ソフトバンクの「アクセス回線会社」構想をめぐってはツイッターで長い討論が続いているが、ここで問題を整理しておこう。実は、ソフトバンクの提案は2つの部分からなっている:
  • 交換機を撤去して電話網(PSTN)を廃止し、すべてIP化する
  • アクセス系をすべて光(FTTH)にする
このうち前者は世界的に始まっており、BTのNGNはPSTNをDSLで置き換えるものだ。FCCも昨年末、意見募集をしており、NTTもヒアリング資料
  • 交換機は、設備の寿命が10年後から順次到来する
  • メタルアクセスは交換機よりも長期使用に耐えられる
  • したがって交換機からIP装置に切り替えてメタルを収容する。
  • これに伴い、現行のIPサービスでは提供していない機能(公衆電話、ISDN、IGS交換機など)の扱いについて、概括的展望を今秋公表する
としているので、通信各社の合意を得ることは容易だろう。工事は、局内設備を更新するだけなので、FTTHよりはるかに簡単で、残り10%の「条件不利地域」についてもIP化によってDSLを提供すれば、工事費600億円で最大50Mbpsが提供できる。これは100Mbpsの8分岐と実効速度はさほど変わらない。

ソフトバンクは、アクセス系の終端に携帯電話の基地局を取り付ける「フェムトセル」のインフラとしてFTTHを考えているようだが、これはDSLモデムと一体化したフェムトセルでも十分だし、Wi-Fiでもよい。こうした「宅内基地局」はすでに実用化しているので、ソフトバンクが無料で配れば、すぐ全国に普及するだろう。

問題は、利用者の合意が得られるかどうかである。これについては、現在の電話の基本料金1450円/月の大部分が交換機の保守費用である(IPベースの「ひかり電話」は500円)ことから考えると、交換機を撤去してドライカッパー(銅線のみ)にするだけで基本料金は1000円以上下げることができよう。現在のドライカッパー料金は1391円と異常に高いので、料金の見直しが必要である。

公衆電話については、携帯電話による代替が進んでいるので、携帯電話のカバーできない(離島などの)地域について固定無線や通信衛星などで補完することが考えられる。ISDNはPHSやクレジットカード決済などに使われているが、これも設備更新の補償金を払えば解決できるのではないか。

ソフトバンクも主張するように、現在のPSTNは非効率で高コストだが、そのコストの大部分は交換機まわりの人件費であり、保守要員は5年以内に半分近く定年退職する。そうなると保守もできなくなるので、まず交換機を撤去するオールIP化が緊急の課題である。

「全世帯にIP+FTTHを」というソフトバンクの理想は否定しないが、両方を「構造分離」で一挙にやろうとすると、NTT法の改正など政治がからんで何もできなくなるおそれが強い。まず容易にコンセンサスの得られる(法改正も必要ない)IP化からやり、FTTH化は10年計画ぐらいでゆっくりやってはどうだろうか。