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今号の焦点
冷蔵倉庫業界の固定資産税過徴収問題は返還期間を巡って各地で訴訟も
返還期間は20年以上から5年と自治体によって対応に大きな差
冷蔵倉庫業界で約3年前に発覚し、その後全国的に広がった冷蔵・冷凍倉庫の固定資産税過徴収問題。問題発覚後、各自治体は過徴収した固定資産税の期限付き返還を決めているが、その返還期間について事業者側と自治体での折り合いがつかなかったケースでは訴訟にまで発展している。問題の発覚から現在までの状況をみてみると…
●過徴収問題は06年に初めて全国的な問題となっていることが明らかに
冷蔵・冷凍倉庫(営業倉庫、自家用倉庫を含む)の固定資産税過徴収問題は自治体が冷蔵・冷凍倉庫の固定資産評価時に経年減点補正率を誤って普通倉庫の区分で適用したことから発生した。05年に名古屋市内の冷蔵倉庫事業者が固定資産税額に疑問を持ち、市に対して調査を依頼。06年5月に市側が固定資産の評価で経年減点補正率区分の誤適用で固定資産税を過徴収してきたことを認めたことが発端となった。
問題を発見した冷蔵倉庫事業者は所属している日本冷蔵倉庫協会(日冷倉協)に過徴収問題の概要を報告。06年6月に日冷倉協が全国の地区協会と会員事業者に対して同様の過徴収が起きていないかを自治体に確認するよう促した。日冷倉協は8月に会員事業者に対して自治体への確認活動の状況をアンケートで調査したところ、各地で同様の過徴収があったとの回答が寄せられ、全国的な問題であることが明らかになった。過徴収は全国415自治体で発生しており、返還総額は07年3月時点で92億円にのぼった。日冷倉協では過徴収金の総額は200億円規模になるものと推計している。
永年にわたって過徴収が発生した原因の一つとなった納税通知書の記載については以前までの「倉庫」のみ記載されていたものを冷凍倉庫の場合は「倉庫(冷凍)」とし、「普通倉庫」と明確に区別できるかたちに変更された。
●どの時点まで遡って過徴収金を返還するかどうかが争点となり、一部では国家賠償請求の訴訟に発展
過徴収金の返還については各自治体で行われているのだが、ここで争点になったのはどの時点まで遡って過徴収金の返還を行うかについて。場合によっては40年近く過徴収を受けてきた例もあるが、返還期間についての対応は自治体によって全く異なっている。各自治体が応じた返還期間は全期間、民法の時効となる20年、15年、課税台帳によって過徴収額の確認が可能な10年、地方税法の時効である5年に大きくわかれている。
冷蔵倉庫事業者と自治体は返還期間についての折衝を各地で行ったが、折り合いが付かなかった場合は国家賠償請求を求める訴訟に発展した。現在までに地裁での12件(この内5件が複数事業者による集団訴訟)中7件で判決が出ており、事業者側は5件で勝訴。日冷倉協によると判決が出た7件のうち5件で高裁への控訴が確認されており、こちらは4件で勝訴(1件については地裁と逆転)している。
地裁へ提訴されたもののうち、2件は20年返還で和解が成立。訴訟準備を行ったものの、裁判以前に和解が成立したケースも6件あり、こちらは20年から全期間の返還で決着している。また、最高裁での上告審だが、全国各地で行われている訴訟は基本的に全て同じ性質を持つため、最高裁での争いは高裁での判決がある程度出そろってから行われるとの見方が強い。
各地で行われた訴訟などの結果、現時点での自治体の返還年数対応は最も多い例が10年分の返還で124自治体(過徴収を行った自治体の42.8%)。次いで5年の86自治体(同29.7%)、20年の46自治体(15.9%)、全期間の15自治体(同5.2%)、15年の10自治体(同3.4%)と続く。
発覚当時と比べると既に20の市町村が返還期間の延長を決めており、そのほとんどは地方税法時効の5年から民法(国賠法)時効の20年もしくは全額返還へ変更している。こうした自治体の対応変化は各地で行われている裁判の動向が影響したものと見られる。
ただ、7割以上の自治体で地方税法時効の5年を超える返還が行われているだけに、5年の返還しか受けられていない事業者は強い不公平感を感じているという。
●過徴収を受けた際の請求権は3年間で喪失するため、今年の夏は新たな返還請求訴訟が各地で準備中
地方税の過徴収金の返還期間拡大は冷蔵倉庫事業者が自治体から過徴収を行っていたという通知を受けた後、3年を経過すると事業者は請求権を失う。
冷蔵倉庫に対する固定資産税の過徴収が明らかになり、自治体が最初に事業者に対して過徴収を認めたのが06年5月。この時期以降に各地で過徴収の実態が明らかになったのだが、事業者による請求権の有効期間は3年のため、自治体の定めた期間以上の返還を求める場合は09年の夏頃までに請求を起こす必要がある。こうした理由から現在、さらに20件以上の訴訟準備が進められており、今後の動向に注目が集まっている。
カーゴニュース6月16日号