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『マトリックス』がアクションの性質を変えた!?
――考えてみればこれまでとり上げてきたテーマは、ある意味どれも“哀愁ただようジャンル”ばかりでした(笑)。ですが、今回のテーマは王道中の王道ジャンル、アクションです! アクションといえば、先ごろ公開されたものだけでも『マトリックス リローデッド』('03)、『ターミネーター3』('03)、『チャーリーズ・エンジェル フルスロットル』('03)と数はありますが、派手さだけが先行しているようなイメージが…。
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『マトリックス リローデッド』
上映中
斬新なアクション・シーンで旋風を巻き起こした、アンディ&ラリー・ウォシャウスキー兄弟によるシリーズ第2弾。
(C)2003 Warner Bross.All Rights Reserved.
(C)2003 Village Roadshow films(BVI)Ltd. |
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宇田川 『マトリックス』シリーズが生まれたことで、アクションの性質が変わってきた気がしますよね。どれも<アクション映画>と断言していいのか疑問に思うときがある。
渡辺 CGとワイヤー・アクションが出てきてから、アクションのつくり方がまったく違ってしまったものね。キャラクターが超人的になってしまって、うまくはいえないけど人間的な魅力みたいなものをもたないものが多くなった。『マトリックス』('99)も1作目を見たときは“アクションにはこういう方法もあるんだ!”とたのしんだけど、今度の『マトリックス リローデッド』には驚きがなかったわね。
宇田川 ぼくは高速道路を走るトラックの上でのアクション・シーンで、やっと目がさめた気がしました。べつに、それまで寝ていたわけじゃないけど(笑)。
渡辺 『マトリックス』ってアクションシーンがたくさんあるから、映画を見た直後は肉体が反応しておもしろいと思うんだけど、キャラクターに人間味がないから1時間、2時間と時間が経つにつれ忘れてしまうのよね。
宇田川 最近のアクション映画の中でもいちばん人工的で、肉体の感覚から遠いんだと思うんですよ。高速道路のシーンだけは運動神経を刺戟されるけど、キアヌ・リーブスがクンフーをやってもどうも刺戟されないんですよね。
渡辺 人間が動いてやっているというよりも、機械を使って体の動きだけを見せる器械体操のようでね。キアヌの顔もノッペリしちゃったし。
――でも、演じているキアヌ・リーブスやキャリー・アン=モスらキャストたちは、撮影前にそうとうトレーニングを積んだみたいですよ。
宇田川 あれだったら、トレーニングなんて必要ない(笑)。結果(本編)を見てしまうとね。『マトリックス』は、アニメーションの絵や人形の変わりに人間がはめ込んであるだけだもの。『マトリックス リローデッド』の中で、キャリー・アン=モスがビルから拳銃を撃ちながら落ちていく場面があるでしょう。あれなんて大友克洋の劇画みたい。ああいうものは劇画で見た方がおもしろい。動きを自分で想像するわけだから、それをそのまま実写で動画にすると、その労力たるや大変なものだろうけど、こんどは逆に静止している劇画の絵を想像してしまうという妙なことになってくる。
渡辺 そうよね。どうせ実写にするなら、人間の存在感を見せて欲しいと思うもの。でも、最近はVFXやワイヤーアクションといった技術的なことばかりに力を入れて、そういう人間的魅力にあふれたアクションがなくなってしまった。
――『マトリックス』もそうだし、『X-MEN』('00)や『スパイダーマン』('02)といったアメコミを映画化したものもそうですが、ハリウッドでは今、ヒーローものの映画を次々と量産してますよね。でも、そのわりにはどれも似たような映画が多いと思うのですが…。
渡辺 ハリウッドのひとつのやり方として、大金を投じて大作をつくることでマーケットを世界的なものに拡大して、大金を回収したいわけ。ただし、映画がコケると損害も大きいわよね。そこで、モニター試写でいろんな人に映画を見せて、「あそこがまずい、ここがまずい」といわれてチマチマ直していく。そうすると、最大公約数的な作品になってしまって、よけいにおもしろくない映画になってしまう。監督の個人的な力で引っ張っていって、「これがいいんだ!」っていってつくる映画のほうがはるかにおもしろいに決まってるんだから。
――でも、逆に『マトリックス』は前作が大ヒットしたことでアンディ&ラリー・ウォシャウスキー監督の権限が強くなって、製作のジョエル・シルバー自身はよく理解できないといっていたそうです。
宇田川 『マトリックス』を見た人にアンケートをとってみたいですよね。 はたして何%の人が筋をわかっているのか、これで本当に満足しているのか、聞いてみたい。
渡辺 あの映画を見ていると、監督自身も理解してないんじゃないかと思っちゃう(笑)。私的にはエージェント・スミスが自分をコピーして増殖させていくのが、パソコンのコピー&ペーストを覚えたばかりだからおもしろかった。ただし、あれをおもしろがるのは、世界でも私だけでしょうけど(笑)。
宇田川 日本版パロディとしてエージェント・スミスを田中要次にやらせたら絶対におもしろいと思うんだけど。“サブリミナル名優”田中要次が100人出てくる(笑)。あと、大杉漣と田口トモロヲが100人ずつで対戦するとか(笑)。
アクションは役者の苦労が見えないとダメ
渡辺 宇田川さんは、最近おもしろいと思えるアクションってありました?
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『クローサー』
スー・チー、ビッキー・チャオ、カレン・モクというアジアの人気女優が豪華共演したサスペンス・アクション。
発売:ソニー・ピクチャーズ
¥3800(税別) |
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『チャーリーズ・エンジェル』コレクターズ・エディション
キャメロン・ディアス、ドリュー・バリモア、ルーシー・ルー共演の痛快アクション。現在、続編『チャーリーズ・エンジェル フルスロットル』が公開中。
発売:ソニー・ピクチャーズ
¥3800(税別) |
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宇田川 『クローサー』('03)は、人間的魅力がちゃんとあっておもしろかったですよ。スー・チーとカレン・モクが脚線美を見せつけて戦うところがかっこよかった。『チャーリーズ・エンジェル』('00)も1作目は漫画みたいでたのしかったな。チャウ・シンチーの『少林サッカー』('01)にしてもそうなんだけど、たとえCGを使ったとしても、ぼくとしては、ああいうバカバカしい使い方だったら大歓迎!
渡辺 私は『チャーリーズ・エンジェル』を見たときに、あまりにロボット的な動きでアクションという感じがしなかったな。『X-MEN』を見たときもそう思った。だから、“『チャーリーズ・エンジェル』のアクションと『マトリックス』のアクションはどう違うの?”といったら、私にとってはみんな一緒で人工的。
――では、渡辺さんがおもしろいと感じるアクションとは?
渡辺 肉体酷使! 若き日のジャッキー・チェンとか、『007』シリーズのショーン・コネリー。『ロシアより愛をこめて』('63)のオリエント急行のコンパートメントの中でのロバート・ショーの殺し屋との戦いとかね。『007』のアクションは、肉体を駆使して役者が苦労しているのが見えるからいい。私の場合は、おもしろいアクションが見たいけど、だからといってワイヤー・アクションでみせる香港製のものが見たいわけじゃないの。『インディ・ジョーンズ』シリーズや『ナバロンの要塞』('61)のような、ストーリーを引き立てるためのアクションが好き。
宇田川 3代目ボンドのロジャー・ムーアの場合は、スタントマンが、がんばっていました。けっこう顔が見えてたりして(笑)。
渡辺 それでもいいの! 人間ががんばっていることには違いはないんだから。 |
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