天候不順による野菜の値上がりで、安価で価格変動の少ないもやしの売れ行きが好調だ。だが、もやし業者は手放しでは喜べない状況に陥っている。生産能力に限界がある上、現在主流のもやしの種となる「緑豆」はほぼ輸入に頼っており、主力の中国産が高騰しているためだ。もやし業者の全国団体である「全日本豆萌工業組合連合会」は「売れるのはありがたいが、このままでは経営が圧迫され、安定供給に支障をきたす可能性がある」と悲鳴を上げている。
1袋30~50円と安価なもやしは、野菜が高騰した4月下旬以降、消費者の味方として引っ張りだこだ。関西スーパーマーケット福島店(大阪市福島区)では300袋が完売した日もあるといい、売り場担当者は「はずせない商品」と話す。
一方で生産者の表情は明るくない。最大手の成田食品(福島県相馬市)によると、近畿向けなどのもやしを生産する岐阜工場(岐阜県大垣市)の4月下旬の出荷は通常の3~4割増と好調だったが、「生産能力には限界がある」と困惑する。また、あるもやし業者は「売れても、実はほとんど利益にならない」と漏らす。
緑豆は9割が中国からの輸入で、09年秋に収穫された緑豆の取引価格が08年産より約6~7割高と高騰した。主産地の吉林省や内蒙古自治区などが干ばつに見舞われたことや、中国国内での緑豆を使った加工食品や漢方薬としての需要の高まりが原因とされ、業者は緑豆を確保するのに苦労している。
全日本豆萌工業組合連合会によると、仮に10年度産が豊作になっても、中国を中心に需要が旺盛で、価格の大幅な下落は期待できないという。もやしは特売で1袋10~20円になることもある。デフレの現状では、コスト上昇分の価格転嫁は困難で、同連合会は「このままでは生産者がもたない」と危機感をあらわにしている。【植田憲尚】
毎日新聞 2010年5月8日 大阪夕刊