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「今スタートさせないと、10年後の成功はない」――日経が有料電子新聞に挑む理由

2月25日10時50分配信 Business Media 誠

「今スタートさせないと、10年後の成功はない」――日経が有料電子新聞に挑む理由
日本経済新聞 電子版。朝夕刊は紙面イメージをそのまま表示した画面と、PCで読みやすいようにレイアウトした画面の2種類で見ることができる
 日本経済新聞社は2月24日、インターネット上の新聞「日本経済新聞 電子版(Web刊)」を3月23日に創刊すると発表した。

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 日本経済新聞朝夕刊の記事全文だけでなく、最新ニュースや日経グループ各社が提供するデータやコラム、提携する英Financial Timesなども読めるというもの。購読料を支払う「有料会員」と会員登録だけする「登録会員」、それ以外の「一般読者」で利用できる機能に差がある。購読料は月4000円(日経新聞の定期購読者はプラス月1000円)で、登録受付は3月1日から。

 メディアの雄、日本経済新聞社はWebの有料モデルにどのような思いで踏み出すのか。喜多恒雄社長の会見と質疑応答の模様を詳しくお伝えする。【堀内彰宏】

●「今スタートさせないと、10年後の成功はない」

喜多 3月23日に創刊する日本経済新聞電子版は、誰でも読める無料部分と、購読料をいただく有料部分とを組み合わせた言わばハイブリッドなニュースサイトです。NIKKEI NETでこれまで積み上げてきた(経験を背景にした)、競争力のあるコンテンツと技術革新を生かしたさまざまな新しい機能を盛り込んだオンライン記事提供サービスと言えます。

 「なぜ今、私たちが電子版を出すか」ということについて少し説明させていただきます。みなさんご存じの通り、インターネットが普及して、PCや携帯電話に世界中から膨大な情報が集まってくる巨大なネット社会が今誕生しています。日々の暮らしは大変便利になりました。その中で特に若い世代を中心に、紙の新聞を読む代わりに、ネットで情報を手に入れる人が増えているという現実があります。

 ただ、ネットの恩恵はできる限り生かすべきですが、その情報が本当のものなのか、発信源はどこなのか、誰か事実を確認したのか……といったことが、情報の洪水の中で分かりにくくなっているという側面もあると思います。「そういった方々にも紙の新聞でつちかってきた正しい報道、価値のある言論を伝えていかなければならない。それが報道機関の使命である」と私たちは思っています。「紙の新聞を手にとって広げるより、PCや携帯電話などデジタル機器(で情報を得ること)に慣れ親しんだ方々にも良質のジャーナリズムを提供することが私たちに課せられた役割だ」と考えています。

 そして私たちの読者の間では、「自分の仕事に役立つ経済情報はできるだけ早く手に入れたい」「自分の好きなテーマの記事は必ず読みたい」といった、いわば自分に合わせた情報を求める方々がかつてなく増えています。電子版を創刊するに当たり、私たちはデジタル技術を生かして、読者の方々が情報をより見やすく、また使いやすく加工して利用できるよう工夫を凝らしました。「読者ニーズにできるだけ細かく応えていくのも報道機関の1つの役割ではないか」と考えています。

 この電子版を創刊するに当たってはもう1つ、経営上の判断もあります。紙の新聞は今後も続くと考えていますが、「将来、大きな成長を期待するのは難しい」というのは残念ながら現実ではないかと思っています。その中で良質な報道を確保するための経営基盤を強くしていくにはどうすればいいのか。そのためにはこれから成長していくデジタル分野を強化し、そこで収益をあげていくことが不可欠ではないか、と考えています。そのデジタル分野での成長の中核にしたいと思っているのが、今回創刊する電子版になります。

 電子版の価格は(紙の)日本経済新聞を購読をしている方々には新聞の購読料に月1000円を加えた額、電子版単独でお読みいただく方は月4000円としました。創刊は3月23日で、3月1日から会員登録の受付を始めたいと思います。新しい電子版でも現在のNIKKEI NETと同様に、無料で提供する情報があります。しかし、「本当に価値があると私たちが判断した情報や機能にはそれにふさわしい対価をいただきたい。良質なコンテンツはタダではない」というのが我々の感覚で、「ネット上の情報は無料である」というこれまでの観念と違う考え方で取り組んでいきたいと思っています。

 大切なのは、「我々にとって紙の新聞はこれまでも、そしてこれからも最も重要な柱である。そこは変わらない」ということです。過去、日経は印刷工場から鉛の活字をなくして、コンピュータで紙面レイアウトを組む、といった先進的な取り組みを常にやってきています。今回の電子版も先端技術を駆使して、より読みやすく使いやすく情報を提供するという点で、我々の伝統が生きていると考えています。

 家庭で新聞は、いつも手を伸ばせば届く身近な存在でした。時代が変わって、PCや携帯電話などのデジタル機器が同じように身近な存在になれば、「そうしたツールを使って確かな情報を届け続けたい」と思っています。例えば、朝は日経の朝刊を手にして、通勤の時は携帯電話で記事の続きを読む、会社ではPCで気になるニュースをチェックという形です。電子版は紙と合わせて購読していただくことで、良さが一段と分かっていただけると思っています。「紙と電子版は共存関係を作れる」と確信しています。世の中のニーズをくみ上げて、電子版のサービス機能に磨きをかけ、紙の新聞に続く事業の柱に育てていきたいと考えています。

 新聞界は今、大変厳しい経営環境のもとにありますが、本日の電子版の発表で「我々は新たなステージに入る」と認識しています。この電子版が簡単に成功するとは思っていません。成功するまで5年、10年かかるかもしれません。ただ、「今スタートさせないと、10年後の成功はない」ということは確かだと思っています。欧米のメディアはすでにさまざまな分野に挑戦しています。我々もこの電子版を機にさまざまな分野へ挑戦していきたいと思っています。

 最後に、この電子版事業に当たり、我々は基本的なものの考え方として“オープン”ということを考えました。オープンにはさまざまな意味があると思うのですが、まず、この電子版を見る媒体についてはPCや携帯電話だけではなく、さまざまなデバイスを取り入れていきたい。これからデジタル分野では、次から次へと新しいデバイスが開発されると思います。メーカーが開発するケースもあれば、それ以外のところが開発するというケースもあると思いますが、そういう方々から「一緒に電子版をやりませんか」というお声がかかれば、我々は「この電子版と親和性がある限り前向きに取り組んでいきたい」と基本的に考えています。

 日本の新聞界でこれだけ大掛かりに電子版に挑戦するというのは、多分私たちが最初だと思います。基本的には我々がこの電子版で成功すれば、同業他社の新聞社のみなさんが同じような事業に取り組みたいとおっしゃる時には、これまでつちかってきたノウハウやシステムについてオープンにして、一緒に相談しながらやっていくという考え方を持っています。

●紙に影響を与えないことを前提に価格を決定

 質疑応答では喜多恒雄社長、小孫茂東京本社編集局長、岡田直敏電子新聞事業担当の3人が登場。電子版の値付けの背景や、広告戦略、今後の方向性などについての質問に答えた。

――どのような観点から値段を決めたのでしょうか?

喜多 「紙の新聞の部数に影響に与えない」ということを前提に、その範囲内で価格を模索しました。

――有料会員になる場合の契約期間にはどういったバリエーションがありますか。また、長期割引といったものはお考えですか?

岡田 契約期間については“何カ月”というのは設定していません。月4000円、あるいは日経をとっている人であればプラス月1000円という形で毎月更新していくという形です。従って、現時点では長期割引も考えていません。

――日経新聞購読者はプラス月1000円で、購読者以外は月4000円ということですが、これは68ルール(新聞販売における景品提供のルール、参照リンク)に抵触しないのかどうか教えてください。

岡田 68ルールというのは新聞の景品に関する姿勢のお話だと思いますが、これはそういうものには当たらないと思っています。そもそも電子版というのは新聞とは別の価格体系で売り出している別個の商品ですので、新聞の景品ではありません。したがって、新聞の景品を前提にした68ルールといったものの対象にもならないと考えています。

――日経新聞の購読者はプラス月1000円でとれるわけですが、その認証はどのように行うのでしょうか?

岡田 日経新聞の読者で電子版を購読されたいという方には、PC上で名前や性別、住所と同時にクレジットカード番号を打ち込んでいただきます。その際に、「あなたは日経をお読みになっていますか?」とお聞きします。そうすると「どこの販売店で日経をとっているか」が把握できるので、日経新聞の購読料と電子版の代金を合わせてクレジットカードで支払っていただくという形をとろうと思っています。

 販売店には私たちから購読料の分の代金をお渡しするという形で、代金回収の代行をするということにもなりますが、紙と電子版の分を合わせてクレジットカードで払っていただくことで、日経新聞を購読していただいている人だということが確実に把握できるという仕組みです。

――朝刊と夕刊の紙面イメージを読めるのは何時からですか。

岡田 紙面イメージがご覧いただけるのは朝刊は4時で、夕刊は15時半と設定しています。その時間になれば全世界どこでも日経の最終版がご覧いただけます。

――日本経済新聞電子版とあるのですが、これは再販制度でいう新聞に当たるのでしょうか?

岡田 いわゆる再販制度の対象にはならないと考えています。そもそも再販制度というのは、デジタルのこういったサービスを想定していません。それから、日本経済新聞電子版は直販商品なので、再販には当たらないと考えています。

●紙の310万部という発行部数は維持できる

――無料登録会員や有料会員の数値目標を教えてください。

岡田 「いつまでに何部」といった目標は、対外的には掲げない形で進めたいと思っています。この電子版は「うまくいかなければやめる」といったものではなくて、「これから新聞事業の大きな柱になってくるものだ」ということでじっくり育てていくメディアだと考えていますので、「何年までにいくら」というものはあえて設定しないということです。

 ただ、日本経済新聞は紙で300万部出しているので、1つの目安として例えばその1割の30万部をできるだけ早い時期に達成したいというような思いは持っています。それから、無料登録会員と有料会員を含めた読者登録をしていただいた方々を私たちは日経IDと呼んでいますが、早期に50万IDは達成したいと思っています。早めに100万IDに乗せれば、読者サービスの向上につながりますし、ネットを通じた新しいネットビジネスを展開できる基礎になるのではないかと考えています。

――いつごろ黒字化したいとか、紙と電子版の契約者数がいつごろ逆転するといったことを想定していますか?

岡田 具体的にどうなるという計画や目標は設定していません。できるだけ早く黒字にしたいとは考えていますが、「いつなのか」については始めてみないと分からないところもありますので、「できるだけ早期に」とご理解いただければと思います。

――紙の部数に影響が少ない価格設定というお話がありましたが、紙の部数はこれからどのようになっていくとお考えでしょうか?

喜多 紙の日本経済新聞の部数は310万部くらいなのですが、これを維持していけると考えています。もちろん少子高齢化が進んでいって、5〜10年後に「維持できますか」と言われてもこうですとは言えませんが、我々はこの310万部という今の発行部数を当面維持していくと考えているし、努力して維持できるものだと考えています。

●新聞とデジタルは共存できる

――紙の日経新聞にあって、電子版の日経新聞にないものが、たぶんなくなると思うのですが、紙の魅力が高まるような投資をする予定はありますか?

喜多 紙はものすごく持ち運びが便利で、一覧性もあるという意味で、紙には紙の良さといったものがあります。それから、これは人間の感性の問題ですが、紙の媒体で活字を見た方が読みやすいという人もたくさんいらっしゃると思います。そういう意味で、新聞とデジタルは共存できるのではないかと思っています。

 紙の新聞についてこれからどういうことをやっていくんだというのは、デジタルもそうですが、読者ニーズに応えた形での紙面改革、それから新しいコラムを作るといったことは不断なくこれまで通り継続していきたい。紙でもデジタルでもそうなのですが、コンテンツのクオリティが高くなければやはり読者には魅力あるものとみられない。「コンテンツのクオリティを高める」という意味では紙もデジタルも両方やっていきたい。それにどういう形の投資が必要かは分かりませんが、投資が必要なら投資して、あるいは海外の媒体やグループの媒体と協力してやるということを考えています。

――電子版で24時間編集体制になると、どのような変更があるのでしょうか?

小孫 主要紙は全部そうだと思うのですが、特に日本経済新聞の場合はグローバルに刻々変わっていくマーケット情報を24時間読者にお届けするということが1つの柱です。そのため、1980年代後半からすでに24時間体制で、東京が眠っている時にはロンドンやニューヨークが稼働して、東京に原稿を送ってくるというパターンになっていたので、そういう意味ではこれまでも24時間体制で、過重負担のないような体制を敷いてきました。

 今回の電子版では、東京で私たちが眠っている間に海外で大きなニュースが発生して、朝刊の締め切りが過ぎているという場合でも、そのニュースが電子版のトップに入るということがあります。その作業をするためのデスクが交代で24時間体制を敷くことになると思います。日経の一般の記者が24時間働くということではありません。ニュースの価値判断をして紙面を作るデスクが3交代制のパターンで編集につくという体制を、東京でさらに拡充するとお考えいただければと思います。

●読者の属性に合わせた広告も

――NIKKEI NETでは広告収入が落ち込んでいると思うのですが、電子版では新たな広告戦略などを考えられていますか?

岡田 NIKKEI NETはこれまで無料でやってきていて、広告収入を基盤にしていますが、ご指摘があったように広告収入は伸び悩んでいます。昨年は厳しい状況にありましたが、私たちはこの電子版を発刊することによって広告収入も伸びていくと考えています。

 それはただ景気の回復ということだけではなくて、電子版では読者登録していただいて、読者の属性を一応私たちは把握できるという形になります。「どういう読者がどの記事を読んでおられるか、どんな広告にアクセスされているか」といったことが把握できるので、そういったことを活用した新しいネット広告ビジネスも展開できると考えています。目下の情勢は厳しいですが、これから先、こういった分野を伸ばしていかないといけないと思っていて、また伸ばしていけるのではないかとも考えています。

――これまでの日本のメディアのWebサイトは基本的にアクセス至上主義だったと思うのですが、今回の電子版によってアクセス至上主義から収益至上主義に転換が図られると考えていいのでしょうか?

岡田 アクセス至上主義という考え方は私もちょっと今すぐには理解できないのですが、やはりネット上のサイトはビジターが来ないようなものでは基本的には成り立たないのではないかと思います。従って、ビジターが増えるような仕掛けをしていくために、いろんな工夫を凝らしているつもりです。

 ただ、我々がターゲットにしたいと思っているのは、無料登録会員、あるいは有料会員になっていただくような方々です。こういった方々をたくさん集めれば集めるほど、そういった方々の好みや行動パターンが分かって、紙面やビジネスにも生かせるということで、そこを増やしていけるような仕掛けも同時にやっていきたいと考えています。

――日経テレコンなどとの連動に関してシミュレーションされていると思うのですが、その中で明らかになったメリットや今後の改善点を教えてください。また、2〜3年後にイメージされているサービスの拡充などについてもお聞かせください。

岡田 日経テレコンとは連動していて、有料会員であれば月に25本までは無料で記事検索をすることができます。それ以上になると従量課金ということで、電子版の料金にプラスアルファでお支払いしていただくことになるのですが、月25本というのが適切なのかどうかとか、従量課金の仕方とか、このやり方がどのくらいうまくいくのかといったことも見極めていきたいと思っています。人によって使う量もかなり変わってくると思いますので。

 そういったサービスについては、スタートしてから利用者からさまざまな意見や不満の声などもあるかもしれないので、それを踏まえて改善していきたいです。電子版は常に改良を重ねていく商品だと思っていて、3月23日に出すものが完成品で、これから全然何もしないんだということではまったくないので、改善点があればその都度改善してサービスを付加していくものだと考えています。

 サービスの拡充についてですが、今言ったように、コンテンツについても、必要なものや魅力的なものがあればどんどん追加していきます。そういったものの中で特に付加価値の高いものは、場合によってはオプションのような形で別途料金をいただくことも考えていきたいと思っています。

●オープン戦略

――同業他社に対してオープンに……というお話をされたと思いますが、具体的にどういったことを想定されておっしゃったのでしょうか?

喜多 我々は電子版を開発している時に、課金システムや購読者を管理するシステムで結構苦労したところがありました。そこで、もしこれからお始めになる同業の方々の中に、我々の作り上げた課金システムや購読者の管理システムを使いたいという方がいらっしゃったら、それをどうぞお使いくださいということです。もちろん、そのままでは使えませんが、少し工夫すれば多分使えるような仕組みにしてあります。

――iPhoneなどのスマートフォンに対して、何らかの戦略は持っていますか?

岡田 iPhoneでは今でもWebをご覧になれるので、電子版は十分利用できます。ですから、Webが見られる端末であれば、自由に電子版はご覧いただけますし、そこを通じてログインしていただいて、有料記事をご覧いただくということも可能です。

 ただ、それ以外にも今、新しい形での端末がたくさん開発されつつあり、先ほど社長があいさつでも触れましたようにいろんな提案や打診のようなものが、我々の方にもなされるようになっています。ただ、各社それぞれに仕様が違ったり、考え方が違ったりしていて、私たちの考えとぴったり適合するものがあるのか、私たちのビジネスモデルと矛盾なく展開できるようなサービスなのかというところを今研究している段階です。ただ、そういったものへのニーズが非常に伸びてきていることは事実なので、我々としてもそういった分野にはオープンに対応していくということで今いろいろ作業を進めているところです。

――電子版の専用携帯端末のようなものを出されるお考えはありますか。

岡田 日経自身が専門端末を出すことは考えていません。電子版が非常に見やすいような端末を開発していただいて、販売していただけるということであれば我々としても乗っていきたいと思いますが、自分で作って自分で売るということは現時点ではまったく考えていません。

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最終更新:2月25日12時23分

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