2010年04月29日
劇団「ワンツーワークス」の旗揚げ公演「死ぬのは私ではない」の一場面
尊厳死や犯罪被害者、自殺などをテーマにした骨太な舞台で知られる劇作家、古城十忍(こじょう・としのぶ)さんが、このほど劇団「ワンツーワークス」を立ち上げた。旗揚げ公演「死ぬのは私ではない」は、死刑囚を主人公に、死刑制度について問い掛ける意欲作。生と死に向き合った作品をライフワークとしてきた、古城さんらしいスタートとなった。
「ワンツーワークス」という名称から連想する人もいるかも知れないが、古城さんは20年余りにわたって劇団「一跡二跳」(いっせきにちょう)を主宰。一筋縄ではいかないテーマやせりふと格闘しつつ、エンターテインメント性あふれる“古城ワールド”で、ファンを魅了してきた。
2年前に解散した後は、公演ごとに俳優を集めるプロデュース方式での公演などに力を注いでいたため、どんな新境地を切り開くのか楽しみだった。近年、小劇場の世界ではプロデュース公演がはやり、すっかり定着している。劇団という枠にとらわれない分、俳優やスタッフの志向・背景などはさまざま。劇団ならではの濃密な人間関係からは、良くも悪くも距離がある。
そんな“脱劇団”のスタイルについて古城さんは「人のふんどしで相撲を取らされているような、よりどころのない感覚」があったという。一概にプロデュース公演を否定するわけではないが、「共通の基礎訓練を習得している俳優同士だからこそ、可能な表現がある」と劇団という形への思いを深めたようだ。
以前から「俳優とも深いところでコミュニケーションしないと、役をつくっていけない。(演出は)一緒に役に降りていく作業なんです」と語っていただけに、時代の流れにあらがうように「劇団なんて骨の折れることを、あえてやってやろう」というのは、この人ゆえの決断なのか。
そんな旗揚げ公演で向き合ったテーマは、ずばり死刑制度。実際に起きた殺人事件をモチーフに、罪と罰について考えた新作は、見応え十分だった。これからの「ワンツーワークス」に期待したい。(野沢昭夫・共同通信記者)
のざわ・あきお 福島支局、大阪社会部などを経て文化部。最近、見て面白かったテレビドラマは「遠まわりの雨」。山田太一脚本の素晴らしさと、渡辺謙、夏川結衣の見応えのある演技に感動。