から報告があり、次のような附帯意見を付けて反対請願の一括採択が決まった。


 「本委員会は、本年五月以降、関西新空港神戸沖建設の可否について、市民各層及び学識経験者の意見を徽し、騒音調査、運輸省 当局の説明聴取を行うなど審査を続けてきた。
  その結果、なお調査不十分であるので、騒音許容限度の科学的究明、空港建設に随伴する交通過密と大気汚染、環境を破壊しな い埋立土砂採取の可能性、船舶航行の安全性等について問題があり、公害等がないという保障も得られていないので、本請願を採 択する」

 五月一二日に初めて反対請願が受理きれてから五カ月ぶりの採択であった。


特別委員会設置 四六年第二回臨時市会二日目の一一月八日、議員提出議案として「関西新空港問題に関する特別委員会設置の件」が提案された。特別委員会設置に関しては、先に八月に開いた公聴会のあとの審議日程について、空港問題を扱っている総務財政委員会の場を広げて「新空港特別委員会」を設けてはどうか、という声が出ていた。
 八日の本会議で、特別委員会設置の件について、提案者を代表して松本正一議員(自民)が次のような提案説明を行っている。


   「先の定例市会で、全会一致で新空港建設反対の請願を採択した。調査の不備と公害がないと断定できないことによるもの   で、このことは、市民生活への影響調査の必要なこと、さらに予測される問焉点、公害防止のための施策が可能かどうか、など  科学的に妥当な結論を得る必要を示唆している。今後、運輸省において調査、検討があると思うが、市民の生活と健康を守るた  めに、関係当局の調査に対応して、市会に調査研究の機関を設けておく必要がある。
  この特別委員会設置については、空港建設促進に連なるとの意見もあるが、この特別委員会は、あくまで、先の反対請願採択の  趣旨にのっとって調査研究を遂げる任務を有する。さらにこの間題は多方面、多分野にわたるため、特別委員会設置が適当であ  る」

 提案説明に続いて、岩井直臣議員(共産)の反対討論、仙波佐市議員(社会)の賛成討論が行われた。特別委員会の設置に関する反対、賛成の討論の概要は次のとおりである。
〔岩井議員(反対討論)〕
 運輸省の調査内容は、騒音や大気汚染などの公害問題に科学的な調査検討を行っていないこと、またこのような資料で住民を欺こうとしながら、一方では、地元自治体の公団に対する出資を法制化する関西新国際空港法案を内閣法制局に準備させ、大蔵省には公団設置資金など一〇○億円を要求するなど、住民、自治体の意向を尊重するといいながら実際には運輸省の計画を推し進めようとしている。こうした中で、賛否の態度が明らかになっていない特別委員会をつくるのは空港誘致賛成への道を開くものと思われてもやむを得ない。圧倒的多数の市民は、市会と当局が、明確な反対の態度を推し進めていくことを願っている。


〔仙波議員(賛成討論)〕一〇月一三日に満場一致で反対請額を採択したが、運輸省は、やはり運輸省の考え方を通そうとしている。
請願採択の趣旨を実現するために受けて立つ態度が必要だ。本日、今後も総務財政委員会が新国際空港の問題を審議するかどうかの討議をした。単に総務財政委員会の範囲での論議は荷が重過ぎる。土取り、騒音、航行など関係委員会があり、総合的な審議機関を持ってはどうかという意見が出された。「一応、請願を採択した投階で総務財政委員会はピリオドを打とう」との意見の集約をみた。特別委員会は、請願の趣旨を貫くために市民の要望に応えて、運輸省の態度を受けて立とうということだ。


 このあと、起立採決の結果、賛成多数で原案どおり可決。直ちに委員三四人が議長から指名された。
関西新空港問題に関する特別委員会は、一一月二二日、初委員会を開き、役員を互選の結果、委員長に松本正一委員を議長指名により決定し、副委員長に吉本泰男委員、理事には森川貫一、青木昌夫、福田信勝、十倉茂雄、八代薫の各委員を委員長指名により決定した。

建設反対決議案、継続審議に 四六年第二回路時市会最終日の二月九日、議員提出議案として「神戸港沖新関西国際空港継続審査に設置に反対する決議の件」が提案された。
 この日は、前日の本会議で老人医療費無料化に関する請願の審議に時間がかかり、八日午後一一時四一分まで開かれていたのに引き続き、真夜中の開議となった。開議時刻は午前○時。わずか二〇分足らずの間をおいただけの、二日間にわたる本会議だった。
 空港反対決議の提案は、共産党議員団の一〇人によるもので、橘議員が代表して提案説明を行った。概要は次のとおりである。
 「運輸省は、住民や市会の意思を無視して、空港の必要性や位置などを決めようとしている。これまで市会が行って来た公聴会や住民の意見をみても、騒音や大気汚染による市民生活への影響、空港建設による自然破壊、海流の停滞、出資などの分担金による福祉事業への圧迫、市内交通の深刻化、神戸港の機能低下などが考えられる。昨日、空港問題の特別委員会が設置きれ、さきの空港反対の請願採択の立場に立って、反対の決議を行うべきと思う」 提案説明の直後、辻忠夫議員(共産)から、「緊急動議」との声がかかり、委員会付託を省略し、直ちに表決を、との動議が出された。場内喧騒の中、起立採決の結果、この動議は賛成少数で否決された。
 この時、吉本泰男議員(社会)から議事進行についての発言があり、「共産党議員団は、議会運営委員会で本案件について委員会付託に賛成されながら、この申し合わせを無視した動議提出である」と同議員団を非難するとともに、議長の議会運営に対し反省を求めている。緊急動議の否決により空港設置反対決議案は委員会付託と決定した。
 空港設置反対決議案は、設置が決まったばかりの「関西新空港問題に関する特別委員会」に付託され、開会中の継続審査と決まった。
 閉会午前一時一七分、真夜中の本会議だった。

航空審は慎重な構え 関西新国際空港建設問題は、四六年後半になって運輸省が調査資料を公表、一方、大阪府、兵庫県、大阪市、神戸市の地元自治体首長が「公害のない空港をすみやかに建設」することで合意し、きらに運輸省の騒音調査が行われるなど各方面で動きが目立っていた。
 しかし、地元の要望を重視する航空審議会関西国際空港部会では、地元の意見聴取や大気汚染、騒音、大阪湾の船舶航行、自然破壊の問題など、調査対象が広範囲にわたり「期限を設けず、じつくり納得いくまで検討する」とし、大蔵省も「具体的な建設地も決まらないのに公団設立の予算は認められない」との方針だった。

第2節空港設置反対決議を提案

 空港特別委員会の審査始まる 運輸省の航空審議会関西国際空港部会は、四六年一二月、委員の合意事項として

@関西に新空港が必要なこと。

A人口の密集している所から適当な距離を離して海上に建設すれば、公害問題を避けうる可能性があること。

B規模、位置など具体的には、なお慎重な調査と検討を要すること。

の3点を確認。運輸省も省内に計画室を設け、第三港湾建設局(神戸)内に調査室を設けるなど、建設のための組織強化が進められていた。

 こうした中で先に記述したように、四六年一一月の第二回臨時市会で「神戸港沖新関西国際空港設置に反対する決議の件」が提案された。一二月一七日に開いた関西新空港問題に関する特別委員会では、この決議案や反対決議に関する請願三四件、空港設置に関する請願一七件の取り扱いについて協議したが、決議案、請願共に継続審議となった。

 空港特別委員会は、このあと、翌四七年の第一回定例市会まで理事会の開催や運輸省など中央の情勢調査に精力的に取り組んでいる。

反対決議案の撤回 四七年第一回定例市会最終日の前日、三月三〇日の委員会で再度、決議案、請願などの取り扱いについて討議したが、各会派で検討するため意見決定を翌日に持ち越し、三一日の本会議開会を前に委員会を再開、協議を続けた。この結果、さきの臨時市会で提案された「神戸港沖新関西国際空港設置に反対する決議の件」について、提案者及び賛成者全員から撤回請求が出きれ、委員会はこれに同意した。同三一日の本会議で、撤回請求が出されたことが報告され、議会の同意を得た。
反対決議案提案、可決 四七年三月三一日に撤回された決議案は、共産党議員団から提出されていたが、この日の本会議
では、改めて「関西新国際空港紳戸港沖設置反対に関する決議の件」が自民党を除く社会、公明、共産及び民社の四党共同で提案された。
 神戸港沖空港の設置に関しては、四六年八月、三回にわたって開かれた公聴会をピークに賛成、反対の請願や陳情が数多く出され、市民の意見を代表するものとして市会の態度表明が迫られていた。空港設置反村の請願採択に続く今回の設置反対決議案の提出は、市会としての態度を一歩すすめるものだった。
 提案説明に立った青木昌夫議員(社会)は次のように述べている。
 「住民運動は大きな発展をし、運輸省当局をはじめ航空審議会委員に村し、強い反村の行動が繰り返されておることはご案内の
とおりであると思います。また、関西における各地方議会においても、大阪湾における空港設置反村の決議が盛んに行われております。近くは西宮市議会において大阪湾における空港設置反対を全会一致で決議しているのであります。また、住民から神戸市会にあて、反村決議を要請する請願が数多く出きれたこともご承知のとおりであります。市民の生活環境が十分に守られる施策が行われることを、私たち市会議員は監視をする必要があります。

 以上のような諸点から、私たちは、関西新国際空港神戸港沖設置に反対することを明らかにするとともに、運輸省に村し、その計画を撤回するよう強く求めるものであります」
 この提案に対して、小林辰之助議長は、委員会付託を省略し、直ちに討論に入ることを宣告し、森重夫議員(自民 が次のように反対を表明した。
 「神戸港沖に関西国際空港を設置するかしないかという問題は、神戸市の将来にとって非常に重大な問題でありますので、十分な時間をかけて、公害のない理想的な空港の設置ができるかできないかということを慎重に究明したあとに、賛成か反対かの立場を明らかにすべきであって、また審議会においてもその他のところにおいても、調査がまだ不十分な現在において、しかも予算審議が本日限りという差し迫った状況のもとにおいて反対決議をすることは、神戸市百年の大計をあやまるものであって、一度この決議を行えば、今後いかに後悔しても取り返しのつかない事態となるのであります。それによって議員の知性、判断力が疑われる結果となるのであります。わが党は、あくまでかかる見地から反村するものでございます」
 森議員は、さらに続けて、空港建設に伴う経済問題、波及効果などを次のように述べている。
 「空港建設の事業費は約八〇〇〇億円といわれております。その莫大な金がひいては日本国中を潤すことになり、また、その恩恵をまっ先に受ける者は神戸市民であります。神戸市にとって空港間遺は、現在のわれわれ市民だけでなく、われわれの後に従、つ二世、三世にも重大な影響を与える重大な問題でございます。そこで、慎重の、うえにも慎重を重ねて結論を出さなければならないのでありまして、あわてて、ばたばたこの一二時まぎわに出すというようなことは賛成できないわけでございます。
 次に決議案の中にある「市民の健康と環境を代償として若干の経済的利益を得ることのみによって、空港設置を促進することは、
良識ある者のとるべきところではありません」との表現は、一見、体裁のよい文章のように見えますが、理論の立て方が全く独善的
であり、抽象的であって、ことさらに悲観的な不確定要素を積み重ねて、設置反対の作文をでっち上げたと言わぎるを得ないのでございます。すなわち、国際空港ができたら、わが神戸市に向けて二〇〇〇万人から四〇〇〇万人の乗降客があると言われております。空港ができることによって日本全国から、さらにまた世界各国から人も物も集散し、神戸大発展の礎ともなり、神戸市民の多数が繁栄を続け、同時にしあわせな生活を行い、さらに最も大切な時間の節約をすることができるわけでございます。
 決議案には、若干の経済的利益といって取るに足らない経済的利益を神戸市が受けるような書き方をしておりますが、空港設置によって神戸市に入る税収見込みが約五〇億円とされております。これは若干の経済的利益と表現するにはあまりにも大きい金額でごぎいます。一三〇万市民全体から集めておる市民税の年額が一二〇億円余でごぎいまして、それとこの五〇億円を考え合わせてみるときに、いかに貴重な、尊い財源であるかということが明白であろうと思います」
反対討論のあと、小林議長は起立による採決をとり、賛成多数で「関西新国際空港神戸港沖設置反対に関する決議」を原案どおり可決した。決議文は次のとおりである。


 関西新国際空港神戸港沖設置反対に関する決議


 各種の公害が郷土神戸をむしばんでいる現在、これ以上市民の生活環境を悪化させることは許されません。
 空港へ向かう道路にひしめく自動車の列、耳をつんざく航空機騒音、噴出される排気ガスによる大気汚染、あるいは船舶航行に対する障害等、いずれをとっても神戸港沖に空港がつくられることによって市民の生活環境を現在よりいちじるしく悪化させることは明白であります。
 市民の健康と環境を代償として、若干の経済的利益を得ることのみによって、空港設置を促進することは良識あるもののとるべきところではありません。
 さきにわが神戸市会が、神戸港沖空港設置反対の請願を全会一致で採択したのも以上の理由にほかなりません。
 しかるにその後、運輸省当局においては、市民の納得する何等の措置もとられず一方的に審議会を通じて、海上空港案の審議を進め、また調査室をも設置して建設への方途を推しすめています。
われわれは、住民の理解と納得を得られない関西新国際空港神戸港沖設置に反対する能違を明らかにし、政府が計画を即時撤回することを強く求めるものであります。



 この建設反対決議の結果、兵庫県下の芦屋、尼崎市議会の「阪神沖反対決議」、西宮市議会の「大阪湾内反対決議」のほか、大阪府議会など大阪湾沿岸市町の各議会が、大阪湾内での関西新空港建設に反対の意思を表明したことになり、この時点で、運輸省のすすめていた大阪湾内での海上空港建設は非常に難しい見通しとなった。神戸市は、先に新空港の神戸市試案を独自に出すなど積極的な姿勢を示し、航空局も話し合いはスムーズに行くものと期待していただけに、新空港の有力候補地の一つである神戸ポートアイランド沖案に対する地元神戸市会の反対決議は、運輸省にとって大きなショックとなった。
 なお、本会議に先立って開かれた関西新空港問遺に関する特別委員会は、松本正一委員長(自民)が「新空港反対決議については、委員会として意見をまとめることができない。全会一致を目指して努力したが、まとめられなかった」と辞任。委員会も、反対決議が可決されれば調査・研究すべき事項がなくなり、また、付託された請願も継続審査を申し出ないこととしたため、解散した。
 なお、最終的に反対の請願は三七件、賛成は二三件にのばった。


第3節 市長、空港設置反対を表明
本会議の質疑


「現段階では、公害があると判断されるので、関西新空港神戸沖設置に反対する」
宮崎辰雄市長の新空港に反村するという意思表明が、多少のあいまいさを残しながら市長の口から正式に出された。四八年三月六日午後の市会本会議で清水伊助議員(社会)の質疑に答えたもので、概要次のような質疑が交わされている。
 〔清水議員〕
 神戸市民の多数が、(空港の)神戸沖設置反対を強く望み、しかも市長の態度表明を期待してきたにもかかわらず、明確な見解を示されずに今日に至ったことは、まことに遺憾の極みと言わざるを得ないのであります。今日、多数の神戸市民は、(この)予算市会において市長がその態度を明確にされることを期待し、注目しているのであります。神戸市会は昨年度の予算市会、本会議において、市民からの反対請願を採択すると同時に、神戸市会の意思として神戸沖設置反村を決議したのであります。これらの事実を踏まえて、市長は、市民の大きな期待に沿って、いまこそ関西新空港の神戸沖設置反対の態度を明らかにすべきであります。明確適切なご答弁をされることを強く求めるものであります。
〔宮崎市長〕
 私は、この機会に申し上げたいことは、いままでも公害のある空港には反対であるということを申しておりました。
公害のあるないということは、公害を起こす原因者側のほうの挙証責任があるわけであります。
公害が現にないという立証が明らかにされていないのでありまして、そういう意味においては、私は十分の挙証斉任を果たしていない現在の状態におきましては、反対せざるを得ない。こういう判断に立っておるのであります。
〔清水議員(再質疑)〕
 関西新国際空港の問題について、重ねて質問いたしたいと思うのであります。
いま市長は、運輸省の公害関係資料が非常に少ない。公害がないという資料が明らかでないということを言っておられます。そうしますと、その資料が明確でないことは、(公害が)あるということになるので、(公害が)あると見るべきだ。したがって反村せざるを得ない。市会の決議案を尊重したいという態度は、市長は、新空港は反対であるという理解をしていいのか、どうなのか。この点をお聞かせ願いたいと思います。
そのことは今日宮崎市長が、そういう公害の心配のある空港が神戸沖に出来る場合、市民の先頭に立って、身体を張ってでも反村するかどうかということが、今日多くの市民が、市長の今日の答えに非常に大きな期待をかけておるのであります。重ねて、市長の考えを明確にお聞かせ願いたいのであります。
〔宮崎市長〕
   清水議員のお話のとおりであります。


 関西新空港については、四六年九月、大阪府、大阪市、兵庫県、神戸市の四自治体首長の間で「関西に新空港が建設されるべきである」という合意がかわされているが、この四首長の中で、「新空港反村」の態度を表明したのは、宮崎市長が初めてであった。

宮崎市長は、これまで「公害のある空港には反対」というだけで、消極的賛成とも受け取れる能産を示し、反対住民らの追及に対しても、ほとんど沈獣首守って来た。しかし、住民の根強い反対運動が続き、市会の新空港神戸港沖設置反対決議を受けて、市長自身の能心度表明が迫られていた。


苦渋に満ちた決断 この日の市会本会議には、傍聴席に住民運動のリーダーら約七〇人が詰めかけた。市長の反対表明の表現が分かりにくかったこともあって「もっと強い意思表示をすべきだ」という声もあったが、反対派は一応「大きな前進」と評価し、一方、誘致運動を進めてきた経済界は「空港ができなくなったわけではない」としながらも、ショックはかくせなかった。
 いずれにしろ、空港建設には、地元の意向が大きく働くだけに、位置決定など運輸省航空審議会の答申に微妙な影響が予測された。
 反対表明からさかのほること三年、四五年の一〇月、宮崎辰雄市長は市政記者クラブとの定例会見の席上、「公害の心配がなければ、神戸沖に新空港を受け入れたい」と発言している。当時、大阪国際空港の大気汚染や騒音などの公害が問題となっていた。運輸省は神戸沖、泉州沖、播磨沖、淡路島など、何カ所かで工費、利便性などの調査をすすめていたが、候補地の中には反村の意思表明をするところもあった。こうした状況のもと、宮崎市長の誘致表明は、かなり思いきった発言だった。
 それまで、淡路島を候補地としていた神戸財界や兵車県も神戸沖に賛成の立場をとった。運輸省では、暗に泉州沖と神戸沖の二カ所が有力候補地として残っていることを示唆し、地元の、特に住民の受け入れかたに大きなウエートを置いていた。
 建設計画がすすむのとは対照的に、神戸沖設置に反村する市民の声は、日ごとに大きくなっていた。問題は騒音だった。大阪国際空港の騒音をめぐつて、伊丹市での住民の反対運動が激しくなっているおりから、神戸市民も不安を募らせていた。
 あらゆる公害問題が全国的に問題として取りあげられていた時でもあり、市民の反対の流れにさからうわけにもいかず、宮崎市長にとって空港の必要性は十分承知しながら、苦渋に満ちた決断だった。


第四節 航空審議会の答申、泉州沖に
相対する県会と市会
 ジェット航空機のもたらす騒音公害の責任を国に問う「大阪国際空港訴訟」の判決が四九年二月二七日、大阪地方裁判所民事三部で言い渡された。関西新国際空港の建設問題とも関連して注目された判決だった。
 判決では、「大阪国際空港に発着する航空機、特にジェット機がもたらす騒音のために、発着コース直下に居住する原告らが被っている被害は甚大である」と騒音公害を認めたうえで、国に対し、夜一〇時から翌朝七時までの間、同空港での緊急時を除く全面飛行禁止と、兵庫県川西、大阪府豊中両市の騒音激甚地域に住む原告二六四人のうち、二六一人に村する損害賠償を命じている。原告が求めていた夜九時からの飛行差し止め、将来の被害に対する賠償請求はいずれも棄却されたが、公害に対する国の賠償責任等が認められた意味は大きかった。
 関西新国際空港の建設は、大阪空港の騒音公害、ひいては撤去の問題との関係で議論されて来た。それだけにこの公害訴訟判決を機に、新空港建設をめぐる論議が再燃して来た。
 四九年三月二九日の兵庫県議会本会議では「大阪空港撤去、新空港の建設促進」の請願が自民党の賛成多数で採択されている。
 新空港問題に関して、住民組織などから県会へ持ちこまれた請願で、最も古いものは四六年六月二日に出された「新空港建設反対」の請顧であった。以後、大阪湾沿岸に新空港建設反対の動きが急速に高まり、住民組織も次々と結成された。さらに阪神間の各市をはじめ、神戸、明石など各市議会がこぞって建設反対の意思表示をしていた。こうした動きに合わせて、県議会には次々と反対請願が出され、四九年三月末で約二五〇〇件という大量の反対請願が提出されていた。
一方、財界を中心に、公害のない空港を前提とした建設賛成の請願も数多く提出された。大阪空港周辺の住民や自治体からも航空機の騒音公害を解決する手投として代替の新空港を建設してほしい、との声も強く出されていた。
 賛成・反村の多くの請願の審査を付託された兵庫県議会総務企画常任委員会では、三年の間、継続審査とし、賛成・反対いずれの請願についても採択していなかった。
 ところが、騒音公害についての判決後、三月にはいって大阪空港周辺住民を中心に「大阪空港撤去、関西新空港建設」の請願六五件が県議会に提出され、これを受けて「裁判で大阪空港が欠陥空港と指摘されたのだから、請願も決着をつけるべきだ」と主張されるようになった。
 こうして、新空港賛成請願のうち「神戸沖建設」など場所を指定したものを不採択として整理したのち、三月二七日に開かれた兵庫県議会総務企画常任委員会で「現大阪空港を撤去し、代替空港として新空港の建設を促進する」との請願を採択することにした。二日後の二九日の本会議では、過半数を占める自民党だけの賛成で採択された。大阪湾岸の関係自治体がそろって「建設反村」の意思表示をしている中で「建設促進」の態度を明らかにしたのはこの採択が初めてだった。
なお、大阪空港公害訴訟の判決については、原告・住民側、被告・国側の双方が判決を不服として控訴している。また、大阪空港の存廃に関しては、田中角栄首相が存続を表明したり、それに対して運輸省が撤廃を確認するなど、存廃問題は揺れ動いていた。


泉州沖有力に 新空港の建設をめぐつて、地元で賛否の議論が再燃している中で、関西新国際空港の位置と規模について、答申の検討をすすめていた航空審議会関西国際空港部会は、四九年五月二九日の委員懇談会で、「昭和六〇年を開港時とし、大阪府・泉南沖に海上空港を建設する」ことで委員の意見がほぼ一致した。
航空審議会の答申は、七月に予定されており、答申の主文案づくりを一任されている総務小委員会の素案がこの日の委員会に提示されているだけに、委員会の意向がそのまま空港部会の意向となるのは確実とみられた。
 ここにきて、神戸沖、播磨沖の候補地は主文から姿を消した。
 関西新国際空港は、四六一○月運輸大臣が航空審議会に諮問したのを出発点として、神戸沖、泉州沖、播磨沖、淡路島の四候補地について、それぞれ優劣比較の検討に入っていた。これまでの審議を通じて、建設位置が明らかにされたのは、この日の懇談会が初めてである。比較項目は、@利用の便利さA管理・運航B環境条件C建設D漁業など既得権益との調整E地域計画との整合F開発効果、の七点。総務小委員会が「泉州沖」を打ち出したのは、当初有力だった「神戸沖」に多くの難点が指摘されたためだ。つまり、神戸沖については沿岸部の都市づくりはすでに終わっており、再開発の余地がなく、建設効果が薄いこと。当時、計画上、新空港開港とほば同時に完成する「明石海峡大橋」のタワーの高さが、西からの着陸のさい、障害となるおそれがあり、危険であること。船舶航行に差し障りがあること。地元の同意が得にくくなったこと、などだった。また「播磨沖」については、京阪神から遠いことが最大の難点となってはずされた。「淡路島」は陸上空港で建設に当たっては自然の破壊が著しく、騒音被害も起こるとして、すでに二月の衆議院運輸委員会で候補地からはずされていた。新国際空港の位置は泉州沖が最有力とする試案は、七月一七日の航空審議会の関西国際空港部会に提示され、答申案として決定された。
 「規模及び位置」についての答申案は次のとおりである。


  「関西国際空港は、大阪国際空港の廃止を前提とし、その位置を大阪湾南東部の泉州沖の海上とし、当面
 その規模を海上の国際空港として最小の単位となる長さ四〇〇〇bの滑走路一組(少なくとも三〇〇bを隔
 てた二本の平行な滑走路)に、長き三二〇〇b以上の補助の滑走路一本を加えたものとすることが望ましい。
 ただし空港の正確な位置は、現地を詳細に調査したうえで決定されるべきである」


 この答申案がまとまったことで、関西新国際空港構想は、ひとつの具体的な計画案としてまとまった。


正式答申と第二空港計画  正式の答申は、四九年八月一三日、航空審議会から運輸大臣に提出された。この日、航空審議会は第三二回総会を開いたが、これに先立ち答申案の作成に当たっていた関西国際空港部会の第二九回部会が開かれ、最終的な意見調整が行われた。このあと、答申案を総会にはかり、正式に航空審議会答申として採用することを了承し、運輸大臣に答申書が手渡された。答申には、新空港を建設・管理する組織に地域社会の代表者も参加出来るように求めた建議書も添えられた。
 四六年一〇月に諮問を受けてから二年一〇カ月。関西新空港問題は、これで航空審議会の手を離れ、運輸省による具体的な建設プランの作成、地元に対する説明という新しい局面を迎えることになった。
騒音、大気汚染など、新空港の建設によって予想される公害問題については「海上空港は、航空機の運航に伴う環境破壊をなくし、新たに生じる環境への影響を最小限にするものと確信する」と結論づけている。特に騒音については「陸岸から五`程度雑さなくても環境基準に適合するが、本審議会はなるべく余裕があるほうがよいと考え、五`程度離すこととした」と新空港が沖合五`に建設されれば、航空公害は避けられることを示唆している。
なお、新国際空港の建設予定地が泉州沖に決定したことについて、宮崎辰雄神戸市長は答申案が決まった七月の段階で次のようなコメントをしている。


  「関西新国際空港について、三年にわたり審議が続けられて泉州沖の答申案が有力となったが、あくまで
 も新空港は公害がないことと住民の理解と協力が得られることが必要である。内容を詳細に検討し、騒音な
 どの公害がないかどうかを含めて、神戸市民を守る立場から神戸市の受ける影響などについて慎重に検討し
 ていきたい」


 一方、神戸沖建設を推進してきた神戸経済界にとっては「泉州沖単独答申となったことはまことに残念」(砂野仁神戸商工会議所会頭)と不満の色が強かった。このため、神戸財界は、一〇月二二日、泉州沖に建設予定の関西新国際空港の補助空港として、第二空港を神戸地区に誘致する構想を固めた。
 この第二空港構想を打ち出した理由は@泉州沖新空港建設は、現在の大阪国際空港(伊丹)の廃止が前提となっているA新空港の規模では年間の離着陸処理能力は一五万回。しかし、新空港の完成が一〇年⊥五年後とみられるため、この間の航空便増加で、一五万回の処理能力ではさばききれない、などをあげている。神戸財界としては、これまで関西新国際空港の候補地として神戸のポートアイランド沖を主張してきたが、泉州沖に決定したことで、それに代わる神戸地区の航空ネットワークを確保するため、補助空港としての空港誘致を図ることになった。
 この計画は、二月六日に京都で開かれた京阪神三商工会議所懇談会に提案し、大阪、京都両商工会議所に協力を要請する予定だったが、懇談会の話し合いでは、泉州沖の新空港建設地や神戸商工会議所の提唱している第二空港についてはいっさい触れず「新空港に協力する」という抽象論に終わった。
 大阪・京都とも第二空港の必要性はある程度認めてはいるものの、泉州沖新空港の答申が出たばかりの段階で第二空港が話題になることによる泉州沖新空港建設への影響を危惧した結果だった。


第五節 構想投階から具体化へ


神戸市の動き一歩後退 「関西新空港は泉州沖が最適」との答申が出されるに及んで、神戸市は運輸省の具体的な動きや同省と大阪・泉州地区との交渉に関しても直接の当事者でなくなり、五〇年から五三年にかけて市も市会としても目立った動きはみられない。神戸経済界でも「答申が出ている以上、それを尊重するのが筋」との考え方が大勢を占めていた。
 五〇年六月一九日、前年の八月に出された答申の裏付けとなる関係資料が航空審議会の関西空港部会から木村睦男運輸大臣に提出され、同部会の審議はこれですべてが終了した。
 木村運輸大臣は、答申とこの資料を基に兵庫、大阪、和歌山の関係府県と協議に入ることになり、ここに来て関西新空港は構想の段階から具体的な建設へ向け動き出すことになった。
 報告された関係資料は、六分冊と付図の計七部で、審議事項として、空港の必要性、候補地の自然条件、騒音、大気汚染、海洋への影響、建設工法、アクセス交通、候補地比較表など一六項目を一五〇〇ページにまとめている。成田空港開港に際しての反省にたって「審議の全容を明らかにし、地域社会の協力を得る必要がある」として公開に至った。
 この資料公開に関しては、五〇年七月二三日の総務財政委員会で鈴木啓吾企画局長から内容について概略説明が行われている。
 この投階に入って木村運輸大臣は、関西新空港の建設計画推進のため七月二三日、兵庫県庁に坂井時忠知事を訪ね、空港の泉州沖設置について理解と協力を求め、県側も一応の了解を示した。この地元府県と大臣との協議で、運輸省の青写真策定の段階から、兵庫など三府県を中心とした地元自治体、住民レベルでの検討を促す具体性をもった建設計画となってきていた。
 なお、泉州沖に建設が決定した関西国際空港は、六二年一月建設着工、空港島の護岸工事が始められ、平成六年九月四日午前零時、成田空港と並ぶ日本を代表する空の玄関として開港した。

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