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PROFILE (HTML版)
渡辺祥子 宇田川幸洋



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人がなかなか死なない最近の映画はどこかヘン!

――今でこそワイヤー・アクションはハリウッド製アクションの主流となっていますが、その本家である香港ではいつごろからつかわれていたんですか?

宇田川 60年代からありましたよ。キン・フーの『龍門客棧』('67)でも、これは台湾映画ですが、つかわれている。当時は今と比べて技術的にはうまくないから、俳優が飛ぶシーンで瞬間的につかわれるなど、動きも直線的なものでしかなかった。体をつるすのに使うワイヤーも、見えちゃいけないから昔はピアノ線のような細いものをつかっていて危険だったけど、今はいくらでもCGで消せますからねぇ。メーキングのフィルムを見ると、ずいぶん太いロープをつかったりしてますよね。ワイヤーワーク自体は、たとえば最近BS2で放映されたサイレント時代の『ピーターパン』('24)なんか見ると、もう非常にうまくつかわれてますよね。原作の舞台からの技術なんでしょうけど。

渡辺 後からCGで消すという技術に驚いたのは、シルベスタ・スタローン主演の『クリフハンガー』('93)が最初だったと思う。あれは、楽しかった。

宇田川 今からちょうど10年前ですね。ハリウッドでそういった視覚効果が導入される前は、格闘技で見せるアクションがさかんでしたよね。それを導入したのが、ブルース・リー。その後、彼と共演したチャック・ノリスとかの、白人でクンフーを使える人や、アーノルド・シュワルツェネッガーやシルヴェスタ・スタローン、スティーヴン・セガールといった筋肉と格闘技で見せる人たちが出てきたんですよね。ジャン=クロード・ヴァン・ダム、ドルフ・ラングレンとか。それが今はCGに取って代わられたから、肉体系俳優の影が薄くなっちゃた。

渡辺 私がブルース・リーを初めて知ったのは、ジェームズ・ガーナー主演の『かわいい女』('69)。あの時は本当にびっくりしたわ! 「キーッ!」とか奇声を発するし、ひとりで無駄に強いの(笑)。

宇田川 天井に飛び上がってライト蹴りで割ったり、飛びすぎてそのまま窓から落ちてっちゃたり、もう無茶苦茶でしたよね(笑)。

渡辺 ただ、肉体は使ってたわねぇ。今のアクションに出ている人たちとは違って、ブルース・リーは触れれば熱いというのがわかる。

――CGやワイヤーの技術が進化したから可能になったこともたくさんあるんでしょうけど、そのせいでキャラクターが完全無欠になりすぎてリアルさを失ってしまったということなんでしょうね。

『ターミネーター3』 公開中
アーノルド・シュワルツェネッガー主演の人気シリーズ第3弾。女型ターミネーターとの壮絶な戦いが展開。
TM(C)2003 IMF 3
渡辺 最近のアクションって何をやっても死なないでしょう? 『ターミネーター3』もそうだけど、起き上がりこぼしのようにいくら倒しても死なない。人に死んで欲しいわけじゃないけど、“撃たれたら人は死ぬ”という当たり前のことがえがかれなくなった。最初は残酷描写への検閲がうるさいハリウッドらしく、殺しても血を流さない、人が死なない、ということからそうなったのだと思うけど。なんかヘンよ。

宇田川 昔のアクションのほうが、みんな「痛い」演技がうまかったですよね。リチャード・ウイドマークなんて『ワーロック』('58)でナイフで手を刺されて、「ギャーッ!」ってものすごく痛そうな悲鳴をあげて、あれにシビレた。『アラモ』('60)でも銃剣に串刺しにされて「ギャッ!」という死にざまがよかった。今は血が大量に出たり、残虐な描写は増えたけど、「痛い」演技のシビレるのや美しい「壮絶な死にざま」がなくなってきた。

渡辺 そう。だから、いつまでも死なない映画は見ていて疲れちゃうのよ。昔の西部劇のように、“撃たれたらすぐ倒れて死ぬ”という簡単なのがいい。


ハリウッドの分業制がアクションをダメにした!?

――ここまではCGやワイヤー・アクションといった技術的なことの話が多かったのですが、監督的な視点で見たらどうなんでしょうね。今と昔ではやはり何か変わってきているのでしょうか?


『ダーティハリー』特別版
クリント・イーストウッド主演の刑事アクション。シリーズ5作まで作られたが、ドン・シーゲルが監督を務めたのは1作目のみ。
発売:ワーナー・ホーム・ビデオ
¥1500(税別) ※期間限定価格
宇田川 いわゆるアクション監督という感じの人がいなくなりましたね。昔は『大脱走』('63)のジョン・スタージェスや、『ダーティハリー』('71)のドン・シーゲルなど、“この監督がカット割りから何から、すべて自分のスタイルでアクションを演出しているからおもしろい”というのがあった。でも、今は7、8台のカメラを同時に回しておいて、フィルムのつなぎは編集に、アクションはスタント・コーディネーターにまかせてしまうから、監督のスタイルもなにもない。

渡辺 確かにハリウッドのアクション大作は、分業で撮るようになってからおもしろくなくなったわね。

宇田川 昔は有名なスタントマン出身でスタント監督だったハル・ニーダムが監督になったり(『トランザム』('77))もしましたよね。彼の場合はおもしろいアクション・シーンがつくれるから監督になったんだけど、今だとそんな必要もないのかも。


『フェイス/オフ』
ジョン・ウー監督のバイオレンス活劇。二挺拳銃による銃撃戦など、スピーディかつ華麗なアクションが満載!
発売:ブエナ ビスタ ホームエンタテインメント
¥2500(税別)
(C)Touchstone Pictures and Paramount Pictures.
――そういう意味では、『フェイス/オフ』('97)や『M:I-2』('00)を撮ったジョン・ウーは、今のハリウッドではアクション監督と名乗れる唯一の監督だと思います。

宇田川 ジョン・ウーは、香港でクンフー映画の助監督としてたたきあげ、一方でシネフィルとしてメルヴィルや石井輝男に心酔してた人ですからね。ちゃんと彼じゃないとできないカット割りをやって、独自のキャメラワークを作り上げてます。やっぱりアクション描写は監督のスタイルが感じられないとおもしろくない。


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