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社説:普天間移設 筋通らぬ「辺野古」回帰

 「最低でも県外」と主張していた鳩山由紀夫首相はいつ、沖縄の「辺野古の海」に基地を建設する考えに転じたのだろうか。理解に苦しむ。

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題で、政府は、(1)米軍キャンプ・シュワブ沿岸部(同県名護市辺野古)に「くい打ち桟橋(QIP)方式」で滑走路を建設する(2)鹿児島県・徳之島に普天間の航空部隊のうち最大1000人を移転する、または訓練を移す--を柱にした案で最終調整しているとされる。

 QIPは多数の支柱を海底に打ち込み、その上に滑走路などの構造物を建設する工法である。日米合意の現行案である「埋め立て方式」に比べて環境に与える影響は少ない、と政府関係者は主張している。

 しかし、そうであっても、現行案と同じ辺野古の海に滑走路をつくるというのは明らかに首相の「約束」に反する。首相が国会などで繰り返し強調してきた「県外」とは相いれない。「9万人県民大会」で国外・県外移設を決議した沖縄、特に名護市が受け入れるとは到底思えない。

 QIP方式も、滑走路による日照の遮断と数千本の支柱で、海洋生物や環境に与える影響は大きいという指摘がある。海の埋め立てを「自然への冒とく」と述べた首相が一転、QIPを容認したとすれば、真意を測りかねる。この工法は、かつて日米間で検討されたが、テロ対策の難しさや費用面などから排除された案だ。辺野古を前提にした現行案にこだわる米国側を協議のテーブルにつかせるために考えついた案ではないか、と勘ぐられても仕方ない。

 首相は4日に就任後初めて沖縄県入りし、仲井真弘多知事と普天間問題について話し合う。移設先の「辺野古回帰」が首相自身の案なのかどうかが焦点になる。首相は知事だけでなく沖縄県民、国民に対しても納得のいく説明をしてもらいたい。

 一方、徳之島への一部移転については、首相は先月28日、同島出身の有力者である徳田虎雄元衆院議員に協力を要請したが拒否された。同島の3町長は受け入れ拒否の姿勢を崩さず、米政府も部隊運用上の理由から強い難色を示し、暗礁に乗り上げたままだ。

 徳之島は戦後、本土と分離され1953年まで米軍政下に置かれるなど複雑な歴史を持つ。徳田氏は首相にこの経緯を指摘した。「県外」の主力として徳之島への移転を検討するにあたっては、こうした島民感情を考慮しなければならないのは当然だろう。

 残り1カ月。首相は「5月末決着」に「職を賭す覚悟」を明言している。決着には移設先地元の合意が不可欠だ。沖縄訪問時には、その覚悟の中身を示してもらいたい。

毎日新聞 2010年5月1日 東京朝刊

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