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渡辺祥子 宇田川幸洋

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2003.12.1 UPDATE  



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たかがハリウッド映画とあなどるべからず!?

『ラスト サムライ』 12月6日より丸の内ピカデリー1ほかにて公開
西洋化を推し進める明治政府と、それに対抗するサムライたちの戦いをえがいたトム・クルーズの最新主演作。
(C)2003 Warner Bross.Ent.All Rights Reserved
――今度、トム・クルーズ主演の『ラスト サムライ』が公開されますが、クエンティン・タランティーノ監督の『キル・ビル』といい、日本のチャンバラをテーマにしたハリウッド映画の公開が続きますね。日本でも一時期、“時代劇ブーム到来”と言われていましたが、ハリウッドでもいずれチャンバラブームが来る可能性ってあるんでしょうか?

渡辺 『ラスト サムライ』がアメリカでヒットしたら、それもあるわね。ただ、私としては、刀で人を斬るシーンが増えると思うとイヤだなぁって思う。だって、恐いじゃない、刀って。刃物がひるがえってギラリと光る瞬間なんて、思わず息をのんじゃう。見ていて痛い。

宇田川 今やクンフーもアメリカ映画に普通にとり入れられている時代だから、日本刀の斬り合いも普通にとり入れられる可能性はありますよね。『グリーン・デスティニー』('00)は中国の話だから当然だし、『マトリックス』シリーズ('99〜'03)はSFだからまだいいとして、『ヤング・ブラッド』('01)なんて三銃士の話なのにクンフーをやっていた。そういう西洋の時代劇で普通にクンフーをやられてしまうと、次は西部劇や中世騎士道もので日本刀を振りまわしても不思議じゃない。

――こうなったら何でもありって感じですね。

宇田川 日本の時代劇の殺陣を最初に映画にとり入れたのは、『スター・ウォーズ』('77)ですよね。でも、あれは動きがのろすぎて、殺陣というにはあまりにお粗末なものだった…。

渡辺 衣装も柔道着のようだったしね(笑)。『スター・ウォーズ』に殺陣をとり入れられたのは、そもそもジョージ・ルーカスが黒澤明監督に傾倒していたからでしょ。だから、『ラスト サムライ』を見て向こうの人がおもしろいと思えば、チャンバラが世界に広がる可能性はあるわよね。

宇田川 でも、『ラスト サムライ』を見ていると、『スター・ウォーズ』の頃と比べて殺陣が段ちがいにうまくなっていますよね。『スター・ウォーズ』シリーズも最近の作品ではスピードがあるけど。『ラスト サムライ』は殺陣が本当にうまくて驚いた。

渡辺 真田広之はもともと殺陣がうまい人だから周りの人も影響されたってこともあったんだろうけど、きっとすごくいい殺陣師を雇ったんでしょうね。

宇田川 でも、不思議なことに殺陣師がクレジットされてないんですよね。あんなにも長いクレジットなのに(笑)。

渡辺 『ラスト サムライ』で予想以上の大役だった原田眞人さんに聞いたんだけど、日本人じゃなくてアメリカ人のアクション監督だったそうよ。ま、刀を使うところは日本の殺陣師が振付けたのでしょうが。

『マトリックス リローデッド特別版』
ワイヤーアクションを用いた斬新なアクションが話題を呼んだ『マトリックス』シリーズの第2弾。
発売:ワーナー・ホーム・ビデオ
¥2980(税別)
THE MATRIX RELODED,Program Contact,Artwork and Photography,Package Design and Summary 2003 Warner Bros.Entertainment Inc.
THE MATRIX RELODED,Characters,names and related indicia are Trademarks of Warner Bross.Entertainment Inc.All Rights Reserved.
宇田川 『マトリックス』シリーズのユン・ウォーピン(ユエン・ウーピン)のように、ちゃんと名前を出せばよかったのに。『ラスト サムライ』は、ほかのアメリカ映画と違って、編集でアクションをごまかしてないし、きちんと流れのあるアクションですごくいいですよね。よく見ると、どういう技を使っているかがちゃんとわかる。そういう映画がぼくは好き。例えば、最初の合戦で、トム・クルーズが馬で走ってくるサムライに槍で突かれて、それを手で受けとめて相手を投げ飛ばすシーンで、ひねり方までがわかったから、おみごと、と思いました。

渡辺 本当にていねいにつくっているわよね。日本文化に対しても敬意を払っているし、誠実であろうとしている努力が見えたからうれしかったわ。監督のエドワード・ズウィックは、もともと『グローリー』('89)なんかを撮って歴史に対して真撃派だし、ハーバード大学で日本文学と歴史を専攻していた人だから、こういう映画を作るのが夢だったんでしょうね。

――トム・クルーズも「こんな殺陣をやってみたかった!」って言ってましたよね。

渡辺 そうね。つくった本人がいちばんうれしいんじゃないかな。「ぼくたちにも本物のチャンバラ映画がつくれた!」ってね(笑)。だけど、最後まで見ていると、日本のチャンバラ映画に少しでも近づけようと一生懸命にがんばっているのが見えて、レプリカを見せられたような気もした。外国文化をその中に入ってえがこうとするときの宿命かもしれないけど、よくできた映画なのに違和感が残ったというのも正直な感想。

宇田川 そうですね。完全に外側からえがくのだったらアラが出ないかもしれないけど、内側からもえがこうとするとどうしてもそうなりますよね。


思いもよらぬ渡辺謙の存在感にうれしい悲鳴が!

『ラスト サムライ』
代々続くサムライ一族の長、勝元を演じる渡辺謙。堂々たる存在感を発揮し、アカデミー賞ノミネートのうわさも!?
(C)2003 Warner Bross.Ent.All Rights Reserved
渡辺 『ラスト サムライ』には日本人キャストもたくさん出ているけど、その中でも渡辺謙はとてもよかったわね。

宇田川 ぼくは、渡辺謙ってテレビの人だと思っていたからあまり見たことなかったけど、いい俳優ですね。この映画に関していえば、彼の存在感が映画をおもしろくしていると思う。

渡辺 彼が演じていた勝元というキャラクターは、誰をモデルにしているのかしら? 

宇田川 いろんな人から少しずつとったんじゃないですか。史実としては「西南の役」をおこした西郷隆盛なんかがヒントになっているんじゃないかな。あれは、まさに1877年(明治10年)のできごとですし。

渡辺 私は、勝元という名前からは勝海舟を想像して、容姿からは時代は全然ちがうけど武田信玄を思い出した。

宇田川 そういえば、最後まで「勝元」って、名字なのか、名前なのかわからなかった。なんか小唄の師匠みたいな名前ですね(笑)。

渡辺 冗談はさておいて、渡辺謙の存在感はそういったものを吹きとばしてしまうくらいのパワーがあったと思うわ。

――天下の大スター、トム・クルーズと並んでも、まったく引けをとってなかったですよね。

宇田川 渡辺謙のほうが体格的に大きいのがいいですよね。

渡辺 そうなの。トムと真田広之が同じぐらいの大きさで、渡辺謙がひとまわり大きいでしょ。だから、役柄においての関係性と体のサイズがぴったり合っている。でも、トムも偉いわよね。自分でこういう映画を製作して、お山の大将にならないなんて。

宇田川 真田広之はもうちょっと大きい役でもよかったと思うけど。日本では、渡辺謙と真田広之だったら、どっちのほうがランクが上なんでしょうね。

渡辺 そりゃ、真田でしょ。渡辺謙にとっては、『ラスト サムライ』はもうけ役。ラッキーだったと思うわ。

宇田川 でも、真田広之と渡辺謙の役柄が逆だったらおかしいですよね。渡辺謙って体の大きさが、人間の器の大きさに見えるじゃないですか。そこがいい。

――『ラスト サムライ』であれだけの存在感を見せたんだから、渡辺謙がアカデミー賞にノミネートされたり、ハリウッド映画への出演オファーが来たりするかもしれないですね。

渡辺 三船敏郎しかりで、外国映画で名前が売れたらそれなりに役は来るだろうけど、ハリウッド進出なんて考えないほうが身のためよ。アジア系の人が合理主義的なハリウッドの世界に潜り込むのは難しいからね。お金だけほしいなら別だけど、名前も実績も上げたいと思うなら甘い考えは捨てたほうがいい。

――とはいえ、渡辺謙にとっては、立派に代表作になりえる作品に出会えてよかったですよね。最近は俳優としてではなく、私生活で取り上げられることのほうが多かったから。

渡辺 本当よねぇ。高倉健に次ぐ、新しい“ケンさん”が出てきたって感じ。

宇田川 まぁ、松平健って人もいますけどね(笑)。

渡辺 いまの発言には、なんだか悪意を感じるわ(笑)。


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