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渡辺祥子 宇田川幸洋



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“すれ違い”こそメロドラマ!は、日本映画の大きな勘違い

――日本のメロドラマといえば、『君の名は』('53〜'54)は大流行したんですよね? 真知子巻きは、私でも知っているぐらい有名(笑)。


『君の名は 第1部 完全版 デジタルニューマスター』
佐田啓二&岸恵子共演で大ヒットした和製メロドラマの名作。
発売:松竹ホームビデオ
¥3800(税別)

『愛染かつら(総集篇)』
青年医師と看護婦の恋を描いたメロドラマ。主演は、上原謙&田中絹代のふたり。
発売:松竹ホームビデオ
¥3800(税別)
宇田川 『君の名は』は、『哀愁』が原型だからね。『君の名は』は翌年に岸恵子と佐田啓二の同じコンビで『亡命記』('55)という映画もつくられましたね。『君の名は』以前に大ヒットしたのが、子持ちの未亡人看護婦と青年医師の恋をえがいた『愛染かつら』('38)。このふたつが、日本における“すれ違いメロドラマ”の代表格なのかな。

渡辺 私が松竹のメロドラマで思い出すのは、桑野みゆきの『あの橋の畔で』('63)。内容はよく覚えてないけど、これもまた男女がすれ違うの(笑)。

――やはり何かしらのすれ違いや軋轢がないと、メロドラマは成立しないんですね。トントン拍子でうまくいったら、お涙頂戴にはならない(笑)。

宇田川 いや、だからそれは、せまい意味のメロドラマの。そのまたサブジャンルの話でしょ。日本のメロドラマは、すれ違うのだけをメロドラマだと勘違いしてますね。主人公たちをずっとすれ違わせたままにしておけば必然的に時間も延びるし、映画会社的には好都合(笑)。『君の名は』は第3部まである。

――ほかの国でもメロドラマのブームってあったんですかね?

宇田川 気持ちの悪いブームだな。メロドラマ・ブーム(笑)。

渡辺 結局、映画はどれも波瀾万丈で泣かせるメロドラマだから、ブームにはならなくてもたくさんつくられてはいるわよ。ダグラス・サークを敬愛していたファスビンダー監督の『リリー・マルレーン』('81)もそうだし、彼の映画のヒロイン女優だったハンナ・シグラが出た映画なんて、みんなメロドラマでしょ。

宇田川 台湾では70年代に恋愛もののメロドラマがすごく流行ったことがあるんですよ。女優はいつもブリジット・リンと林嬌鳳の2人で、原作もチャン・ヤオという同じ人。そこに秦漢と秦祥林の男優2人を組み合わせて、大量生産していた時代があった。


『花様年華』
ウォン・カーウァイ監督が、トニー・レオン&マギー・チャン共演でえがいた大人のロマンス。
発売:松竹ホームビデオ
¥4700(税別)

『さらば、わが愛/覇王別姫』
京劇の覇王別姫を得意とする幼なじみの俳優2人の生きざまをえがく壮大なドラマ。監督はチェン・カイコー。
発売:アスミック・エース
¥4700(税別)
『さらば、わが愛 覇王別姫』で女形を演じた故レスリー・チョン(注:レスリー・チャン)
渡辺 そういえば、香港には『花様年華』('00)というすばらしいメロドラマがあるじゃない!

宇田川 あれはメロドラマなんですかね? 近所でおかゆを買ったりしているだけで、波瀾万丈な感じがしない。

渡辺 気持ちがメロドラマなの! 美男美女の話だし。

宇田川 確かに気持ちはすれ違ってますね(笑)。それにしてもトニー・レオンはいい俳優ですよね。どこか佐田啓二に似ている。

渡辺 目つきがやるせないのよねぇ。あれを見ているだけで、“はぁー、ウフフ…”ってなっちゃう。

宇田川 レスリー・チョン主演の『さらば、わが愛/覇王別姫』('93)もメロドラマ。ヒットする映画にはメロドラマの要素があるのかもしれませんね。でも、メロドラマにはやっぱり美女が出てほしいなぁ。

一同 (笑) 

宇田川 ヒロインが美人じゃないと安心して見ていられないでしょ。例えばマイク・リーやケン・ローチの映画に出ているような人たちがメロドラマをやったらイヤじゃないですか? あ、でもそれをねらってやってるのがアキ・カウリスマキか。『過去のない男』('02)はぶさいくな中年男女のメロドラマで、奇妙な味を出してましたね。ああいうのはいいなぁ。

渡辺 宇田川さんって、やっぱり美しくない女には冷たいわけ?

宇田川 えっ、そんなことないですよ。ケース・バイ・ケース(笑)。その映画にぴったりはまってれば愛せますよ。たぶん。

渡辺 でも、確かにメロドラマは美男美女が基本よね。キャシー・ベイツがジャック・ニコルソンとすれ違ってもね…。

――そうですね。メロドラマって女性のヒロイン願望を満たすためのものでもあるから、男も女も憧れるような美しい人が演じないと、どうもしっくりこない。

渡辺 その点、『エデンより彼方に』は合格よね。ジュリアン・ムーアはとてもきれい。



メロドラマははたしてジャンルか、それとも…

――ここまでメロドラマについて話してきてわかったのは、“メロドラマは美男美女でなければならない”ということ(笑)。そのほかにメロドラマを構成するのに必要不可欠な要素ってありますか?

渡辺 ご都合主義! 都合のいいときにすれ違うから(笑)。それと、リアリズムの反対かしらね。だからダグラス・サークはユニークなのよ!!

宇田川 あと、男がデクノボー! 『慕情』のウィリアム・ホールデンだって、ほかの映画では頭を使っているのに、なんであれだとあんなにバカなんだろう。イヤになっちゃう(笑)。

渡辺 ウィリアム・ホールデンは40〜50年代ハリウッドを代表するドル箱スター。『第17捕虜収容所』('53)でオスカーをとり、兵士から流れ者、プレイボーイまでなんでもやっていたけど、軽さを装って、じつは賢い役が多かったかも。大河メロドラマの『レジェンド・オブ・フォール 果てしなき思い』('94)だって、三兄弟に父親までみんなバカ。キレイな男がいたから見ていられた。でも、ジュリア・オーモンドが美人じゃないから、どうもいまひとつ盛りあがらない。

――なるほど(笑)。でも、これまで出てきた作品を見ると、やはりメロドラマって幅が広すぎてひとつにはくくれない感じですね。

宇田川 ある意味、『スター・ウォーズ』('77)だってメロドラマだといえるから。

渡辺 そう。結局、映画はみんなメロドラマだから。題材はどうでもよくて、波瀾万丈で泣かせさえすればいい(笑)。実際には、“ままならない”ことの悲しさに見る者が涙を流すのがメロドラマの王道かも。ジャンルはとわない。

宇田川 ジャンルについて書いてある海外の本を見ると、いまここでこうして話してきた日本語のメロドラマという意味と微妙にちがう気がする。日本語の「メロドラマ」よりももっと広い幅のものがふくまれると思うんですよ。広くいえば、映画全体をメロドラマ的につくるか、リアリズム的につくるか、ということになる。

渡辺 あとは、西部劇のなかにメロドラマ的な要素があるとか、そういった要素的なもののひとつでしかないんじゃないかな。だから、メロドラマの要素が多いか、少ないかで映画を見るのもいいかも。“この監督、メロドラマ指数が高いなぁ”とか思って調べてみると、その監督の意外なルーツがわかったりしておもしろいかもね。とはいえ、私も宇田川さんもメロドラマには向かない性格だから、メロドラマ的なものを見るとついイライラしちゃうんだけど(笑)。




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