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社説:憲法記念日に考える 「安保」の将来含め論憲を

 今、鳩山由紀夫首相は「普天間問題」で窮地に立っている。直接のきっかけは、いうまでもなく政権の稚拙な対応である。沖縄県民の失望と怒りは増し、首相が約束した5月末決着は難しい。日米間の信頼関係も大きく損ねかねない状況だ。

 だが一方で考えるべきことは多い。沖縄は太平洋戦争末期、米軍との激戦で多くの犠牲者を出した。米軍は戦後、「銃剣とブルドーザー」で基地を拡大した。本土復帰後38年になるが、在日米軍基地の4分の3が集中したままだ。怒りのマグマはきっかけさえあればいつでも噴出する状態だった。沖縄の過剰な基地負担の軽減が緊急課題であることを改めて示したのも今回の事態だ。

 ◇米国が作った枠組み

 憲法記念日に憲法と日米安保について考えてみたい。憲法の英語に当たるconstitutionはいわゆる憲法とともに「国のかたち」を示す。

 まず戦後日本の枠組みを作った米国との関係を振り返ってみよう。

 1945年9月2日、日本が太平洋戦争の降伏文書に調印した米戦艦ミズーリにはペリーが黒船で使用した米国旗が掲げられていた。州を示す星の数から31星旗と呼ばれる。幕末に日本開国をもたらしたペリーの砲艦外交は米国の成功体験であり、その旗を持ち出したのはいかにもマッカーサー(連合国軍最高司令官)らしい演出だった。

 日本を占領した米軍はこのあと絶大な権力を振るって大改革を行ったが、日本側には「第二の開国」という肯定的な言葉が生まれた。戦争で疲弊した日本人の多くが新憲法を含む占領改革を歓迎したのである。

 日本の講和は米ソ冷戦の激化、特に朝鮮戦争に大きく影響された。51年に日本は憲法9条の非武装条項を維持しつつ講和条約と安保条約を一体のものとして受け入れ、翌年独立を回復した。米軍の駐留継続は日本側の要望でもあった。交渉を担ったジョン・F・ダレスは講和直後の論文で「日本を太平洋地域の集団安全保障体制の一員として積極的に関与させる必要が生じた」と説明した。朝鮮戦争に出撃する米軍の後方基地との位置付けだったが、国際情勢を考えれば不可避だったろう。これに対し革新勢力を中心に「対米従属」との批判が強まり、戦後政治の最大の対立軸となった。

 結果的に国民の支持を得たのは吉田茂首相を起点とする軽武装経済重視のいわゆる保守本流路線だった。憲法と日米安保を車の両輪として「国のかたち」を形成してきた。両者は理念として矛盾するようだが、「軍事」の部分を安保条約が補完することで憲法9条が維持されたともいえる。

 だが、歴代政権が日米安保の現実を率直に語ってきたとはいえない。例えば在日米軍基地の存在理由について、特に沖縄への基地集中について、日本の防衛以外の要素をていねいに説明してきただろうか。核の傘と非核三原則の関係についても真剣に説明してきたとはいえない。

 岡田克也外相が進めた日米密約の検証作業では、米艦船による核持ち込みにからむ「広義の密約」の存在を指摘した。世論の反発を避けるためだったというが、これも安保の現実を語ってこなかった一例だ。

 ◇沖縄の負担軽減は急務

 憲法と日米安保について、事実に即した率直な議論をしてこなかったことのツケは大きい。今こそ隠し立てのない誠実な議論を積み上げるときであろう。最近の各種世論調査では日米安保の継続を支持する人は多数となっており議論の素地はできている。アジア太平洋地域の安全保障の仕組みを日米同盟を軸として構想することも必要になるだろう。憲法の平和主義を堅持しつつ、具体的にどのような条文や解釈が最適かも真剣に考えなければならない。

 私たちは日米同盟と、世界の平和と繁栄のための日米共同作業を支持している。しかし、冷戦後の国際・国内情勢の変化は激しい。1996年の日米安保共同宣言が「アジア太平洋地域安定のための公共財」とする「再定義」などで当面しのいできたが、今秋予定されるオバマ米大統領来日を機に、まさに「再々定義」が必要になっている。

 「普天間」が示すように、沖縄の過剰な負担を放置していては日米同盟が維持できなくなる可能性がある。「再々定義」の機会に、在日米軍基地の配置や負担についても、日本側の意向を米国側に率直に示し、将来に向けた負担軽減のビジョンを作る作業を始めるべきだろう。

 私たちはかねて「論憲」を主張してきた。現憲法の掲げる基本価値を支持しつつ、現状に合わせたよりよい憲法を求めて議論を深めようとする立場である。

 今月18日に憲法改正の手続きを定めた国民投票法が施行される。本社世論調査によれば、憲法改正の動きが進むことを「期待する」50%、「期待しない」48%という拮抗(きっこう)する結果だった。改憲を急ぐというより、どのような改憲が必要になるかを慎重に論議しようという世論と見ていいのではないか。21世紀の日本の「国のかたち」を練る「論憲」を進めるときである。

毎日新聞 2010年5月3日 東京朝刊

 

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