2008-06-25 20:00:00

東シナ海大陸棚

テーマ:外交

 東シナ海のガス田問題がひとまず落ち着きました。白樺ガス田への日本企業の参入、翌檜ガス田南部での共同開発、樫、楠両ガス田は継続協議ということみたいです。


 この暫定的な解決について、「どのあたりなのかな」と思って、公式サイトを調べてみました。出てきたのはこれ です。さすがにこれは酷いと思いました。何が何なのか、さっぱり分かりません。日中中間線との関係も、尖閣諸島との関係も、全く分かりません。この発表の仕方自体が、中国への配慮だと言えばそう言えるかもしれません。中間線を書くと、中国側の世論を刺激するということなんでしょうが、それにしても分かりにくいですね。仕方ないので、もうちょっとだけ分かりやすい を拾ってきました。


 私の感想は「上出来」です。よくこれだけ確保できたものだと、交渉に当たった資源エネルギー庁、外務省の方に敬意を表したいです。色々と批判があるのは知っています。白樺ガス田については、中国国内法に基づく資本参加じゃないか、共同開発とは言えないといった主張があることは知っています。中国側が「中国の主権は揺らがない。これは中国の主権を前提にしたものであって、日本は既に参入している外資系企業(ロイヤルダッチシェル等)と同じ立場で参入するだけ。」と説明していることも知っています。私の感じでは、それはそれで言わせとけばいい、うちはうちで解釈があるから、といったところです。お互いが都合のいいように説明できる解決策にするのも外交上の知恵の一つだと思いますから。


 というのも、日本では中間線というのは国際的なルールだという感じで捉えられていますが、この日中のケースでは、日本側が琉球諸島を基線としており、中国側が大陸を基線としていますから、国際司法裁判所に持ち込むと、多分、中間線から少し日本側に寄せられたところでの解決が図られる可能性が高いのですね(つまり、その場合、白樺は完全に中国権益となる。)。そういう可能性がある中、中間線で頑張り通した日本の交渉者はよくやったと言っていいように思います。


 もっと言うと、この手の開発の際には開発の際の準拠法を決める必要があります。決めないのであれば、それについても交渉して、準拠法に代わる白樺開発に関する基本的なルールみたいな国際的ルールを条約として締結する必要があり、それはそれは時間がかかるのです。今回は早期の解決を優先して、準拠法のところでは中国側に譲った、そう考えていいはずです。


 ところで、今回の解決について、ちょっと渋いネタを提供しておきます。今回、共同開発の対象として鉱区設定されたのは翌檜ガス田「南部」です。なんで翌檜ガス田全体ではないかと言うと、これは一部報道されていますが、日韓で設定した大陸棚共同開発地域に当たるからなんですね。翌檜ガス田全体(特に北部地域)を開発してしまうと、日韓の共同開発地域に少しかかってしまう可能性があるのです。特に中川経済産業大臣が主張していた「ストロー理論(掘っているところは共同開発地域内でなくても、共同開発地域の資源が抜き取られる)」が今度は日中と韓国の間で問題になってしまうということです。まあ、中国側からすれば、別に是が非でも共同開発をしたいわけでないし、勝手に日本が韓国との関係を慮って、翌檜北部を日中の共同開発地域から外したいというなら、勝手にどうぞという感じなんでしょう。


 んで、問題はこの日韓の共同開発地域なんです。これは1978年くらいに締結された条約なんですが、

当時は実は大陸棚に関する国際法の主流は「自然延長論(自国の沿岸から地理的に延長している大陸棚に権利を主張できるという論理)」だったんですね。だから、日韓の間ではかなり日本が譲歩して、概ね中間線から沖縄トラフまでが共同開発地域に設定されているのです。これは今、中国が当初主張していた解決策にかなり近いです。地図 で見てみると、上記で書いたことが分かっていただけると思います。その後、国際法の考え方が変化していて、今は二百海里線が重なってる時はまずは中間線をベースに調整していくという論理がメインストリームになっています(ということで、日本は今回そういう論理で頑張り通したのです。)。今、日韓間で交渉すれば全く別の結果になるでしょう。あと20年は効力のある条約ですが、見直しするとなればかなり大変でしょう。今の国際法上の主流だとか、そういった議論が何処まで通用するかはかなり疑問です。見直せば、絶対に今、韓国が有する権益を中間線くらいまで押し返されることになるわけですから。かといって、日本も韓国との大陸棚条約を今のままにしておくと、中国側から「おたくは韓国にだけ自然延長論を認めて、うちには認めないのはおかしい。やっぱり中間線と沖縄トラフの間だけが共同開発地域だ。」と捻じ込まれるでしょう。想像するだけでウンザリするような前途が待ち構えているということなんです。


 ちょっとテクニカルに過ぎました。もうちょっと分かりやすく書けるようになりたいんですけどね。

コメント

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1 ■無題

こんばんは。外交交渉の流れというか、どういったことについて話し合っているのかセオリーみたいなモノがあれば、教えてほしいです。どれほどの大変さかよくわからないので、自分なりの評価、判断ができないんですよねぇ。

2 ■豆知識

東シナ海海底資源に関して、私も今回の合意を高く評価しました。理由は林太郎さんとほぼ同じです。公務員たたきの風潮と同じで、福田首相は何があっても叩かれていますから、余り世論は評価していませんが、ほとんど満点の結果だと思います。

ちなみに、日韓大陸棚協定は2つの条約からなっています。一つは北部境界画定協定、もう一つが南部共同開発協定です。今回林太郎さんの指摘されたのは、南部共同開発協定のほうですね。
これは当時中間線を主張する日本と、大陸棚協定(日本は批准せず)の自然延長を主張する韓国の間で合意が成立せず、日本の主張に則って境界は中間線で画定し、韓国の主張に則って南部については共同開発とするものとなっています。当時は国連海洋法条約が策定中で難航しており、有る程度海洋法を先取りする方向で基本は大陸棚協定に則り、取りまとめていました。
この条約を読むと面白いことに、北部境界は2国間の合意が無ければ条約の変更ができませんが、南部共同開発は50年後は片方の意思で破棄できる内容となっています。これは海洋法条約がどちらかと言うと日本の主張に近い方向に纏まりそうであったことからだと思いますが、外務省が頑張ってくれた成果だと評価しています。
実は日本が余り海底資源に興味を示さないように見えるのは、2028年を待っているのかもしれませんね。

3 ■気になったこと

少し林太郎さんは誤解されているような気がしたので、簡単に説明しますと、海洋に関する条約の変遷としては、第二次世界大戦以前は世界的な合意が成立しておらず、基本的に領海のみを沿岸国の権利とし、それ以外は公海としていましたが、1964年のジュネーブ海洋法4条約で領海と公海と主に漁業に関する条約(後の経済水域に当たる)と大陸棚の条約を定めたものが基本となりました。この時日本は遠洋漁業の能力と、大量の漁業資源の市場を兼ね備える、世界でも数が少ない国で有る立場から、一貫して沿岸国の権利拡大に反対し、ジュネーブ海洋法4条約のうち領海と公海の2条約以外は批准を拒否しています。
旧日韓漁業協定(海洋法発行に伴う改定で調整がつかず日本側が一方的に破棄通告、現在の漁業協定を新たに締結)と大陸棚南部共同開発協定に期限を設けたのも、上記の立場を貫いたためでしょう。

中国側は、最初から日韓大陸棚協定を沖縄トラフまでの自然延長の根拠の一つとして主張していましたので、日韓大陸棚協定を根拠にごねても日本側の譲歩は引き出せないことを理解したため、今回の合意に至ったと考えられます。ですから、最悪を見越すという意味では別ですが、総論としては、日韓大陸棚協定について心配する必要ないと思いますよ。

4 ■中国とベトナムとの交渉

有馬温泉さん、お詳しいですね~

ところで rinta さん、日本は将来ダブスタと言われるかもとのことですが、中国は、現在すでにダブスタです。
ご存知でないはずはないと思うのですが・・・

中国とベトナムとの交渉において、中国は中間線を主張していたはずですよ。日本側もそれを中国側にねじこんでたんじゃないでしょうか。

5 ■無題

ここのコメント欄は厳しい視点で見られることが多いので、いつもヒヤヒヤものです。思い込みで書いちゃいかんと反省することも多々あります。

それなりに思い切って書こうとしているためもあり、それを以って時折「脇が甘い」とお叱りを受けます。なかなか難しいですね。

6 ■無題

sakuyaさん
第三者の強みで、たまたま詳しいところだけえらそうな顔をしているだけです(苦笑
東シナ海海底資源関係は世間で知れ渡る少し前から注目していたため、関連条約や判例とその経緯を1年以上掛けて暇なときに調べましたから。後は北方領土や竹島と尖閣諸島の領有権関係とかは有る程度調べた事がありますし、近代の日本関係の世界史と、珍しいところでは古代アジア史等は多少調べています。

林太郎さん
厳しい視点の意見の半分は私のような気が(苦笑
林太郎さんほど、きちんと自分の意見を根拠を持って説明する政治家は、数少ないとおもいますよ。個人的には、民主党は細川政権と同じで実質的な国政運用能力がないと考えていますから、林太郎さんに頑張って当選してもらいたいと思えないところが歯がゆいところですが・・・。

7 ■無題

白樺は中国には上海や寧波までパイプラインができていると思いますが、日本は一体どのようにして自国に天然ガスを持って帰るのですか?
それとも日本の権益分を中国に売るということですか?その場合だったら、すごく足元を見られるのでは・・・ということを外務経産両大臣の記者会見で突っ込んでみたかったです。

8 ■北海油田の例

複数の国に権益がまたがる海底資源については、北海油田が先例として参考になるでしょう。
北海油田の場合は大陸棚の地形から、ほぼ全量をスコットランドにパイプラインで送り、そこから各国の権益の割合に従い割り当て、パイプラインの使用料を支払います。一般的にはそのままイギリスに輸出します。

東シナ海のケースで、もし中国に足元を見られるようでしたら、割り当て分を自前の船で日本国内に運ぶ事になるでしょう。おそらく採掘施設・パイプラインとも中国側の施設を借用することになりますので、それぞれの経費と権益の割合に従って中国側に支払うことは、特別売国行為ではありませんよ。国際相場と大幅に乖離する価格設定であれば、問題ですが。
実際のところ、かけた経費がペイできるほど採掘できるかも不明な現状、「日本の権益が及んでいる」事がはっきりするだけで、大きな得点だと思いますけどね。

9 ■無題

ためになる情報、ありがとうございます。

私が危惧しているのは、正に「国際相場と大幅に乖離する価格設定」にならないかということです。
仮に中国が、相場の10分の1の値段を言ってきたら、どのように対応するのでしょうか?買うかどうかの決定権は中国にあるわけですから、日本としては厳しい交渉になるような気がします。
あと、中国はあくまでも、「自国の主権の範囲内」という態度を崩していません。ストロー理論で日本側のガスまでどんどん吸い取られていくような気がします。

10 ■無題

基本的にこの東シナ海海底資源の問題については、膠着するほうが日本に有利な点が多いのですよ。

主に日本の外交スタンスは、対話による解決を基本としているため、相手がごねると手詰まりとなってしまうケースが多く、引き伸ばし作戦に弱い傾向があります。しかし本件に関しては中国側は既に投資しており、解決しないと言うことは投資の効果が減少していく経済リスク、それと合わせて日本に対して弱腰で有ると見る政治リスクを増大させるため、中国側に無原則には引き伸ばせない事情があります。それに対して日本側は、引き伸ばすことにより技術開発の結果採掘コスト低減が見込める、化石燃料で有る以上は消費に生産が追いつかないため投資効果の向上が見込めるなど、最短で見積もっても2028年までは引き伸ばすことによるデメリットがありません。

中国は現時点では国連海洋法廷の管轄権拒否宣言を行っていないため、万が一中国側が強攻策を取った場合には、日本単独で提訴できると言う保険(最後の手段ですが)もありますし、中国が吹っかけてきたらこれ幸いと延々引き伸ばせばよいわけです。

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