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アイドル映画の名手はみんな美少女好き!?
――先ほど澤井信一郎監督の話が出ましたが、アイドル映画が得意な監督と言うと?
渡辺 大林宣彦監督! 彼はアイドル映画の名手よね。大林さんの映画を見ていると、『若草物語』('49)の頃のエリザベス・テイラーみたいなものを目指して作っている気がする。
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『ねらわれた学園』
突然、超能力をもってしまったごく普通の女子高生の戦いを描く、薬師丸ひろ子主演の学園ドラマ。
発売:角川書店
¥4700(税別) |
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宇田川 大林監督自身が美少女好きな人ですからね(笑)。ぼくは彼の映画の中では『ねらわれた学園』('81)が好きだなぁ。大林さん自身があのころよく言っていた「チャイルディッシュ」な、バランスの崩れたヘンな映画でおもしろいんです(笑)。
――大林監督といえば、若い女優にムダ脱ぎさせるのでも有名ですよね(笑)。
宇田川 ムダじゃないよ! 全然関係のないシーンで見ているほうも油断していると、ポロッと脱がせたりして、エライ(笑)。『HOUSE』('77)の池上季実子とかね。
渡辺 大林監督に代わりになるような若い監督っていないの?
宇田川 『アイコ16歳』('83)や浜崎あゆみが出ていたことでも話題になった『すももももも』('95)なんかを撮った今関あきよしがそのラインを狙ってたけど、それほどうまくないんですよね。自主映画時代にはいい美少女映画を撮っていたけど。
――岩井俊二監督はどうでしょう? 今公開されている『花とアリス』にも、鈴木杏と蒼井優っていう美少女が出てますよ。
渡辺 あの人は自分がアイドルになりたい人だからダメ。少女はあくまでも被写体としてしか捉えてない気がする。
宇田川 そういえば、今40歳前後の人で「角川映画で育った」と言っている人は多いですよね。自分たちが10代の頃に、評論家が角川映画の悪口を言うたびにくやしい思いをしていた人たち(笑)。
渡辺 「今に見ておれ! 大人になったら俺もアイドル映画を作ってやる!!」って(笑)。
宇田川 そうそう(笑)。でも、本当にそういう人たちがアイドル産業にたずさわっているんじゃないかな。
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『台風クラブ』
台風の接近によって学校に閉じ込められた中学生たちの姿を描く青春映画。
発売:パノラマコミュニケーションズ
¥4700(税別) |
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――亡くなられてしまったけど、相米慎二監督もアイドル主演の映画が多いですよね。薬師丸ひろ子主演の『翔んだカップル』('80)や『セーラー服と機関銃』('81)、工藤夕貴主演の『台風クラブ』('85)、牧瀬里穂主演の『東京上空いらっしゃいませ』('90)って、改めて挙げるとすごいラインナップですね。
渡辺 彼も少女好きだったのよね。
宇田川 だけど、いじめるのが好きなサディスティックな人が撮ってる感じがして、ぼくはあまり好きじゃなかった。
――それは相米監督自身じゃなくて、映画の中から感じるんですか?
宇田川 映画から感じることを言ってるんですよ。相米慎二ご本人には会ったこともないけど、なんだか抑圧的で。
渡辺 それは具体的にはどういうところに感じるの?
宇田川 長回しでなんでもやらせたり、みっともない格好を平気でやらせたり。『台風クラブ』の大西結花なんて、見ていて痛々しかったもの。俳優として成長させるためにあたえる試練なんでしょうけど、きびしい父親的な視線ですよね。
渡辺 長回しって演じる素人に近い子たちに相当な苦痛を強いるんでしょうね。私は工藤夕貴しか覚えてないなぁ。
ジャンルの分業制が進んでアイドルも多様化
――宇田川さんが求めるアイドル像ってどんなものですか?
宇田川 とくにないんですけど、佐藤江梨子のように誰も持っていないボディを持っているとか、そういうのがいいですね。山口百恵みたいに「国民的アイドル」になってしまうと、「もうぼくのものじゃない」って感じがしてひいてしまう。かといって、誰も知らないようなミクロな人でもつまらない。
渡辺 それはファン心理ね。私なんかは佐藤江梨子をアイドルだということに違和感を感じるわ。松浦亜弥とか、ちょっと前の内田有紀や小泉今日子とかだったらわかるけど、彼女の場合はあまりに肉体が立派すぎて親近感を持てない。
宇田川 そういうところはあるかもしれません。でも、サトエリもアイドルだと思いますよ。ただし、グラビア・アイドルという形に分業化されたアイドル。昔はアイドルといえば歌もうたうし、映画にも雑誌にも出る何でもする存在だったのに、最近はだんだん分業化されていってますよね。セクシーアイドルとか、バラドル(バラエティ番組のアイドル)なんてものもありますしね。
渡辺 アイドルといえば、昔はどんなにヘタでも歌をうたってたもんね。日活のスターもうたわせられ、踊らされた。映画の上映前にスターが出てきて挨拶してうたうのがファンへのサービスだった。
宇田川 しかし、70年代、80年代のアイドルはみんな歌がヘタでしたよね。
渡辺 ヘタでもいいのよ。かわいいからご愛嬌で済んじゃうもの。大人になってそれが許されなくなったら、アイドルは卒業。
宇田川 でも、最近のアイドルはあまりにもフツーっぽい子が多いですね。むかしのアイドルは、歌が下手でも、みんながよろこんでゆるしちゃうくらいかわいかった。アコムのCMで話題になった小野真弓なんてどこにでもいそうな顔でしょ。それで歌をうたってるわけでもない。なんで人気があるのかわからない。あの人がアイドルなのかどうかも、もはやぼくにはわかりませんが。
渡辺 宇田川さんは古い時代のアイドル・ファンなのよ。キレイなのに見慣れると、ああいうふつうぽい娘の水着姿が見たいと思うのよ(笑)。
宇田川 すごいオタクになると、売り出してまだ1週間ぐらいの誰も知らないようなアイドルを追っかけたりして。
渡辺 それってアイドルって言うの?
宇田川 一応、アイドル業務は始めてるわけだから、れっきとしたアイドルですよ。昔、岡田嘉子が出ていた『隣の八重ちゃん』('34)って映画があったでしょ。あれは一般的な言いまわしにまでなったけど、英語で言えば“ガール・ネクスト・ドア”。というのは、親しみやすいって意味ですよね。
渡辺 だいたい日本の男はキレイな娘よりも、親しみやすいかわいい女の子が好きなのよ。キレイすぎは手が届かない。でも、かわいいあの子ならなんとかなるかも…なんて。なりっこないのにね。弱気で情けないわ。
――親しみやすい方が手に届く感じがするし、想像力が膨らむから、ハリウッド・スターのようなゴージャスさよりもいいんでしょうね。
宇田川 いや、「ゴージャスな女にどう食いつくか」っていうふうに、想像力を鍛練しなきゃダメですよ。
渡辺 世のアイドル・オタクに捧げる宇田川さんからの助言です(笑)。出てきたばかりのアイドルを追っている人、自分の幻想に過ぎないってことに早く気づきなさい! |
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