実録 若者たちの変なセックス「性の氷河期」がやって来た!前編 面倒くさい、触れるのがイヤ、「大人のおもちゃ」でないと楽しめない... 本誌・小宮山明希

 ここで再び冒頭のデータに話を戻そう。

 日本性教育協会の金子成男事務局長は、若者の「性への関心」が衰え始めたタイミングに注目する。

「99年には各家庭にパソコンが普及し、学生が携帯電話を持ちだした。実はこのころから、パソコンや携帯電話を頻繁に利用する若者の間で、性行動が"二極化"し始めました」

 同協会の調査員、山口大学の高橋征仁准教授も調査の報告書のなかで、

〈言語を異にする二つの民族のように、まったく別々の社会的存在といえる〉

 と分析。「携帯派」の性行動が積極的でおおらかな傾向なのに対し、「パソコン派」は奥手で性行動も疑似的なものに対象が向く傾向があるとしている。

 そこで「パソコン派」の男性に話を聞いてみた。

 1日10時間以上、パソコンに向かうという自称「引きこもり」男性(25)だ。

「インターネットのエロサイトが悪影響だって言われますが、そうじゃない。卑猥な画像なんて昔からあったでしょう? それより、自分の失敗談や、セックスの話をディープに語る人たちがインターネット上にはいる。そんな人たちのドロドロした部分を見ると、自分が成功するのかって、日和っちゃうんですよ」

 これに対し、金子氏はこう話す。

「昔は身近にナマのお手本がありました。たとえば、近所のおばさんに『あなたのお兄さん、あの女性が通るたびに赤くなるわね』なんて声をかけられる。そんなふうに、子どもでも、身近な恋愛のプロセスを、なんとなく知れたんです」

 コミュニケーションの分野では、家族や地域との結びつきが希薄になったとされて久しい。実際、日本性教育協会の調査によると、「男女交際についての性情報源」は、中、高、大学生ともに「友人」が1位。

「そんな狭い環境の一方で、携帯やパソコンを使えば、簡単に視野を広げられます。それらには、極端な情報しか載っていませんが、ナマのお手本がない彼らは信じてしまう」(金子氏)

 これらはまだ問題の一面に過ぎない。恋人がいながら、相手の肌に触れようともしない人もいる。

 都内在住のフリーターの女性(24)は4年前、3歳上の男性に告白され、交際を始めた。男性はいたって健康で、毎日のようにデートに誘ってくれたという。

「ただ、彼はセックスはもちろん、体に触れようとしない。キスは月1回、唇が触れるか触れないか程度。ある日、思い切って、『私としたくないの?』って聞いたら、『結婚する前にするのはよくない。僕はマスターベーションで我慢するから』って言うんです」

 女性は泣きながら「関係を持ちたい」と訴えたが、男性は唖然とした表情でこう言ったという。

「そんな、ふしだらな人だったとは......」

 女性はその日のうちに、別れを告げられたという。

 なぜ、相手と向き合うことを拒む若者が増えているのか。多くの若者の生態を描いてきた作家の石田衣良氏は、こう指摘する。

「現在、24歳以下の若者の半分が非正規雇用のアルバイター。そんな社会で、『この国は1回負けたら終わりだよ』と口癖のように親に言われてきた子どもたちは、『負ける』ことにものすごく臆病になっていると思います。人間は社会や景気に非常に影響を受けます。エコロジーが盛んで、親や社会が保守化した今の社会では、性も抑えられてしまうんです。そうすると、自分の中だけで欲望が肥大し、現実で満たすことはできなくなる。だから、相手を求めず、自分ひとりで問題を解決しちゃうんですよ」

 セックスも受験のようにとらえてしまっていると言う石田氏。加えて、注目するのが若者に広がる"純愛ブーム"だという。

「今の子は、『純愛がいい』って言うけど、それはネットや携帯小説の影響。情報に縛られていなかった以前では、自分の体の声や好奇心にもっと素直に対応できていたように思います」

 前出の金子氏も、

「女子が純愛志向になってきた」

 と指摘する。女子高生の性行為の経験率が年々高まる一方で、「愛情がなくてもセックスをすること」に関して「よくない」と否定する女子高生の割合が突出しているというのだ。

 記者は10代の子どもを持つ親25人に「性に関心のない若者をどう思うか」と聞いてみた。結果は20人が「いい傾向」と回答。多くの理由は、

「まだ子どもなんだから、興味がないほうが正常」

 というものだった。

 だが、石田氏はこう警告するのだ。

「あるナンパ師が言っていましたよ。『いまの女の子は"純愛"って言うと、すぐセックスさせる』って。"純愛"の裏には必ず『出会い系サイト』があると思ったほうがいい。はっきり言って、そういう親の子が"狩り場"になるのです」

"純愛"という言葉が、まるで免罪符のように使われているというわけだ。

「自分や相手の中にある欲望を認め、育ててあげる気持ちがないと、どんどん異性やパートナーを排除するようになるでしょう。傷つくのが怖いのはわかるけど、人間に対する優しさや想像力は、相手がいないと養われません」(石田氏)

 地球上で氷河期が終息したとされるのが約1万年前。凍りついた若者の性を溶かすのは、いったい何なのだろうか。

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