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第1回:『シカゴ』、あるいは21世紀的ミュージカル進化論
先月までの「喜怒哀楽」
4月 4月
PROFILE (HTML版)
渡辺祥子 宇田川幸洋


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宇田川幸洋的西部劇の美しさとは!?

――そもそも宇田川さんはなぜ西部劇が好きなんですか?

宇田川 西部劇には映画的な美しさというものを感じたんですよ。日常生活では馬に乗ったり、拳銃を撃つことなんてできないじゃない? そういう非日常的な世界に一種の美学みたいなものがあって、映画的に見て美しいなぁって思った。要するに、子供ごころにカッコいいな、と。特にジョン・フォードの映画なんて、不思議と砂埃までもがキレイに見えるんですよね。まぁ、美しくない西部劇もあるけど…。

――美しくない西部劇というと、例えば?

宇田川 マカロニ・ウエスタンの脂ぎった傷だらけの感じ、あの汚なさが最初はイヤだったなぁ。それに、マカロニは、単なる撃ち合いのおもしろさで見せているだけだったから。でも、だんだんマカロニはマカロニ流の美しさというのも生まれて育っていくんですよ。

――先ほどいわれていたような男の純粋さはマカロニ・ウエスタンにもあるんですか?

渡辺 単なる娯楽映画よね。男の純粋さなんて、みじんも感じない。宇田川さん的には、『真昼の決闘』('52)のようなリアリズムを追求した西部劇はどう? 現実の時間どおりに物語を進めることで緊張感を高めていく手法をとったフレッド・ジンネマン監督の映画。でも、ハワード・ホークスは、あれを見て「これは西部劇じゃない!」って反発して『リオ・ブラボー』を作ったのよね。

宇田川 『真昼の決闘』は現代劇ですよ。あの時代に汽車が定刻どおりに着くなんてありえない(笑)。リアリズムというのも、現代人の考えかた、心理を投影させたものでしょう。

――最近だと、西部開拓時代を舞台にしたジャッキー・チェン主演の『シャンハイ・ヌーン』('00)もありましたが、宇田川さんから見たら、西部劇をちゃかしたような映画は許せないんじゃないです?


『真昼の決闘』
'52年度アカデミー賞主演男優賞など、4部門に輝いたゲーリー・クーパー&グレース・ケリー共演作。
発売:東北新社
¥3800(税別)

『シャンハイ・ヌーン』
ジャッキー・チェンならではの笑いとアクションが満載のコメディー西部劇。
発売:ポニーキャニオン
¥4700(税別)
宇田川 ちゃかすのは全然かまわないんですよ。ボブ・ホープの『腰抜け二挺拳銃』('48)とか、マルクス兄弟の『マルクス二挺拳銃』('40)とか、コメディアンが西部へ行って、西部劇の約束ごとをちゃかすというのは定番だし、それがいくらでも許容できる大きなジャンルだったんですよね、西部劇は。でも、『シャンハイ・ヌーン』もそうだし、『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』('90)もそうだけど、西部の描写に美しさがなくなったよね。本家のアメリカがまるでマカロニ・ウエスタンみたいに汚なくなっちゃって…。今だと、アメリカのものよりも、『グリーン・デスティニー』('00)のような中国映画に西部劇的な美しさを感じますね。チャン・チェンが馬で走るシーンなんて、『シャンハイ・ヌーン』なんかよりも、よっぽどちゃんとした西部劇だし、中国の砂漠や岩石のほうが、よっぽどかつての美しかった西部を思い出させます。なんなんだろうね。

渡辺 昔の西部劇って様式美や形式美の世界で、男ごころに男が惚れたの。マカロニの洗礼を受けて、本家までもがどんどん汚くなっちゃったのね。

宇田川 そう、しかもそれがリアルだと勘違いしているから始末が悪い。


女性的視点から見た楽しみ方は…ズバリ“男”!

――西部劇ファンって圧倒的に男性の方が多いと思うんですが、女性の渡辺さんから見た西部劇の楽しみ方は?

渡辺 私の場合は、男! 西部の男はマジメで堅物で石頭。ヘンリー・フォンダが最高ね。美しいし。

宇田川 ヘンリー・フォンダの西部劇は美しいですね。『荒野の決闘』、『アパッチ砦』('48)、『牛泥棒』('43)、『胸に輝く星』('57)…。

渡辺 クリント・イーストウッドも美しいとは思うけど、宇田川さんと同じで私もマカロニ・ウエスタンはちょっと…。でも、マカロニの中でもイーストウッドの名前を一躍有名にした『荒野の用心棒』('64)と『夕陽のガンマン』('65)は別格。

宇田川 ぼくは『荒野の用心棒』はそれほどいいとは思ってないんですが。でも、セルジオ・レオーネの2作目以降はみんな好きです。『夕陽のガンマン』や『続・夕陽のガンマン』('66)なんて、今見ても断然おもしろい。マカロニ・ウエスタンの傑作です! それに『夕陽のギャングたち』('71)!


『荒野の用心棒』
黒澤明監督の『用心棒』を原作にしたマカロニ・ウエスタンの名作。主演クリント・イーストウッド。
発売:パイオニアLDC
¥3800(税別)

『続・夕陽のガンマン』
セルジオ・レオーネ監督&クリント・イーストウッド主演作。
発売:20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント
¥3980(税別)

『ヤングガン』
悪名高いビリー・ザ・キッドと5人の仲間たちの青春時代を若手スター共演で描く。
発売:キングレコード
¥3980(税別)

『許されざる者』
イーストウッドがオスカーに輝いた代表作。※特別版 スーパーエディション
発売:ワーナー・ホーム・ビデオ
¥2980(税別)
渡辺 あと、若い人たちの西部劇だと、ウォーター・ヒル監督の『ロング・ライダーズ』('80)がカッコよかった。あれも『アメリカン・アウトロー』と同じジェシー・ジェームズ一味の話だけど、彼らがロングコートをヒラヒラさせるのが、もう最高なの! カッコイイってのはあれよ!!

宇田川 あれもたしか『ミネソタ大強盗団』と同じようにジェシーよりもコール・ヤンガーのほうが主役じゃなかったでしたっけ。ハリウッドはときどき思い出したかのように、若手を集めて西部劇を作りますよね。チャーリー・シーンら当時の若手スターが共演した『ヤングガン』('88)なんて、1作目が好評だったから続編まで作られた。あれはビリー・ザ・キッドの話。

渡辺 あと、最近の作品で印象的だったのは、クリント・イーストウッドの『許されざる者』('92)と、シャロン・ストーン主演の『クイック&デッド』('95)かな。『許されざる者』は、もうガンマンの時代じゃないことをはっきり語っている。

――『クイック&デッド』は、女性が主役の西部劇なんて珍しいですよね。

宇田川 女の西部劇ということでは、ニコラス・レイ監督の『大砂塵』('54)が極めつき。大女優ジョーン・クロフォードが黒ずくめの男装で、のちのホラー映画への出演を予感させるような怪演。

渡辺 あれはペギー・リーが歌った『ジャニー・ギター』って主題歌の方が有名よね。『クイック&デッド』は意外と『大砂塵』が原型になっているのかもね。


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