小選挙区による二大政党制など、日本の政界がお手本にしてきた英国の政治に地殻変動が起きた。
ブラウン首相が率いる与党、労働党が敗れ、最大野党である保守党が第1党の座を奪取した。
けれど、事情は複雑だ。保守党は今回、下院の過半数を制することができなかったからだ。
英国では第2次大戦後、労働党と保守党が政権交代を繰り返してきた。選挙に勝った政党が過半数の議席を獲得できなかったのは36年ぶりである。
選挙前は躍進が予想されていた野党第2党の自民党も、議席を伸ばすことができなかった。
二大政党制が転機を迎えた、との見方が出ている。日本も無関心ではいられない。
なぜ、このような結果になったのか−。
英国は、膨らみ続ける財政赤字や経済の停滞に悩まされ、格差問題が深刻化している。イラク戦争以降の米国支持の外交政策も世論を二分した。なのに、各党は民意の受け皿となり得ず、熱心な支持者を失うことになった。
手厚い社会保障政策を身上としてきた労働党はブレア前首相以降、社会主義的でも保守でもない中道色を強めていった。
徹底した公営企業の民営化などで「鉄の女」と称されたサッチャー元首相の保守党も、キャメロン党首が就任してから中道路線を志向するようになった。
各党の政策の違いがあいまいになる中、保守党に勝利を呼び込んだ要因は、政策への積極的な支持ではない。経済対策などで成果を出せなかった労働党への嫌気や、リベラル色が強い自民党への警戒感が、結果的に保守党に有利に働いた、とみた方がいい。
背景には、無党派層の増大や政治不信がある。政治課題も政治を取り巻く環境も、日本と似通っていることに注意したい。
さらに、“死に票”が多いため、民意が議席に反映されにくい小選挙区制の問題点もあらためて浮上した。場合によっては見直しの動きが出るかもしれない。日本としては目が離せない問題だ。
英国では、過半数に達した党がない今回のような状況を「中ぶらりん議会」と呼んでいる。心配なのは、財政危機の克服が急務の中、基盤の弱い政権が誕生することだ。必要な政策を迅速に遂行できなくなる恐れがある。
混迷を深める世界経済の安定のためにもしっかりした政権を、というのが各国の本音だろう。