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更新:2008年5月16日 11:12モバイル:特集

携帯フィルタリングの焦点

高校PTA会長がネット規制法案に反対する理由

 「保護者はフィルタリングが何か分かっておらず、いきなり進めると混乱してしまう」。ヤフー、マイクロソフトなどネット5社とともに、自民党青少年特別委員会が検討していたネット規制法案に反対を表明した高等学校PTA連合会の高橋正夫会長。「子供の安全を守る」という理由で進むネット規制になぜPTAが反対するのか。高橋会長にその理由を聞いた。(ガ島流ネット社会学)

■なぜ当事者が議論に参加できないのか

 「とにかく急な話で驚いた。子供たちへのフィルタリングや規制を考えているなら、どうしてもっと早く声をかけてくれないのか」

 高橋会長によると、フィルタリング強化の動きを連合会が把握したのは昨年末。総務省の審議会「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」に出席したのがきっかけだった。

 携帯電話会社は1月からフィルタリングを実施し、もしフィルタリングを望まない場合は保護者が外すことになっていると聞かされた。保護者は携帯に関する知識が乏しく、フィルタリングについても知らない。保護者の混乱が予想された。

インタビューに対応する高等学校PTA連合会の高橋正夫会長

 「小学生と高校3年生が同じフィルターというのはおかしいでしょう。高校生は卒業すると親元を離れて社会に出て行くので、急にフィルターが外れたら逆に危険な目にあう可能性もある。高校生は音楽やネット、ゲームを楽しみながら、ネット社会を生きていくうえでの勉強をしているのに、それをつぶすのは待ってくれと思った」と高橋会長。

 そもそも審議会は、総務省の担当者、IT関連企業、大学教授らが構成メンバー。「当事者がいないとおかしいんじゃないですか?」と話すと、次回から審議会に出席できるようになった。

■企業の自主的取り組みを評価

 PTA連合会では、いまマスメディアを中心に問題となっている学校裏サイトや掲示板を利用したいじめ問題なども数年前から把握していた。ネット企業やプロバイダーに対して問題の書き込みについて削除や対応を要望したが、「出所がはっきりしない」「海外だから無理」と断られた。しかし、ネット規制を目前に、企業は動き始めた。

 「私たちが削除をお願いした当時はネット社会を広げていこうという時代だったし、企業にとっての優先事項があったのでしょう。いまようやく社会の要請を受けて自主的に取り組みが始まった。せっかく始まったのだから国は民間の取り組みを支援してほしい。民間がやる前に法案をつくるというのはおかしい」と言う高橋会長の考えはどこから来るのか。

 連合会の会長はブロックから選ばれる。高橋会長は九州地区の会長で大分県連合会の会長も務めている。仕事は建築関係で、構造計算などでPCとはなじみが深く、記録メディアがテープだった時代から利用している。「ここ数年の動きが早すぎてネット社会には身を投じていない」と笑うが、問題が続発した建築基準法改正などを体験しただけに国の関与に対しては「有害規準を国が決めたり、フィルタリングを強制したりするものではない」と慎重な姿勢だ。

■ネットでいじめ経験、9割が「ない」

 また、ネット規制を望む根拠として、出会い系サイトなどでの犯罪のほかによく利用される内閣府の「有害情報に関する特別世論調査」の結果についても懐疑的だ。

 「9割以上の人が何らかの規制を望んでいる」とマスメディアで紹介されることが多いが、実態を知らずに答えている可能性があることは「携帯フィルタリング『強制反対派』に支持が集まらない理由」にも書いた。高橋会長は「高校生について90%はありえない。よくわからない数字が独り歩きして『保護者の希望がこうだ』と言われても困ってしまう」と反論する。

 連合会は全国9ブロックの地区に協力を依頼して独自にアンケートを取ってまとめている。昨年度は「デジタルメディア社会における子供の健全育成」とのタイトルでPCや携帯について高校生、保護者の意識を調査した。

 アンケートには生徒3881人、保護者2601人が回答。報告書によれば、「ネット上でいじめを受けたことがありますか」との質問には93.6%が「いいえ」と答えている。「もし携帯が使えないとしたらどう思いますか」という質問には半数が「それほど困らない」「まったく困らない」と答えた。

 高橋会長は「若い子がみんな同じように携帯で問題を抱えているかのように報道されたり、語られたりすることが非常に悔しい。みんなが携帯やネットを使っているわけじゃないんです」と実情を訴え、問題はメディアリテラシー教育にあると分析する。

■メディアリテラシー教育に協力したい

ネット規制法案反対で記者会見するネット企業5社と、高橋氏(右端)。ネット5社は学校でのメディアリテラシー教材開発などで協力すると発表した

 高校には教科「情報」が設けられている。単にPCの利用方法だけでなく情報を主体的に活用できるような力を養うとされているが現実は違っている。

 「例えばワードやエクセルの使い方というのはPCリテラシーであって、メディアリテラシーではないんです。高校生に加え、保護者がほとんどわかってない。あと10年たったらいまネットを使いこなしている人が保護者になってくるが、いまの保護者は理解できていない。連合会は保護者を集めることはできるので力になれると思います。裾野のほうまでやっていけるという気がしています」

 アンケートでも「メディアリテラシー教育を受けた経験がある」と回答した高校生は男子で27.3%、女子で43.8%にとどまっている。保護者となると、男性は18.2%、女性は12.5%でしかない。

 ネット企業各社は、ネットの安全利用やリテラシーに関する教材開発に取り組んでいく計画を発表している。「メディアリテラシー教育が必要だという話だったからぜひ協力したいと申し上げた。企業さんはそれぞれ利害関係があるから大変とは思うけれど、いい機会だと思っている。前向きな会合だったらできるだけ参加して協力していきたい」と期待を寄せている。

-筆者紹介-

藤代 裕之(ふじしろ ひろゆき)

ブロガー@ガ島通信

略歴

 1973年徳島県生まれ。立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。広島大学文学部哲学科卒業後、徳島新聞社に入社。社会部で司法・警察、地方部で地方自治などを取材。文化部では、中高生向け紙面のリニューアルを担当し「若者の新聞離れ」対策に取り組む。徳島大学付属病院医療情報部助手を経て、マイネット・ジャパンアドバイザーなど。
2004年9月にブログ「ガ島通信」をスタート。メディアやジャーナリズムに関する議論から身辺雑記まで、幅広い内容を発信中。「ブログ・ジャーナリズム」(野良舎)、「メディア・イノベーションの衝撃」(日本評論社)。北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)サイエンスライティング担当。

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