きょうの社説 2010年5月8日

◎世界同時株安 負の連鎖を止められるか
 6日のニューヨーク株式市場の急落は、誤発注が引き金になった可能性が指摘されてい る。ギリシャに端を発した財政危機がポルトガルやスペインなどに波及する懸念があり、投資家心理が冷え込んでいるところに、一時的とはいえ過去最大の998ドル安を付けたのだから、パニック的な売りが出たのも無理はない。

 米欧市場の下げは、アジア市場を直撃し、日経平均株価はこの2日間で692円下落し た。欧州16カ国などがギリシャへ総額1100億ユーロ(約14兆円)の支援で合意したとはいえ、巨額の財政赤字解消にはほど遠い。デフォルト(債務不履行)のリスクは払拭されておらず、中国の金融引き締め観測もリスク要因として意識され始めている。これまでの楽観論が急速にしぼむなか、世界同時株安の連鎖を止められるのか。国際金融市場は視界不良になってきた。

 ニューヨーク市場の急落は、トレーダーが売り単位を間違えて発注したのが原因とみら れる。だが、その背景にはギリシャで社会的混乱が広がっていることを嫌気する市場心理があったのは間違いない。欧州の小国に過ぎぬギリシャは、本来なら世界経済にさほど影響を与えないはずだが、通貨統合によって皮肉にもユーロ加盟国全体を揺さぶる存在になった。

 東証の大幅下落は、地球規模で起きている株式などのリスク資産から安全資産への資金 逃避の動きの一環だろう。市場関係者は、ギリシャ国債がたたき売られる状態が止まらず、同じ財政赤字を抱えるポルトガルやスペインなどに飛び火した場合、金融不安が欧州から世界に拡大することを恐れている。

 加えて、中国の金融引き締めによる景気の減速も懸念材料だ。利上げによってバブルの 様相を呈する中国経済が失速した場合、世界経済への打撃はギリシャの比ではない。救いがあるとすれば、米国経済がリーマンショック当時より格段に強くなり、日本の企業業績も急回復してきていることだ。まだまだ病み上がりとはいえ、ここで日米が踏ん張らないと、世界経済の展望が開けなくなる。政府・与党は危機感を持って株価の底割れを防いでほしい。

◎八田技師墓前祭 日台交流支える太い幹に
 台湾の水利事業に尽力した八田與一技師(金沢出身)の墓前祭が今年も、命日の8日に 烏山頭ダムほとりで営まれる。アニメ映画「パッテンライ!!」が日台で上映されて技師の功績に光が当たり、現地では顕彰のための基金団体が設立され、烏山頭ダムの世界遺産登録運動も広がってきた。来年の墓前祭では技師の記念公園がオープンする。墓前祭はいまや故人の顕彰を超え、日台に新たな交流の扉を開く大きな意味をもつようになった。

 日本と台湾は貿易や観光などで結びつきを強め、台湾では日本のアニメやTVドラマな どポップカルチャーが若者文化として定着している。墓前祭はそうした良好な関係に血を通わせる重要な役割を今後も果たしていくだろう。顕彰活動を息長く継続し、日台交流を支える太い幹にしていきたい。

 金沢の「八田技師夫妻を慕い台湾と友好の会」の墓参は今年で22回を数える。台湾で は戦後、日本人の顕彰は植民地時代の正当化とみなされ、銅像などが撤去されたが、ダムの恩恵に感謝する住民が技師の銅像前で墓前祭を始め、そこに金沢の人たちも加わった。正式な国交がない日台間で地道に続けてきた民間交流の歴史もまた、八田技師の功績とともに次世代に語り継ぎたい物語である。

 台湾の一地方と金沢の草の根交流は、ここにきて大きな実りをもたらした。台湾の馬英 九総統は昨年の墓前祭に参列し、記念公園の計画を明らかにした。その言葉通り、今年2月に公園は着工され、来年の命日に開園式典が予定される。八田技師の宿舎を中心に4棟が修復、復元され、そこには石川県から贈られる家具や調度品が置かれる。新たな交流拠点の完成により、来年の墓前祭はさらに関心が高まるだろう。

 今年は八田技師が烏山頭ダムとともに整備した水路網、嘉南大シュウ(かなんたいしゅ う)竣工80周年に当たり、7日には台湾政府による討論会が開かれた。政府として八田技師の功績を積極的に評価するのは歓迎すべき動きである。顕彰活動で日台が歩調を合わせ、交流の担い手づくりでも連携を強めたい。