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松ヤニなどが固まった琥珀(こはく)には、まれに虫を閉じ込めたものがある。そんな写真集を繰りつつ、2匹のアリが連なる一枚に出会った。後ろのが前の尻をくわえている。数千万年の昔、樹脂に足を取られた仲間を救おうとして巻き添えになったらしい▼抜け出そうと足を切るカトンボ、交尾中のハエなど、音もなく垂れる粘液に捕まった虫は多い。「その時」を止めて伝える化石は天然の保管材。見つけた時の感激は大きかろう▼おととい、東京の小平市立小平第三小でタイムカプセルが開いた。開校100周年の1980年に校庭に埋めた「あの頃」が掘り出され、大同窓会である。同じ校歌を熱唱する親子に、流れた時を思った▼作文には、おはじきやあやとりが「私たちの遊び」と紹介されていた。息が長いのはドラえもんで、皆が描いている。長くは残らないと案じたか、「テレビでやってる人気マンガです」との注釈もある▼実行委員長の武俣(たけまた)建太さん(41)は「30年先など想像もできず、まさにドラえもんの世界でした」という。武俣さんら6年生は林間学校の思い出を版画にした。パジャマの女子3人が布団に寝転び、写真に納まる画があった。作者は、案内状の届かぬ世界に去ったという。歳月は時に悲しい▼大阪万博の後、同じ中身のカプセル2個が埋められた。一つは毎世紀末に開けては戻し、一つは万博の5千年後まで触らない。それはそれで夢だが、通常の「賞味期限」はまあ50年、やはり当事者が開けてこそだと思った。埋もれたままの琥珀は、何も語らない。