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社説:首相の沖縄訪問 今さら「県内移設」では

 鳩山由紀夫首相の就任後初の沖縄訪問は極めて厳しいものだった。住民との対話集会や首相を迎える沿道では怒声も飛んだ。首相への県民の不信はますます深まっている。

 首相は、仲井真弘多沖縄県知事、高嶺善伸県議会議長、稲嶺進名護市長らと相次いで会談し、米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)の移設問題について話し合った。

 「すべて県外に(移設)というのは現実問題として難しい。沖縄の皆さんにご負担をお願いしなければならない」「沖縄にも、徳之島にも、普天間移設で負担をお願いできないかとおわびしてまわっている」。これが、県外移設を求める沖縄県民への首相の回答だった。

 昨年の衆院選で「最低でも県外」と主張し、国会などで「県外」を繰り返したのとは大きな違いだ。県内移設の方針を明言したのは初めてであり、「県外」白旗宣言だ。

 政府は、米軍キャンプ・シュワブ沿岸部(名護市辺野古)に「くい打ち桟橋(QIP)方式」で飛行場を建設し、鹿児島県・徳之島に普天間の航空部隊か訓練の一部を移転するという案で最終調整している。発言は、これを事実上認めたものだ。

 仲井真知事は、普天間の危険性の早期除去とともに県外移設の努力をさらに求め、稲嶺市長は辺野古への移設受け入れを明確に拒否した。自ら設けた「5月末決着」を目前にした首相の方針転換を、沖縄県民の多くは背信と受け止めており、「首相のおわび」と県内移設をすんなり受け入れる環境はない。

 鳩山首相は、先月21日の党首討論で、移設先の検討にあたって、移設先地元よりも米政府との協議を優先させる意向を明らかにした。日米合意の現行案を修正したQIP方式による「辺野古回帰」案が浮上したのはその前後である。

 現行案にこだわる米側の意向に配慮して「辺野古の海」への基地建設に回帰し、米政府と一緒になって基地の県内たらい回しを押しつける--首相発言は沖縄県民にそう映っているに違いない。「移設先は辺野古以外に」という昨年12月の首相の言葉もほごになった。

 首相は7日に、もう一つの移転先に想定している徳之島の3町長と会談し、受け入れを要請する予定だ。しかし、3町長は拒否の姿勢を明確にしており、こちらも展望が開けていない。

 今回の沖縄訪問で「5月末決着」が極めて困難であることが改めて明らかになった。普天間飛行場の継続使用という最悪の事態が現実味を増している。5月末決着に「職を賭す」と明言した首相の言葉は重い。実現できなければ、首相の政治責任が厳しく問われることは免れない。

毎日新聞 2010年5月5日 東京朝刊

 

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